ある船
大海の中で行き場を失ったその船は、もはや原型をとどめてはいなかった。
こんな途方もない場所で正気を保ち、かつ楽観的でいることなど、
てんで無理な話だった。いや、その気になれば出来たのかもしれないが
その時は誰もが不測の事態に狼狽していて、
誰もが盲目的で、誰もが短絡的になっていた。
科学者も、測量技師も、占星術師も、統計学者も、
誰一人として、何の役にも立たなかった。
それもこれも、我々が自然に対して
傲慢な態度を取り続けていた結果だ。自業自得だ。必然だ。
嗚呼、それなのに!この期に及んで誰も反省していないとは!
自分の生命に、人生に執着しているからといって、
それが他人を蹴落としていい理由になるとでも思っているのか?本当に?
肝心な時に自分の身を犠牲に出来ないで、何が世界平和だ。
所詮は体裁に囚われている連中のおままごとじゃないか。
下卑た真似をして、汚い笑みを浮かべて。
おまえたちの理屈はもう聞き飽きた。それは前提から破綻しているではないか。
見ろ。おまえたちの醜態に愛想を尽かした司令塔は
この大海に、誰よりも先に身を投げたのだ。
ある船