青いドイツ詩
現代 ドイツ詩 : 私訳
< 薄明の夢 >
ゲオルグ・ハイム
(1877-1962)
[風景の]全てに
青を 感じる。
茂み、樹木、河の流れの全ては
遥か北方へと広がる。
青い土地に
続く白い雲の帆が
遠い天の岸辺で
風と光に溶けていく。
夕べが沈み、
わたしたちが眠り込めば、
美しき夢は
足取りも軽く訪れる。
ツィンバロンをかき鳴らそう、
弾くも軽やかに。
その囁きを夢に。
ろうそくをかざしながら。
< 青い休止 >
ハイナー・ミューラー
(1929-1998)
眠れぬ宵に 窓辺にて
一切を 問う
わたしは答えを知らず
暗闇は語らず
眠りに戻れば
朝には他を知るだろうか
< 精神が覆うのは、地球、その片手を地上 他方は宇宙を指しながら>
ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ
(1749-1832)
空中を 上に、下に、
私は宙に漂い 生き生きと見る、
その多彩を喜び、
青を楽しみながら。
昼には 遠い
山への憧れに軽々と引き寄せられ、
夜には満点の星光が頭上に
壮麗に放たれる。
全ての昼と 全ての夜に
私は人の運命を称える;
その正しさと
美しさと偉大さが永遠と
思われて。
歌劇「魔笛」私訳
「震えることはない、愛する息子よ」
おお、震えることは ない、
愛する 息子よ!
お前は 純真、賢い、善良。
そんな、若者、最善を 成し遂げられる。
この 深く悲しむ母の心を慰めて。
苦しみに 選ばれて、
私は 娘を 失った;
彼女が行ってしまって
私の幸運も全て 無くなった:
あの悪人が 娘と一緒に 逃げ去って。
まだ、震えているのね、
衝撃に おののいて
不安の震動が、
あなたの 努力をも 揺り動かす。
私は 彼女が 略奪されるのを 見たのよ:
「ああ、助けて!」と 言うのが
私の 精一杯だった;
彼女の懇願も空しく、
わたしも 非力で。
お前は 彼女を 解放するでしょう、
お前は 彼女を 救い出すでしょう。
お前の 勝利を見ることが出来たなら、
彼女を 永遠(とわ)に お前のものに
< メランコリー >
ヨアキム・リンゲルナッツ
(1883-1934)
犬の遠吠えが
夜のしじまに響き渡る。
黒い波が
岸辺に向かう私の舟に打ち寄せる。
遠く青い山影が
天を縁取り、
星明りの魔力に
夢誘われる。
静寂が 野生の白鳥を
湖の彼方から 引き寄せる。
私は泣き疲れる。
何故 憂鬱なのか、解らずに。
< 詩 >
ヴォルフガング・ボルヒャート
(1921-1947)
優雅の花が 咲く とても 紅く、
慈悲の花が 青くなる その傍らで。
優雅の花は 命、
慈悲の花は 死。
甘く辛い 命、
喜びは辛く、苦しみは 甘い。
優雅の花は咲く とても紅く-
死の花が青くなる その傍らで。
< フルート >
ルートヴィッヒ・ティエック
(1773-1853)
わたしたちの心は 空色で、
君を青の彼方へ導いて、
優しい音色で 君を誘う
色んな調子を取り混ぜて。
愛らしく私たちは話し出す
それぞれ陽気な歌声で。
青山、雲、
愛の空をそれとなくほのめかし、
そっと行き着くは、大地の向こう
新緑の木々の蔭。
< 清澄 >
ロバート・ヴァルサー
(1878-1956)
灰色の日 太陽は何処へ、
青ざめた諦めが
生まれたのか、不在。
青い日がその上に 青く立ち、
世界は自由に立ち上がり、
太陽と星はそこで輝く。
全ては静かに 執り行われる、
騒ぐことなく、大いなる意志として、
すみやかに。
微笑が不思議を開示し、
ロケットもその発火もなく、
夜が晴れ渡るだけ。
< 青天 >
クルト・マルティ
(1921生)
幸せに
酔って居られる
空が 青くて!
きっと
この陶酔は
決して欠けることなく、
口当たりよい光をたくわえ、
湧き上がる黒雲の下で
靴も釣道具も無い
君たちに 乾杯する
青を飲め
悲しまずに
< 無題 >
パウル・ツェラン
(1920-1970)
おお 青き世界よ、おお 青よ
お前がわたしを訪れる!
わたしは自分の心臓と鏡を並べて置く。
ひとつの民族の言の葉をその唇に
意のままに立ち上らせ:語り、眺め、
支配する。
青の王国は 横たわって拓け、
輝き渡る。
< ブルーな抒情詩 >
オットー・エーリッヒ
(1864-1905)
何が 弱々しい光をちらつかせているんだろう
わたしの魂の湿地なんかで-
何が 横切る過去の炎をちらつかせているんだろう
わたしの冴えない希望なんかに?
おお 悪戯者の妖精が
わたしのからだに絡み付く-
わたしは自分を詩人なんかに感じる:
今日こそは狂気の切り札の日だ!
< 詩の具象性 >
ルドルフ・ディーター・ブリンクマン
(1940-1975)
色
インクはロイヤルブルー
羽生えた鋼(はがね)で
言葉綴る
白い紙に
文法を応用し
天気は気にせず
秘密もなく 型通りの飛翔
規則知らぬ憂鬱 を軽くし
景観を秩序立てる
葉の緑に誤りなく
樹木が湛えるのは
蓄えられた言の葉
本質の 原野で
羽の付いた
鋼で私は綴る
言の葉を 白い
紙に 色は
インクの
ロイヤルブルー
< 変化(へんげ) >
ローゼ・アウスレンダー
(1907-1988)
私の青で
星を塗る
愛して
それを du(君:親称)と呼ぶ
同じく
みな
変わる
闇に光って
霊から体へ
< 不安な夢 Ⅰ >
ヒルデ・ドーミン
(1909生)
青
私の命
青い 血痕
吐き出して
タイプライターの体液全て
命
紙の道は
小さき手
ぴたぴたと
私の言葉
私の 書かれていない言葉
語られたもの 書かれたもの
多くの
語られなかったもの
私は夢見る
ひとつの青い血痕に
死語
死
私の
蜂鳥の足
足の無い鳥の足跡を
< エピローグ >
コンラート・フェルディナンド・マイヤー
(1825-1898)
君は誰なの、暗い顔して。
君は僕を涙で水浸しにしたね-
かつて君を愛したミューズが、
君と死を共にしようと来て居るよ。
苦悩と夢に 僕たちは達すね、
その深い 紺碧へと。
青いドイツ詩