水溜まり

月の光に照らさたそれは、水溜まりじゃなかった。てっきりそうだと思い込んで歩いていたから、思わず後ずさった。
わりと近くまで来たときに雲が割れて月の光が其処を照らすと、直径五十センチくらいの窪みにはおたまじゃくしが黒々と犇めきあっていた。
びっしりと居るおたまじゃくしはゆっくりと動き続けている。よく見ると手足が生えていて、おたまじゃくしから蛙になる途中みたいな個体たちだった。
そこから離れようとしたとき、その者たちの目が一斉に此方を見た。背中に変な感覚を覚えてまた後ずさった。中途半端な生物たちは次々と窪みから這い出してくる。早く此処を離れなきゃ、そう思えば思うほど足がまるで自分のものとは思えないほど動かなくなった。突っ立ったままのわたしの足の甲へ最初のそれが乗ってきた。それはしっかりとわたしの目を見ている。そしてそのまま這い上がって来る。次々と這い上がってくるその個体たち。
 最初のが首筋を伝い下唇まで達した。それは良い香りがした。それは優しい目をしていた。それはゆっくりとわたしの唇にキスをした。

 月だけが眩しいくらいにわたしを照らしていた。

水溜まり

水溜まり

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted