涙を踏む
空の青さが地下までしみこんだある朝。
なにかの割れる音がする。
ガラスを爪で弾くような。
ビイ玉の落ちるような。
鐘を打つような。
葉の影ゆれる角を曲がって現れた、きみと出会って僕は知る。
割れていたのはきみの目から落ちた涙だ。
ひとつぶ、ひとつぶ、落ちては割れる。
きみの歩くその後ろに、ひかえめな足跡とともに。
割れた涙が十二色に光を拡散させている。
空の明かりを涙で割っている。
泣いているきみのかおはみにくいけれど、きみの落とす涙は大変うつくしいです。
通りすがりの僕が思うこと。
きみの目尻をぬぐって、その涙を収集してみたい。
望みは横をすぎる一瞬だけのこと。
割れた涙の光る道を、僕は踵で踏んでゆく。
涙を踏む音を聞き、きみが振り返ったのかどうか。
青のしみこむ地下へ落ちた僕はそれを知らない。
涙を踏む