土人

松永大毅

土人

土人

とあるアルバイトの求人が孝夫の好奇心を刺激する。それは、摩訶不思議で、いったいなんの目的で行われるのか皆目わからないほど奇妙なアルバイトであったからだ。しかもそのアルバイトの内容は極めて幼稚であって、それに加えてなんの生産性もない。そのアルバイトの内容はこうである。
「政府公認のアルバイト。A県B区の××にある広さ東京ドーム一個分の土地にひたすら穴を掘り続けてもらいます。そして、掘ったその穴をまた埋めてもらいます。ただ、その繰り返しです。雨が降ろうが槍が降ろうがひたすらそれを繰り返してもらいます」

 先の見えない将来。ぼんやりとした不安。不安定な雇用。この頃流行る流言非語。孝夫自身の個人的な不安とどん底の社会的な不安がこの三畳一間のおんぼろアパートを覆い尽くす。世間ではコロナ、コロナとてんやわんやの大騒ぎ。それを煽るメディアやSNS上での侃侃諤諤な議論は孝夫からするとあまりにも醜い小競り合いにしか見えなかった。どう喚こうが無駄なのに……。
コロナ禍は我々に何をもたらしたのか?半年前はいやオリンピックだとか、いや景気回復がなんて盛んに言われていたのだが今ではそれもつゆ知らず。いよいよ景気が後退し始め、オリンピックの中止がまことしやかにささやかれている。産業も多大な影響を被り、私たちサラリーマンの給料は根こそぎ削られた。無論、ボーナスもだ。しかもそれが、安泰と言われた大企業ですらそうであるから笑える。
孝夫はコロナ禍以前は観光系の企業で派遣社員として働いていた。55歳の独り者がなんとか就職できた思いれの強い会社であったが言わずもがなこのコロナ禍で観光業は未曾有の大打撃を被り、そのしわ寄せは社内で一番立場の低い派遣社員に真っ先に寄った。そして、それは突然であった。ちょうど世間でコロナ禍の派遣社員の雇用問題が取り沙汰されるころであった。昼に人事担当者に呼ばれ、簡単な口頭での解雇通告と形式的な数行の解雇通知書を渡されたのみで孝夫はクビになった。いとも簡単にペラペラの紙とぶつぶつと何か呟くだけでクビにされるとは。孝夫の社員としての賞味期限はこうして突如訪れたのだ。
「いや、そこをなんとかお願いします」とか「違うところに斡旋していただけませんでしょうか」などを申し述べる機会すら与えてくれなかった。ただ、冷たく
「それじゃあ」
と言うだけで孝夫には取り付く島もなかった。だが、無礼を承知してその人事の足元に飛びすがり、膝をつきながら必死に願い出るのもなにかわびしいし、そんな醜い姿を他の人に見られるくらいなら素直に従う方がまだましだと思った。どうせ派遣社員の身分。所詮あと半年の雇用期間がとんでもなく早く前倒しをして本日で切れるのだと思えばそんなに悲観することでもないと思った。結局は時間の問題であるのだから。そして、孝夫はその日のうちに会社を追い出された。当然社員からの労いの言葉なんぞはない。すれ違い様に「お疲れ様です」と形式的な挨拶を帰り際にされただけだった。
 失業後、孝夫は僅かながらの失業保険他各種の手当を受け取った。だが、それらの手当が果たしてどのくらい生活の足しとなるかは火を見るよりも明らかだった。雀の涙に過ぎないその僅かながらの手当金と、なけなしの貯金を元に三畳一間の小さなアパートでひっそりと暮らしていた。
 クビを宣告されてから1週間後、派遣会社から電話がきた。「おはようございます。私、株式会社○○の松井というものです。斉藤孝夫さんの携帯電話で間違いはございませんか?」
「はい。間違いないですよ」
「そうですか。この度、このような結果で契約が切れてしまい大変申し訳ありません。現在生活等に支障はきたしておられませんか?」
「まあ、なんとか保険金と貯金で生活しています。あの後、バイトとか探したんですがね。どこもとってくれませんよ」
「そうですか。でも、なんとか生活ができているならよかった。で、本日なのですが退職に伴います各種資料を郵送にてお送りいたしましたので、お書きになり次第、簡易書留郵便で弊社にお送りください。それではよろしくお願いします」
「あ、ちょっと一つ伺ってもよろしいでしょうか?今仕事を探しているのですが、どこでもいいので、派遣先を紹介してくださいませんか」
「そうですよね。仕事お探しですよね。ただ、このコロナ禍でどこの企業も雇ってくれないんですよ。なのでもしもそのような会社が出ましたら電話でお伝えするか、スタッフマイページにてお知らせいたします」
「あ、そうですか。それならよろしくお願いします」と言って電話を切った。そんなどうでもいいことで連絡なんてするなと思ってはらわたが煮えくり返りそうになったし、電話で伝えると言っていたが、どうせ連絡してこないだろうと思っていた。今まで、こう言う非常事態で向こうから電話がきた試しがなかったからだ。バブルがはじけたときもリーマンショックのときもいつもそう。景気がいい時はひっきりなしに電話がかかってくるのだが、こうした不景気の時には梨の礫であった。まあ、それも仕方あるまい。孝夫のような派遣切りにあった人間など街中にあぶれており、そんな人間にいちいち電話なんてかけていたら日が暮れてしまう。結局自分たちは彼らの都合の良い駒であるのだ。それは交換が常に可能であって、代わりならいくらでもいる。それはまるでトカゲの尻尾のように切っては生え、切っては生えるのを繰り返す。危なくなったらいつでも切れるのだから先方にすればさぞ都合が良い。だから、緊急事態下ならば自分で仕事を見つけてやりくりせねば生きては行けない。そう思い、孝夫は無料求人雑誌を手に取り探し始めた。 無職55歳。独身。無論子供もなし。最終学歴は高卒。資格は、運転免許と10年前に取得した簿記検定。だが、その証明書はもうどこへ行ったかわからない。仕事は今までどれだけやったかはつゆ知らず。派遣の雇用上、入っては辞めるのを繰り返すので履歴書の職歴欄には書き切れない。一体自分は何をしてこの55年間を過ごしていたのか疑ってしまうくらい情けない履歴書が出来上がった。自分はどこに目をつけて生きていたのか、何を考えて生きてきたのか、何のために生まれてきたのか、今こうやって履歴書という自分史を振り返ってみるとますますわからない。
 2週間後、相変わらず求人雑誌を見ていると、申し訳なさそうに、端っこのほうに載っていたこの「穴掘り」の仕事を見つけたのだ。他の求人のようにデカデカと一番美味しいところを独占して掲載されてはいない。ただ、本当に重箱の隅を突くような場所に、ひっそりと掲載されていたのだ。その求人内容を見れば怪しいと言う言葉以外は出てきやしない。きっと誰だってそう思う。「穴を掘るだけで日給は大体1万円か。一体何の目的でこんな仕事があるのだろう。死体でも埋めるってのか。政府公認とあるが一体どういうことなのだろうか」
と読めば読むほど疑いは増すばかり。が、ともかくもお金が欲しい。今の拙い貯金ではそこをつくのは明確だ。もし、この仕事が真っ当なカタギの仕事ならばこれほどいい仕事はない。何せ時給も高いし、日払いなのだから。そのため孝夫は、その日の内に恐る恐る電話をかけた。
「すみません。求人広告を見つけて電話をしたもの何ですけれども……」
「はいはい、そうですか。お電話ありがとうございます。私、株式会社××の岡本と申します。早速なのですが当社の仕事内容について何かご不明な点等はございますでしょうか?」
「いいえ。特にないのですが……。ただ、穴を掘れば良いのですよね」
「はい。さようでございます」
「そうですか。ところでつかぬことを伺いますが、この仕事ってちゃんとした仕事なのでしょうか」「ハハハ。さようでございますよ。実際に仕事内容が明らかに地に足がついていない内容ですので、そのようなご質問をよく受けます。カタギの仕事なのかや怪しい仕事ではないのかと言ったご質問は募集して以降よくあります。ですが、当社では国の依頼を受けております、ちゃんとした仕事です。もちろん、当社では一切の反社会的な勢力とのつながりはありませんよ」
「そうですか。わかりました」
「それでは、まずお名前とご連絡できます電話番号をお願いします」
「はい。私の名前はと孝夫と申しまして、電話は090-×××-○○○です」
「ありがとうございます。それでは、面接についてなのですが、当社は毎日、午前10:00からの部と午後15:00からの部に面接を行なっておりますが、どちらがよろしいでしょうか?」
「それでは、10:00からの部でお願いします」
「かしこまりました。面接日なのですが、毎日行っております。ですが、7月29日以降には面接ができませんし、その後は就業できません。ご理解のほどお願いします」
「わかりました。つまり、今週中に面接を受けたいと就業できないということですよね?」
「さようでございます」
「では明日、面接をしたいのですが」
「かしこまりました。7月24日の金曜日、午前10:00より面接のご予約をいたします。持ち物ですが、筆記用具とシャチハタのハンコと通帳のコピーを持参ください。履歴書は不要です。当日は面接開始の10分前までには会場にいらしてください。ここまでで何かご不明な点はございますでしょうか?」
「まあ、特にありませんね」
「わかりました。それでは明日、よろしくお願いいたします」
そうして、電話は切れた。

翌朝早朝、久しぶりの通勤電車に興奮しながら、片道40分かけて、面接会場の最寄り駅に到着した。北に向かって高架線を沿い,来てくださいと電話で言われた通りに歩いた。朝から忙しなくセミが地鳴りのように地声を鳴り響かせる金曜日の朝。すると、高架線の下に電車の発電所のような施設が建っていた。周囲は緑色の金網で囲まれており、車が何台か停まっている。ざっとテニスコート4面分はあるだろうか?そんな広々とした場所の隅っこにひっそりと簡易的な建物が建っていた。孝夫は最初、違う場所かと思ったがその施設の入り口には求人雑誌に載っていた企業名の表札が建っていた。一階建てで、パワーポイントを映し出すための映写機と長机が3つほどある質素な部屋。窓からチラッとみれば、社員と思しき男が3人、パソコンをいじっている。
その部屋の中に入ると、社員の3人がチラッとこちらを見た。そして、手前に座っていた社員の1人が言った。
「お名前をお願いします」
「はい。斉藤孝夫と申します」
「斉藤さんですね。それでは、こちらにお座りください。そうしたらこちらの用紙にご記入をお願いします」
と資料が乗っている一番前の長机に座らせられた。すると、ドアがカチッと音を立てて誰かが入ってきた。反射的に誰が入ってきたのか気になり、見てみたいという気持ちが先行したが振り向くのはやめた。相手を睨んでいると思われるかもしれないし、ソワソワしている自分を周りに悟られるのを恐れたからだ。
「高瀬誠次と申します」
「はい、確認できました。それではこちらへ」
と社員に案内されたのは孝夫のちょうど後ろの席であった。すると、その男が孝夫の肩をたたき
「ごめんねあんちゃん。ちょっとペン貸してくれないか?」
と物腰低い姿勢で言った。
「はいどうぞ」
「ありがとな」そういって、カチカチと芯を出して資料のアンケートに答えたのだった。
 社員が20分ほど長々と仕事内容について説明をし始めた。が、説明を聞いてもこの仕事は結局、穴をひたすら掘って、またそれを埋めるということが再度わかっただけであった。  
「では、これから順番にお呼びいたしますのでそれまでお待ち下さい。それではまず、斉藤さんよろしくお願いします」
と猫を撫でる声で自分の名前が早々に呼ばれた。名前を呼ばれて、そのままカーテン越しに仕切られた小さい部屋に案内された。薄暗く湿った部屋には黒縁メガネの豊満な男が座っていた。
「ではおかけになってください」
「失礼します」
「はじめまして。さっそくですが面接を始めさせていただきます」
「はい」
「先ほどの説明で何かご不明点はございませんでしたか?」
「ひとつだけよろしいでしょうか?どういう目的でこの仕事ができたのでしょうか?」
「すみません。それはお応えしかねます」
「わ、わかりました」
「それ以外に何かご不明な点はございましたか?」
「いいえ特にありません」
「そうですか。こちらの用紙を見た限りですと週5回で休憩を挟み、全体7時間の勤務でよろしいでしょうか?」
「はい。間違いないです」
「ありがとうございます。土日の出勤は可能でしょうか」
「それが、土日の出勤は厳しいんですよね」
本当は暇であったが孝夫の労働観では土日は休むことになっている。
「わかりました。それでは、週5日の7時間勤務で採用させていただきます」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「それではこちらの同意書にサインの上、ハンコを押してください。それと、通帳のコピーもご用意をお願いします」
「わかりました」
そう言われて同意書にサインをし、ハンコを押した。
「ありがとうございます。それでは次回当日のお持ち物ですが、ラバー軍手に飲み物とタオルを持参ください。作業着は弊社でお貸しいたしますので私服で来ていただいて結構です」
「わかりました」
そうして、孝夫は世にも奇妙な仕事に3ヶ月だけ就職することに決まった。
 
当日は早朝から暑くてしょうがなかった。梅雨が開けていよいよ本格的な夏が東京にも訪れた。その開幕を告げる号砲のようにセミがけたたましく声を鳴り響かせるのであった。 朝の電車に乗り込んだ孝夫は某県のとある場所に到着した。そこから歩いて30 分。到着したのは緑滴る初夏の山々に囲まれただけの何もない辺鄙な土地であった。その土地には休憩用のプレハブが何個か建ってはいるが、それ以外の建物はおろか、周囲は田んぼもお店も電車の路線も何もない。ただ、広大な土地が眼下に現れただけであった。自分以外にもこの不毛な土地を目の当たりにしてどうすれば良いか分からず、ただ佇むだけの人間がちらほらいた。すると向こうから作業着を着た、色黒の男がこちらに向かってきて言った。
「今日から現場の方?」
そう言われても誰がこの質問に答えればよいか分からず、たらい回しに黙りあった。このはっきりとしない曖昧な状況に業を煮やした作業着の男は、先ほどよりもやや語気を強めて
「どっちなの?」
と言った。これを見かねた誰かが
「多分そうだと思います」
と控えめに言った。
「そうか、じゃあこっちへ来い」
と言うと社員の歩幅に合わせて一同は進み始めた。途中、この隊列を見た他の人間も無言で割り込み、最終的には30名近い数となっていた。 プレハブに着くとざっと150人くらいの男どもが長椅子に座って、タバコを吸いながら雑談をしていたりスマホやテレビを見ていた。ほぼ全員がマスクをつけていたことは現在の世相を表していた。孝夫は誰も荷物を置いていないスペースに荷物を放り投げて椅子に座わると、見覚えのある男が横にすっと座ってきた。
「どっかで見たことのある顔だなと思ったら面接のとき、俺にペンを貸してくれた兄ちゃんじゃねえか」
特に感動の再会とまでとはいかないが誰も知らないこの人混みの中、少しでも知っていて話しかけられる人がいたことは少し心強かった。
「あ、あの時の」
その言葉以外、なんて言葉をかければ良いかわからなかった。
「ところであんちゃん。なんでこんな仕事ができたかわかるか?」
「それが、聞こうとしても全く教えてくれないんですよね」
「そうか。なら、俺が教えたる。ただ、あくまで噂話であって、必ず正しいとは限らないっちゅうことは注意してくれや。何を隠そうこの未曾有の疫病が今世界中で蔓延しているだろ。多くの業界ではそれなりの被害を被っているのは周知の事実だ。そうなりゃ当然お金の動きは鈍くなる。みんなお金を使おうとしないからな。この状態が続くと当然、不況になってしまうだろう。最悪、恐慌にだってありえる。街には失業者で溢れかえり、多くの企業が没落してしまう。元に、今だって派遣切りとか、新卒の内定取り消しってのが当たり前にあるじゃねーか。まあ、俺もそのうちの一人なんだがよ。すると、政治への不信感が増していくだろ。だから、国の偉い人は考えたんだ。自分たちが公共事業と銘打って雇用を作ればいいと。とにかく、健康体で動ける奴らがお金を稼げる機会を国が直々に作ってくれるって話なのさ。俺らが金を稼ぐ。その金を違うことに使う。そして、経済が回り始める。まあ、こんな都合よく事が進むとは思えねーがこれが本当だとするとよ、全ての辻褄が合うんだよな。よく考えてみい。穴を掘るだけで金がもらえるんだぞ。おかしいと思わないか。おかしいと思わないけんのよ。でもそれにはちゃんと訳があってな、それは雇用を作るためだったんだよ。国は適当な雇用を作っただけなのさ。雇用が作れれば別にプールでもよし。ダムでもよし。穴を掘って、それを埋めるだけってのもよし。ようは政府の需要喚起策だったんだよ」
この都市伝説に近い口承伝承も驚くほど辻褄が合う。確かに、穴を掘るっていう単調で無意味な作業を繰り返させて、自分たちがお金を稼ぐ手段として雇用を作ったのであるならばまあまあ話の信憑性も高くなってくる。そんな事を話しているうちに社員が入ってきた。
「はい。9:00になったんでお静かに願います。はじめまして。この現場を監督します聖山です。よろしく。ほとんどのみなさんはこれから約3ヶ月間、ひたすら穴を掘り、それをまた埋めてもらいます。本当にそれだけでいいのか?と思うかもしれませんが本当にそれでいいのです。まず今ここにいる200名近い方々を3つの班に振り分けました。そして、この班は雇用期間の間、余程のことがない限り変更はできません。ですが、安心してください。しっかりと仕事量を分配していますので、どちらか一方に大きく負担がかかることはありません。まず、3つの班なのですがA班、B班、C班です。その3つからそれぞれ穴を掘る班を1部、掘った土を運ぶ係を2部、運んだ土を穴に埋め直す部を3部とします。今後は班、部、その部内での番号を合わせたもので呼ばれます。例えばA班で2部の11番ならAの2の11と呼ばれます。さて、昨日メールにて番号を送りましたのでこれからはその番号順に分かれてもらいます。A班なら一番左の机に座ってもらい、B班なら真ん中の机に座ってもらう。C班なら一番右の机にに座ってもらいます。そして、その机の1から5列目は1部、6から9列目は2部、10から14列目は3部としますのでそれ通りに座ってください。もし、メールが届いていない等でしたら私に名前を申し付けてください。こちらで対応します。それでは各班に分かれてください」
孝夫はA班の2部、番号は10番に振り分けられた。誠次もまた自分と同じ班と部で番号は11番であった。
 灼熱の太陽の元、陽炎が地平線に沿って立っていた。東京ドーム丸々一個分の壮大な大地に早番200名が各班に分かれて準備体操をしている。準備体操が終わると各班に分かれて所定の部に従い、仕事を開始した。各部ごとに2から3人ほどの職員が付き従い、彼らに指示を飛ばす。孝夫らの部には2人の社員が付き、指示をした。
「これからこの部は穴をひたすら掘ってもらう。だが、みんなで一つの穴を掘るのは効率が非常に悪いから14人いるこの部をさらに3チームにする。番号1から4はあの赤い目印があるところを掘ってもらい、番号5から9はあの真ん中の黄色い目印があるところを掘ってもらう。番号10から14は手前の緑色の目印があるところを掘ってもらう。穴と穴の間隔は大体7mくらいあるからぶつかり合うことは無いであろう。各チーム、目分量で50から80cmくらいの大きさになったら私か、こちらの方を呼んでくれ。私たちがokを出したら次の穴を掘ってもらう。次の穴を掘る際はどんどん下にくだりながら掘り進めてくれ。ようは掘った穴に対して垂直に掘り進めていく感じだ。この説明で不明な点はあるか?ないなら作業を開始してくれ」
 その合図でみんなはスコップにラバー軍手をはめ、ヘルメットをかぶりながら作業についた。
最初、Kは余裕だろうと鷹を括っていたがこれが意外とキツかった。土自体はやや柔らかいのであるが、石や根っこがいちいち邪魔をしてきて余計な体力を削っていく。また、精神的にも辛かった。一回穴を掘り終えた時、1時間くらい経ったかなと思ったが全然時間が経っていなかったからだ。まるでこの穴掘りが永遠に続くと思われた。
 誠次はこのチームのリーダー的な存在であった。60歳をすでに超えていたが、持ち前のコミュニケーション能力で各人を鼓舞していく。平均年齢60歳を越すこのチームにはなくてはならない存在であった。それが功を奏したのか、孝夫のチームは部内でのチームと比べて一番多くの穴を掘り進めた。

 「ピー」
と大きな笛の音が広大な大地に鳴り響いた。すると、社員が大きな声で
「休憩」
と言った。この時点では1時間半くらい経っていた。各班ごとに貼られているテントで給水を取った。時々、この大地を通過する風がとても気持ちが良い。それは、どんなに冷えている部屋よりも気持ちが良いものであった。
  10分の休憩を挟みまた作業は開始した。孝夫も最初は不慣れであったが徐々に慣れていった。剣型ショベルに体重をかけて根こそぎ土を持っていく。ショベルで掘った土を上半身を使って見事にひらりと半回転させながら摩擦を利用してショベルに入った土を捨てる。こんな単調な作業であったがどんどん穴が掘れていく感じがたまらなくよかった。深く掘るにつれて水分を含んだ真っ黒な土から漂う自然の匂いが孝夫の鼻腔を刺激する。その匂いもまた快感であった。殺伐としたオフィスではなく、風、緑、土、生き物あらゆる自然に囲まれたこの巨大な「仕事場」は本来の動物としての本能を目覚めさせてくれる心地よい場所となっていた。すると、班にいた60歳くらいの色白の男が突然
「うわ、気持ち悪」
とみんなに聞こえるくらいの声で言ったのだ。一同が振り返るとその男が持っているショベルの先端に5段腹の太々しい昆虫の幼虫が突き刺さっていた。突き刺さった箇所からは緑色の液体が流れている。それを聞いた誠次が鋭い声で、「気持ちが悪いとはなんだ。その虫にも役割があって生まれてきたんだ。土にいる微生物が増えすぎるのを抑えたり、その虫が漏らした糞も植物の栄養になるんだ。彼らがいるから、自然のバランスが取れているのであって、俺たちが毎日野菜を接種できるんだ。彼らにも役割があって、自然の摂理に従って働いているんだ。それをなんだ!気持ちが悪いとは。彼らに失礼ではないか」
と色白の男に怒鳴りつけた。すると、色白の男は威圧感に押されてか、少し怯えながら
「そ、そんなに怒んなくてもいいじゃねーかよ、なあ」
ともじもじしながら言ったのであった。

 午前中の仕事が終わると各班ごとにそれぞれ建物内の食堂に入って行った。これから1時間ほどの昼食を挟むのである。先程までは険悪なムードが漂っていたが、食事を前にする男たちの胃袋はそんな雰囲気を消しとばしてしまった。
「いやー。やっぱり若いってのはいいな」
誠次が孝夫の肩を叩きながら言った。
「そーだよな。やっぱり動きが違うよな」
と恰幅のよい男も続いて言った。
「いえいえ、若いだなんて。もう、50ですよ」
「それがな、60になってみなよ。もう、体が動かねーんだから」
「そうなんですか」
「そうなんだよ。俺たちからしてみりゃ、100万でも払っていいからもう一回、50に戻ってみてーや」
「それに、動きも格段に違うしな」
「そうだよな。機動力があるっていうか、とにかくこのチームの中では1番の働き者って感じさ」
孝夫は何年ぶりかわからないが人に面と向かって褒められた。今まで派遣社員として働いていた頃は正社員に人として全く扱われたことがないかった。「使えない」、「無能」、「脳みそがたりない」。そんな言葉を一体何回言われたことか……。その度に自己嫌悪に陥り、自分の存在を否定し続けてきた。会社が何不自由なく動いているのも俺たち派遣社員があってのことであるし、お茶出しやコピー機の扱いや、書類の整理といった一見誰でもできる仕事も俺たちがいるから、正社員は他の仕事に打ち込めるのだ。それを無愛想に使えないとか無能とか言うなんて……。そう思われるのも、人々が流動的に動く組織の中で、俺たち派遣の存在はあまりにも薄すぎて彼らには見えていないのかもしれない。思い返せば思い返すほどはらわたが煮えくりかえる。
 チャイムが食堂に鳴り響いた。午後の作業が始まる10分前を知らせている。一同は食器を所定の位置に戻すと、途中で終わった位置に戻り、もう一度作業を開始した。
「お、動きがいいね」
「ほんとだな。動きが俺たちと違うやい」
誠次と同様に周りの人間も褒め称えてくれる。実際、孝夫はこの組織の中で一番動けていたと自負していた。でも、それを客観的に褒められるのは嬉しいものだった。
「お前、この雇用期間が過ぎたら、穴掘り職人になれよ。プロの職人になるんだ。そんで優美で耽美な美しい穴を掘るんだ。そしたら、それ一本で飯を食っていけ」
褒め上手の誠次が持ち上げる。
「ハハハ。食えるわけないやい」
とさっき叱られた色白の男につっこまれた。
「意外と需要あるかもよ。そこに移植した巨木でも埋めるんだい」
「確かになあ」
「そだろ。だから職人になればいいんだ。さあさあ師匠。この穴をどう思いますか。最後仕上げてください」
「とても、いいと思いますよ」
「それきた。師匠からお墨付きをいただきました」
孝夫は今までの人生で感じたことのない所属意識を感じた。始めて「仲間」というものを持った気がしたからだ。年齢はこえても、この親しみを感じる雰囲気は久しぶりだった。ついこの間までは、オフィスの端っこでパソコンをいじって、社員にいびられ、挙げ句の果てに突然解雇され、訳の分からないバイトに募集して、この広大な大地でひたすら穴を掘るという全く意味もわからない生活をしていたのであるが、ひたすら穴を掘ることに自分の価値を見出し始めていた。それは、年齢などの外的な要因が働いていると思うが、穴を掘ることに自信と誇りを見出した。人間万事塞翁が馬とはこのことである。
 午後の17:00前には作業が終わった。そこから勤怠を切って、簡易シャワーで汗を流してから、仲良く班員と一緒に駅まで向かった。駅からは誠次以外のみんなと別れ、「また、明日お願いします」と簡易的な挨拶を交わした。
 孝夫たちは塗装が剥げたボロボロの電車に乗り込みクッション材が潰れた座席へと座った。
「いやー。今日はお疲れ様でした」
「いえいえ、こちらこそ」
話を深めるために孝夫は今日起こった出来事を掘り返した。
「ハハハ。あんなことでまさか怒ってしまったのが自分でも不思議でしょうがないわ。あのな、元々俺は農家だったんだ。ただ、このご時世だろ。農家で金を稼げるなんてそんなの土地が恵まれたほんの一握りの人しかいないんだ。だから、農家を辞めて性に合わない正社員とか、派遣とか色々こなして、働いていたんだ。しかし、社会ってところな本当残酷だったな。自然界の中でも人間社会っていうところほど残酷な所はないと思うよ。同期との出世レース。あいつが辞めたとか、あいつが出世したとか、そんなことばっかりだった。そしてな、組織の中で仕事ができない連中ってのはどこでもいるわけじゃないか。そういう連中に対して「無能」とか「使えない」とかいう馬耳雑言を浴びせるんだよ。いやいや、勘違いして欲しくないがお前らがそいつらを使いこなせていないっちゅう話だと思ってるんだ。あいつらが悪いのは人間を「使える」、「使えない」で判断している所なんだよな。これがもう間違いなんだよ。組織の中で、分業の中で、「使える人間」とか「使えない人間」とかそんなのはいないんじゃい。みんな、なんかの目的があって生まれて、組織の中に入っているんだ。組織は自然と一緒。一見したら無意味な存在でもなんかしらの役には立っている。人間と違って虫や動物はそれを分かっている。ミミズだって、蛇腹の幼虫だってなんかの役には立っているから彼らに敬意を払っている。だけど、どんなにここがあっても人間っちゅう生き物はこれを理解していない。だから平気で「あいつは使える」とか「使えん」とか言えるんじゃい。そんな人間ばかりで辟易したんだ。俺は元農家として自然の摂理っちゅうものを理解している。みんな、どこかに属する場所があって役割をもって生まれたことを知っている。だから、その生まれ持った役割を侮蔑するようなことは人して許せん。だから怒ってしもうたんじゃ」
そう話す誠次の目にはうるうると光るものがあった。

 その後、Kたちは日中のほとんどを共に過ごした。雨が降る日も風のある日も、台風が来た日も穴を掘っては、また穴を掘るのを繰り返していた。ここに集まった者たちはそれぞれ事情がある。孝夫のように働き盛りにクビを切られた者。いい年をしたニートの者。借金を返すために働く者。それぞれ背景は異なるが突き詰めれば、ここにいるほとんどのものは社会からはみ出した連中で、俗に言う「無能」の連中ばかりであった。お互いのキズはお互いよく知っている。そのため、キズの舐め合いの集団であるからこそ連帯感がとても強かった。だからこのチームで他の仕事をしたらうまくいくかもと孝夫は時々思うのであった。さすがにこのチームを3ヶ月で解散するには惜しすぎると……。
 途中、各班で最も働き、貢献した人間が表彰されることがあった。部を飛び越えて、孝夫はA班の中で一番よく働いたとして表彰された。賞金は金一封が授与された。その金で孝夫は班員を連れて焼肉屋に行った。派遣という雇用上、人間関係は希薄であるのだがこの班だけは違う。Kはこのチームにかつて抱いたことのないほど所属意識を持っていたのだ。この班のために頑張りたい。みんなを楽にしてあげたい。他者貢献。この感覚をKは今まで感じたことがなかった。が、このチームではそれをひしひしと感じるのだ。だから、金一封など惜しくなかった。
 あれは確か初夏の夏であった。セミが鳴り響き始め、例年よりも10日ほど遅く梅雨が明けた頃は暑くて陽炎が地平線に向かって立っていたのが今では懐かしい。今でも暑いのは変わらないがそれでも夕方ぐらいには少し寒くなった。いつしかセミは鳴かなくなり、周囲の山々の緑が少しずつ赤色に染まり始めていた。それもそのはず。時間とは残酷なものでもう10月であった。気が付けば雇用期間がいよいよ明日で切れることになっている。自由に伸び伸びとさせてくれたチームのみんな、そしてそんなチームを鼓舞して支えてくれた誠次たちともう二度と会うことがないと思うと悲しかった。
 「お、今日は一段とお美しい穴を掘ってますこと」
誠次は孝夫にちょっかいをかける。今日はいつもよりも数段と綺麗な穴を掘ったのだ。綺麗で優美で女性的な穴。側面をきちんと平らにならした均整の取れた穴を掘り続けた。だが、無情にもその穴は3班の連中に埋められてしまうのだ。まだ、うっとりとその穴を見ていたかったのに……。
 「はい。早番の皆さん。お疲れ様でした。これで以上です」
と社員の号令と共に3ヶ月の雇用が切れたのであった。孝夫はガックリと肩を落とした。孝夫は水を片手で持ちながら日陰が差し込んだコンクリートにもたれた。すると、誠次がそっと隣に座った。
「いやー終わったな。お疲れ」
「お疲れ様です」
「なんや、元気がないじゃないか。どうした」
「なんだかんだ楽しかった現場が終わってしまうと思うとなんだか悲しいなと思って……」
「俺も悲しいよ。久しぶりに土いじりしたからな。農家だったことを思い出したよ。なあ、ところでこの言葉を知っているか?人間はいつか土に帰るって言葉。昔の人はな、人間は死んだら土に帰ると思っていたんだ。宇宙ってものがまだわからなかった時代のことだ。人はみんな土から生まれて土に帰るって考えたそうだ。だから、今でも人間は死んだら火葬場に持っていかれて、お墓に埋めるんだよな。そこら辺は今も昔も変わらない。最近ふと思ったんだよな。なぜ、土をひたすら掘る仕事に来たのか。それは、仕事がなかったとか、派遣切りにあったとかそんなことじゃない。還る場所に還ってきたんだよな。土って言う人間が戻るべき場所に戻ってきたんだよな。それは、偶然ではなく運命であったんだよ」
孝夫はその時はっとした。誠次のその言葉が妙に説得力を持ったせいであるからだ。その言葉には孝夫が今後やるべきことの指針を示してくれていたような気がした。それは、オフィスでも、パソコンをいじることでも、コピー機を運ぶのでもない。土に還ることなのだ。自分が土に還ることによって腐った肉体が腐葉土となって、植物が育つ。その植物を人間やら動物やらが食べて何不自由のない生活を享受できる。その何不自由のない生活の根本は、突き詰めれば、広大な大地であって、その大地を構成する自分の腐った肉体が自然界の始まりなのかもしれない。何という壮大なことなのだろう。自分が所属すべき場所は自分が掘った穴の中であるのだ。
「ところで今後どうするんだ」
「なにもきめていないです、誠次さんは」
「オレか。兄貴に頭を下げてもう 1度農家として始めることになったんだ。 今後は投げ出さねえよ。とりあえずまた自然の一部になれて嬉しいよ」
「……」
「まあ今後もいろいろあると思うがちゃんとしっかりや……」
誠次の言葉を遮るように、突然孝夫は夕陽の方向へ歩き始めた。それはまるで何者かに操られているが如く、脇目も振らずにまっすぐと歩き続ける。その奇行を目の当たりにした誠次は、これは何かおかしいと思い、一定の距離を保ちながら孝夫の後を追った。
俺なんか悪いこと言ったかな、と不安に駆られながらも孝夫の背中に向かって
「おい!どこに行くんだよ!」
と叫ぶ。が、振り返りはしない。どこまでも進む地平線に向かって歩みを決して止めない。2人は気がつくと夜勤の人間が豆粒みたいに見えるところまで歩いてきてしまった。孝夫は足を止めて廃墟と化した灰色の小さい建物の裏へと周ると穴を掘り始めた。それを見た誠次は微笑しながら
「おいおい。もう仕事は終わったよ」
と困惑した。そんなことを振り切って孝夫は黙々と丁寧に穴を掘る。
「そうか、最後に最高の穴を掘りたいんだな。人肌脱ぐぜ」
と言って誠次も手伝う。
 40分くらいで人間がやっと膝を曲げたら入れるくらいの穴ができた。その穴は、広大な土地の端っこにひっそりと掘られた穴であって周囲に誰も人はいない。孝夫啖呵を切って言った。
 「誠次さん。男と見越して自分のお願いを聞いてください」
「な、何だよいきなり」
「自分は今からこの穴の中に入ります。そしたら、その穴を埋めてください」
「ば、ばかやこといっちゃいけね。熱中症で頭でもやられたか。そんなことしたら生き埋めになってしまって死んじまうよ」
「誠次さん、死ぬんじゃないですよ。『還る』んです」
「はぁ?」
「だから、還るんです。自分の戻るべき場所に。私は今までしがないの派遣社員でした。いつも社員にいびられ、こき使われ、奴隷のような扱いを受けてきました。「無能」、「カス」、「ゴミ」と何回言われたか枚挙に暇がありません。自分で言うのも何ですが、ただ息を吸っているだけの存在でした。生きていて褒められたこともなく、だらだらと過ごしてこの50年余りを生きてきました。時には「死のう」とも思いましたよ。こんな残酷な世界。それでもきっと明日はいいことがあると奇跡を信じて生きてきました。そして、その奇跡はようやく訪れたのです。自分はようやく生きている意味を見出せたのです。職人と拝められ、必死に穴を掘ってるのが気持ちがよかったんです。自分は土となんらかの関係にあるのだと思いはじめたのです。それに気づかせてくれたのもあなたですよ誠次さん。本当に感謝してます。そういやあなたはかつて私に「人間はちゃんと生きる目的があって生まれてきた」と教えてくれましたよね。それが自然の摂理だと。ほんとにそんなことがあるのかと何回も思いましたがようやく見つけられたんです。それは土に還ることだったんですよ。人間は土に生まれ、土に還るんですよね。だから、僕はこれから土に還るんです」
「お前それ本当に言ってんのか」
「はい本気です」
「お前はその居場所に後悔はしないのか」
「はい。しません」
「本当か?後でやっぱりいやだと後悔してもやり直しは利かんぞ」
「はい。しません。心の準備はできてます」
すると誠次は熱くなった目頭を押さえて嗚咽を漏らしながら
「じゃあ、入れ」
と小さな声でボソッと呟いた。
「入れ!」
目には涙を溜めて唇を震わせながら言ったのだった。
「はい」
孝夫はこれから天国にでも行くのかってくらい清々しい顔ですっぽりと穴の中に入った。誠次はショベルを持ってきて、さっき掘って山積みにしておいた土におもっきり突き刺した。そして、盛りに盛ったショベルを持ちながら言った。
「最期に言い残すことはないか?」
「土で待ってるよと仲間にお伝えください」
「それじゃあ、立派に花を咲かせろよ」
「はい」
と最期の挨拶を交わして頭の上から土をかぶせ始めた。土の中一面にはこの仕事を始めた時と変わらない土の匂いが充満していた。孝夫は脚を屈折させながら目を閉じて安らかな顔で土に埋められていった。まるで、生きる神様を扱うように、ゆっくり、優しく土をかけた。次第に膝上、首根っこ、やがては頭皮が見えなくなるまで完全に土の中に埋められたのだった。すると、誠次は完全に埋まってしまった穴にショベルのヘリの部分でポンポンと叩いて、太い木の棒を突き刺し、大きい石を置いた。

 翌年の春。誠次は相変わらず荒涼なこの大地を訪れた。掘っては埋めてを繰り返していたのでところどころ土の色が違う。誠次は黄色いロープを大股で越えて、孝夫が歩いたところをなぞるように歩いた。すると、誠次は目印としていた木の棒と大きい石を見つけて、そこに水を垂らした。なにせそこには、綺麗に咲いた紅色の一輪の花が咲いていたからだ。

土人

土人

とあるアルバイトの求人が孝夫の好奇心を刺激する。それは、摩訶不思議で、いったいなんの目的で行われるのか皆目わからないほど奇妙なアルバイトであったからだ。しかもそのアルバイトの内容は極めて幼稚であって、それに加えてなんの生産性もない。そのアルバイトの内容はこうである。「政府公認のアルバイト。A県B区の××にある広さ東京ドーム一個分の土地にひたすら穴を掘り続けてもらいます。そして、掘ったその穴をまた埋めてもらいます。ただ、その繰り返しです。雨が降ろうが槍が降ろうがひたすらそれを繰り返してもらいます」・・・・・・。

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted