轍のはち

わたしの大好きなお友だち
きょうかなしいことがあったのです
わたしはくすりを買った帰り道
羽がかけた一匹のアシナガバチが
轍の上に落ちているのをみつけました
咲き終わったトキワツユクサのしげる坂に
十一月の日差しはななめにさし
空はへんに晴れていて
こわかったのです
轍の上でもがいていた
ちいさないのちをすくおうと
わたしは 亡骸である
きいろく乾いた
ひとひらのいちょうの落ち葉をひろったまま
立ちすくみました
けれども こわかったのは
ほんとうにこわかったのは
轍の上のちいさないのちだったのです
ゆるしてください
逃げてください
あの草むらまで どうか
ああ さいごのちからを振り絞って
逃げてください と
そうお別れをして坂をのぼりはじめたとき
わたしは車とすれ違いました
それから かえすがえす
懊悩せずにはいられないのです
ああ どうして
わたしの大好きなお友だち
きょうかなしいことがあったのです

轍のはち

轍のはち

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-20

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