冬瓜
実家からは来てません。こっちだって送って来られても困る。
実家から冬瓜が送られてきた。
「何だこれは!?」
実家からの救援物資の段ボールをあけた時それが真ん中に入ってて、丸々一個。丸まんま一個入ってて、とてつもない存在感だった。アイドルグループのセンターみたいだった。
「この緑色のラブリーボーリュ・・・」
あまりの存在感に動揺しまくって噛みまくってしまった。このラグビーボールみたいの何!?それに凄い濃緑だ。とにかく、これ。
「こんな緑色の物あるんだ」
この世に。
こんな緑の物体あるんだ。
これ以上緑なものは見たことがない。そう思えた。
とにかく緑だった。そのラブリーボーリュの物体。なんて緑。
「なんて緑だこれ」
それに加えてニスでも塗ってるのかと思うほどてかてかしている。
まるで二日三日徹夜をしているおっさんくらいてかてかしていた。
「いやらしい」
いやらしさまであった。
その物体を見て途方に暮れていると、ふと頭の中に山頭火の、
『分け入っても、分け入っても、青い山』っていうのが出てきて驚いた。普段そんな俳句が出てくるとか、思考の中にそういうのが出てくるなんて、そんなタイプじゃないのに私。もちろんジブリでは山田くんが好きだから、で、実家帰省の度に観てるから。山田くん。だからそういう部分ももしかしたらあったろうけども、あったとしてもおかしくははないけども。でもかなり下位の方だろうと思う。下位機種っていうか。でもそれを、そのアイドルグループのセンターみたいなそれを、その存在感抜群の濃緑のてかてかのそれを見ていたら、なんか出てきた。山頭火出てきた。
分け入って分け入って青い山を突っ切って、もしかしたらこれが目的だったのかも。
そんな勝手な事を思ったりした。
でかいエメラルドみたいなそれを見てると。
「あ、」
でかいエメラルドかこれ?
原石か?
まだ削る前だから意外とこういう感じなのかな?
エメラルド送ってきたのか?実家は。
エメラルドの原石を送ってきたのかな?
だってそうじゃなきゃおかしいよ。こんなに緑。こんなに緑のラブリーボーリュくらいの大きさの塊。
「・・・」
メロンよりは断然緑。だってメロンってあれだもんね。皮黄緑だもんね。スイカの緑の部分よりも緑。もしかしたらスイカは黒の線があって、だから相対的に緑が薄く見えてしまって損してるのかもしれないけど。
でもそれでもキュウリよりも緑。ピーマンよりも断然緑。
勿論その辺の雑草とかよりも緑だし、もしかしたら夏の葉桜とかよりも緑。いやすごい緑。濃緑。自然界でこれ以上緑なものは無いと思えるほど緑。
濃緑の塊。
コカ・コーラのコンビニにしか売ってないファンタのメロンソーダを固形にしたらもしかしたら、これに相当するかもしれない。
そんな緑の塊。
「・・・」
ずっと見ていると気が遠くなりそうだった。
世にもの谷原さんの迷路のやつの話で、金塊を見ている時の様な。ずっと見ているとおかしくなりそうだった。
それくらいの緑の塊。
「ああ、あれ冬瓜」
実家に荷物が届いたけど、あれ何?って連絡入れたら、そういわれた。
冬瓜?
「ユウガオみたいな奴?」
「そうそう」
味噌汁とか煮物にして食べたらいいよ。そう言われた。フォレスタ鳥海に行く途中に無人販売所があって、そこに売っててさあ。
へー。
なんかそういう話を聞きたいんじゃないんだけど、みたいな話を延々と聞かされたのち通話は終わった。
「作れってか」
まあ、仕方ない。あっちは100パー好意だろうし。うん。未だに荷物を送ってくれるっていうのはつまりそういう事だと思うし。
私もいい歳だし。そういうのの一つも作りますかね。まあね。確かにね。
いつまでも実家の料理をあてにしてたり、出来合いの物ばかりではな。確かに。コンビニ弁当ばかりではな。確かに。
「よーし」
そういう訳で意を決してそれをまな板に乗せて、
「どういうのがいいんだろか?」
スマホでクックパットとか見ながらあれこれ考えて、ただとりあえず何よりまず包丁入れて割ってみることにした。切ってみることにした。
なんにしても食べるなら、切らないと。
「乱切りかざく切りか」
とりあえずしないと。
という訳で、真ん中くらいの所に包丁の刃を入れた。
ぴぎー。
濃緑の皮の表面に包丁の刃入れた。
ぴ、ぴぎー。
入れたかもう入れるか、それくらいのタイミングで、冬瓜の中からそれが聞こえた。
あと変な汁も出た。
その後、怖くなって少し離れた。
そしたらその瞬間冬瓜が勝手にパカッと割れて、中からエイリアン出てきた。
エイリアン。
ガチの。
リドリー・スコットのやつ。
あれみたいなのが飛び出してきた。
それ冬瓜じゃなかった。卵だったらしい。
なんかの。
なんかって、まあ、エイリアンの。
リドリー・スコット監督のみたいなの。
冬瓜