シリアス面

職場で西野友美がまた深刻な顔をしている。
それ故、職場の人達は戦々恐々としている。
「お前、また何かやったんじゃないか?」
「そんな訳ないだろ、お前だろ」
「私こないだの計算間違えたのかな」
「いや私かも」

西野友美は職場ではもはやお局と言われる立場にある。そんな言葉自体もはや何とかハラになるだろうから、言わないが、でもみんな思ってる。上司ですらちょっとびくびくしている。だって彼女は仕事でミスをしないからだ。西野友美はミスをしないことでこのお局という立場に至った。彼女には確認力があるのだ。見返し力というか。学生時代もテストでケアレスミスをしないタイプだったのだという。
「必ず見返すから」
絶対。

絶対なんだという。

だから職場でもその能力はいかんなく発揮された。彼女はいわば、最後の締めというか。城を守る最後の、女中とかも長刀をもって籠城戦に向かうというか、そういうのの感じ。彼女が職場でその能力を生かして、そういう立場について久しい。仕事というのは流れがある。工場の様なラインがある。工場には見えなくても工場の様なラインがあって、始まりがあって終わりがある。

その終わりを彼女は担当している。だから誰がミスしたとか、誰が計算間違えたとか、誰が誤字脱字をしてるとかに至るまで、彼女は知っているのだ。

「これ間違えてます」
「ああ・・・すいません」
そして彼女はそれを言うタイプだった。過去、その悪夢のような場面に遭遇した際、抵抗を見せた奴が何人かいた。あるいはプライドか。抵抗とプライドと。どっちもかもしれない。
「お前の仕事だろ!」
そのあげく、彼女は啖呵を切った。そして、それは全てその通りだった。彼女が最後を守っているが故、仕事に不備が無くなる。営業先に失礼も無くなる。新しい契約もとれるし、ボーナスも弾む。そして彼女以外で何とかしようとする人間もいるにはいるが、でもそうすると必ずどこかでほころびが出てしまう。あるいは不倫関係とかが発生して、内々で退職されるみたいな処理が成される。

そうして結局残ったのが、彼女なのである。西野友美。生え抜きだ。

彼女が仕事の口を縛ってくれるが故に物事はうまくいく。それ故、彼女に逆らう人はいない。今はもう。そら昔はいたけども、でも彼女は戦闘民族のように戦戦う事も辞さないし、軋轢とかがあっても仕事をした。だからそれが逆に相手にプレッシャーを与えて変調をきたすのだ。彼女の正確性というのは世界レベルにおいても屈指であり、それゆえ、大抵の場合相手がつぶれる。潰れて退職して挙句横領とかも発覚したりして。

その西野友美。いわば歴戦の戦士。本陣の大将を守る最後の側近というか、懐刀というか。それが今日は朝から深刻な顔をしている。もちろんそんな彼女の事だからいつも笑ったりはしてないけど、でも今日は時たまある、いつもよりももっと深刻な日なのだ。見たらわかる。空気が違う。オーラも違う。彼女を中心としてブラックホール発生しそうな空気。
「今日大丈夫かな?」
だから皆不安そうだった。

そうしてそのまま何事も無く仕事が終わった際も皆疲弊していた。彼女の空気がプレッシャーになったんだろうと思う。わからなくもない。

でも、僕は知っていた。

彼女は明日開催の西友の5%オフを忘れないようにしているだけなのだ。

彼女は仕事以外では意外とぬけてる。

前回忘れたって言って悔しがってた。

「もうだめだ!世界の終わりだ!」
彼女はプライベートだと意外とそういう感じなんだ。普段はスウェットかユニクロのパーカーとかだし。で、前回開催の西友の5%オフを逃した時本当に枕に顔をうずめてうわーってなってた。

だから、三日くらい前からずっと言ってたもん。

「今回は絶対に忘れない。絶対に!絶対にだ!」
そう叫んで手をグーにして上下させてたもんあの人。原監督みたいになってたもん。

え?

何で僕がそれを知ってるのかって?

それはいいでしょう?

無粋だろって。

シリアス面

シリアス面

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-24

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