決意
あなたの、あなたの紡ぐことばを、もっと知りたかった。でも、あなたにこれ以上傷ついてほしくない。矛盾、葛藤。筆を止めたあなたに、口をひらかなくなったあなたに、かわってわたしができることは、いったいなんだろう。いったいどうしたら、あなたの内側に近づき、その温度感を、温度の遷移を精確に肌膚に刻み込み、寄り添うことができるのだろう。ああ、そうだ。わたしは、寄り添いたいのだ。寄り添われた分、寄り添いたいのだ。この直情を伝えずして、むざむざ朽ちていけるものか。伝えたいことと、伝えたい相手がいるうちは、まだまだくたばれないのだ。無様だと嘲られようとも、初志貫徹、足掻きつづける他はないのだ。足掻きながら、今度はわたしが、あなたの心に、爪痕を残すのだ。どんな苦痛にも動じなくなったあなたに、あなたが未だ知らない苦痛をわたしが与え、わたしが抱きしめなければいけないのだ。これまでどんなことばが、あなたに寄り添ってくれたのだろう。同時に、どんなことばが、事実が、あなたを傷つけ、打ちのめしてきたのだろう。そのすべてを、あなたを構成するそのすべてを、わたしは知りたい。知りたいのだ。こんなにも、わたしの感情を揺さぶり、琴線を鳴らし、深く傷つけることができる人間は、あなたしかいない。わたしの核を抉り取り、容赦ない風雨に晒し、その後にひろがる冴え冴えとした空の青さをおしえてくれる人間は、あなたしかいない。矛盾を、葛藤を、人間のありとあらゆる感情を書き切ってきたあなたにかわって、次はわたしが、筆を執る番だ。口をひらく番だ。あなたがまだ知らない言葉の可能性を、世界を、世界の明暗を、みせる番だ。死にかけたわたしを、わたしの感情を呼び覚まし、心の存在の尊さをおしえてくれたのは、あなたでした。わたしにとって、あなたがわたしのすべてでした。次は、わたしの番です。待っていてください。あなたに、あなたにとって、わたしがあなたのすべてだと言わせるまで、わたしは、足掻きに足掻いて、傷つきに傷ついて、血肉を捧いで、書きつづけます。
決意