絶望前夜
遮断機を跨げば、一篇の詩があった。
その耳を塞げば、一篇の詩があった。
下腹部を抉れば、一篇の詩があった。
その口を塞げば、一篇の詩があった。
屑籠の中を漁れば、一篇の詩があった。
屑籠それ自体だって、一篇の詩だった。
舷から身を抛てば、一篇の詩があった。
船の乗客も、船頭も、死んだ目をしていた。
数年前の手記には、一篇の詩があった。
捲れど捲れど、同じ事しか書かれていない。
反復と沈黙は姉妹のようだ。
祈りと呪いが、ちょうど姉妹であるように。
どれだけ乞うても、冒涜の循環からは逃れられない。
誰かを生かす時、同時に誰かを殺してもいる、その事実、絶望。
沈黙さえ誰かを傷つけ、また、殺してしまう、その事実、絶望。
それでも私は遮断機を越え、腹を抉り、塵塚を漁り、投身し、存在を刻み続けるのだ。
絶望前夜