映像
もし瞬きが起動音を鳴らして
君の姿ごと背景を
丸ごと映してくれたら
もし一瞬が誰かの仕業で
数時間へと変わったのなら
したいことがあるのに
現し世、幻は
特に記すこともなく消えて逝く
昔を思い出していた
この暗い部屋の中で たったひとりで
もし心の奥底が見え隠れして
伝えたくないことだけは
上手に消すことが出来たなら
もし不安定なこの拍動が
呼吸と共に止まったなら
君は心配してくれるのかな
心配で泣いてくれるのかな
その涙の一滴を原動にしよう
水滴で電力を生み出そう
痛みばっかで塗り替えられたページを
なんとかまともに見られるように
声に出して君を探してみる
一切の気配が消えた夜に
思いつく限りの単語を並べてみる
一切の気配が 消えた 夜に
くだらない映像は僕だけのもの
編集もしないこれだけの素材で
生きてきた道のりを映そう
君が一層、輝いて見える
あの街はいつだって変わらずに
踏み慣れた土の上 アスファルトの上
でももうどこを探しても君はいない
君はもう次元の外だ
もし瞬きがシャッターで
微笑みがタイマーなら
笑って僕を待つ君ならば
上手に使いこなせるんだろうな
もし噂が本当だとしても
鵜呑みにするだけの僕じゃなくて
ちゃんと大切なものを見抜ける
君ならもっと上手くやるんだろうな
完成したこのフィルムで
色違いでお揃いの身体で
暗く染まる空の下駆け出した
僕らは いつだって一つだ
憚ること それを知ること
いつだって世界は疎らで
聞こえの悪い言葉だけを奪い
心情を捨てて歩き始める
ついていけない
星の回転に
軸を合わせて 進めない僕だけど
くだらない映像は僕だけのもの
ほんの僅かな巻き戻しさえ
許してはくれないこんな毎日が
立派で、美しくなります様に
祈りながら焼き写す
大粒の水で前が見えないけど
確かに君は居たんだね
この傷の中に居たんだね
くだらない、映像を残そう
誰が見ても笑ってくれる様に
君と僕が何より誰よりも
一番に、笑える様に
一切の気配が消えた夜は
なんの音もない無音の世界
一説によるとこの暗い夜は
いつか、夜明けを迎えるらしい
その日まで残り続ける僕らは
映像の中の主人公さ
どんな世界の果てだとしても
僕は君を好きだと、言える
映像