1分

 リモートで飲むのも悪くはないが、なんか味気ない。
 グラスに入った芋焼酎の氷を揺らしながらパソコン画面を眺めていると、
『おい、多奈川、ボーとするなよ』
 黒縁メガネをかけている鈴星に呼びかけられた。
『そうだそうだ』
『かっこつけてんじゃねえぞ』
『なんか面白いこと話せ』
 みんな好き勝手に酔っぱらいだ。
『おいおい、ここにも動かない女性がおるぞ』
 区割りされた画面を探し、右隅を見た。
『たしかに缶ビール飲みかけたまま動かない』
『あれ、これって画面固まってない?』
『佐戸部ちゃん、聞こえるー』
 たしかに酒豪佐戸部は動いていない。
「しょうがない、俺が電話で教えるよ」
 そう言ってスマホに手をかけたとき、
『ぷはーっ』
 急に動きだした。はあはあ言っている。
『なに佐戸部ちゃん、イッキ飲み』
『そんなんあかんよ』
『なんで関西ツッコミ?』
『ちがうよ。息を停めてみました。どう、騙された?』
 へへ、と笑う佐戸部。
『もう、悪ふざけがすぎるよ』
『そうだそうだ』
『お酒飲んでるときは危ないよ』
 上機嫌に新たな酒を開け佐戸部も答えた。
『1分くらい停められたかな』
『すごー』
『感心してないでよ』
『俺も挑戦スッか』
 すっかり酒の力に飲まれている。
『ちなみに1分ってどんくらい?』
『それは1秒を60回数えた長さでしょ』
『目安でなんかない?』
 一口芋焼酎を飲んで俺は教えた。
「一般的に平均で文章500文字読む速度が1分だよ」
『わかりずれー』
 みんなの声がそろっていた。

1分

1分

ちょうど500文字の掌編です。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-29

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