天使

あなたはついさっき死にました。
わたしと何度も愛し合ったあの部屋で、遺書も残さず死にました。
何度も口づけした首筋に、冷たい夜風が吹きました。
あなたは私に言いました。
長生きだけはしたくない。この世界では生きられない。けれど君がそばに居る限り、ぼくは君に尽くしたい。
けれどあなたは死にました。
一人で行くべき世界に逝きました。
あなたはまるで、生まれてくる世界を間違えたみたいな人でした。
優しすぎるあなたの心に世界は残酷でした。
故にあなたは世界に対して退廃的で無関心。
そんなあなたに恋をした。
あなたの愛こそ生き甲斐でした。
だから私はあなたが旅立たないようつなぎとめました。
ですが、うすうす気づいていました。
いつか訪れるあなたの旅立ちに。
天国への階段を一段一段上っていくあなたの後ろ姿に。
もうすぐあなたのかけらは消え去ります。
あなたの声、あなたの匂い、あなたの肉体。
すべて綺麗に消え去ります。
あなたの一部となったわたしはどうしましょう。
わたしも消えてしまおうか。
はじめてあなたを恨みます。
わたしの生き甲斐を奪ったあなたを恨みます。
あなたの胸を何度も殴ります。
ですがあなたは戻りません。
わたしの元には戻りません。
わたしはどうすればいいでしょう。
これは私への罰ですか。
求めるばかりしてきた私への罰ですか。
ならば潔く受け入れます。
あなたの死を受け入れます。
他の人を愛します。
そしてあなたを忘れます。
そしてあなたを見返します。
そしてあなたを愛します。

天使

最後まで読んでいただき、感謝します。

天使

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-29

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