小説家?
アルバイト先のコンビニエンスストアには色々な人が働いている。
店長がいて、たまに本部からスーパーバイザーみたいな人が来たり、社員も二人いて、アルバイト店員が五名。
アルバイトの店員は二十代が三人、三十代がひとり、四十代がひとりで、何となく働いている武(二十一歳)を除けばみんな何かしらの目標を持っている。
四十三歳の三喜夫さんは役者で、役者というか劇団に入っていて昔なんとかという地方のCMに出たことがあるらしい。まだ役者の道を諦めてはいない。というか彼の中では役者なのだろう。
わたし(二十四歳)はバンドでヴォーカルをやっている。わたしのバンドは激しいパンクバンドで月に一、二回ライブハウスでライブをやっている。プロになろうとかそんな感じでは無いんだけどバンドで食べていけたらいいなぁとは思ってる。ただわたしのバンドは万人から好かれるような曲はやってないから、そういう事はわかっている。
三十三歳の寿夫さんはイラストレーターだそうだ。仕事はポツポツとあるもののそれだけでは生活出来ないからこうやってコンビニエンスストアでアルバイトをしている。一応プロのイラストレーターだ。どんなイラストを描いているのかはわからない。
早百合さんは二十八歳で小説家らしい。ペンネームでネットに連載しているとのこと。物語をあげるとソコソコのアクセスがあるらしい。そのソコソコという曖昧な数字がどのくらいなのかはわからない。
バックヤードで三喜夫さんと早百合さんが言い合いになってた。
「そういうのは小説家って言わねぇんだよ、ただ勝手に書いて、勝手にネットかなんかにあげて、自分だけが気持ちよくなってるオナニーなんだよ」
なんでこんな感じになったかは知らないけど、そういうデリケートな事は言わないのが礼儀じゃないのかとわたしは思った。すると早百合さんが、
「あなた何様?役者やってるって?え?役者気取りがみんなで集まって傷を舐め合って小劇場で何やってんの?チケットなんか全く売れないじゃない。みんな迷惑してるの、仕事先にそういうの持ち込まないで。あなたの自慢は昔一度出たっていう地方の訳のわからないCMだけじゃない、それだってどうでもいいことよ」
三喜夫さんは顔を真っ赤にしてバックヤードを出ていった。
早百合さんは次の日から姿を見せなかった。
みんなもがいてる。何がそうさせているのか?どうしてもそうならないと駄目なのか?いつかその夢には終りが来るのか?それとももうとっくに諦めているのか?
わたしは、全てをぶち壊してしまえ!なんて曲を今夜もスカスカのライブハウスで叫んでいる。
終
小説家?