透明に
透明になりたい、そう思えば思うほど、影は濃くなる、拡がっていく。
だれにも、だれにも見られたくない。気づかれたくない。ただ、それだけなのに。
だれにも、何にも気づかれないほど、透明に、透明に、透明に。
あなたの優しさが苦しくなってしまった時には、もう遅かった。
あなたを好きなままで、あなたの優しさだけを嫌えたらよかった。
けど、そんな器用なことはできなかった。わたしは、
わたしが思っていたより、あなたに深く寄りかかっていたから。
あなたの優しさを無防備に受け取って、それを幸福と呼んでいたのは
ほかでもない、わたしだったから。
わたしはいま、他人の幸福の中で孤立している不幸な人間だ。
隣にいるだけで相手の幸福を損ないかねない、不幸な人間だ。
わたしは、負けてしまった。不幸にも、幸福にも負けてしまった。
わたしが一途に護ってきた世界は、ほんの一瞬のうちに侵されてしまった。
わたしが築き上げてきた理想は、損なわれてしまった。
こんな惨めな気持ちになるなら、はじめから何も期待しなければよかった。
それなのに、わたしは無様に懇願している。嘆願している。
それが叶ったところで、何も覆らないというのに。
透明になりたい、透明になりたい、透明になりたい、と。
透明に