軽トラとFM

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昨日からの考え事が頭を離れない。
サエはガレージの奥から古い軽トラックを出してきて、ドライブする事にした。かつて父親が乗っていた20年物。
ギアとクラッチの操作は気分を紛らすのに丁度良い。
田舎道を駆ける事にしよう。

ドアロックは壊れているし、冷暖房もイカれてしまった。
かろうじてラジオは繋がる。サエはFMの周波数を合わせた。30キロ離れた街から電波を受けて、ノイズに紛れた音楽が流れた。
ブライアンのギターを聴きながら、サエは手動で窓を全開にした。ギアを変えて加速し、冷やりとした風で車内の埃を吹き飛ばす。自分の中身も入れ替わる様に感じる。

彼女は軽トラを運転する父親と、助手席に座った自分を思い出す。ギアを操作する父親の大きな左手の記憶。
2人だけの車内が気恥ずかしくて無表情な自分。周りに守られていた時を。

幾つかの古い曲とDJのお喋りと道路情報が流れ、紅葉の道をサエは駆けた。
30分程運転した所で馴染みの商店に着き、彼女は軽トラを停めた。缶珈琲と盛ってあった柿を買って店を出る。
珈琲を飲みながら、ふと空を見上げた。
車に乗れば何処でも空が見れる、車は空を見る為のツール、と言う様な話を最近聞いた気がする。
素敵な考えだけど、空があるから車がある、と言い換えてみるのはどうだろうか。空があってこその車と自分。
彼女はぼんやりと思う。

軽トラとFM

軽トラとFM

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-11-22

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