空軒

 悪魔は罰さえ呑みこんだ。わたしは世界の判決として海に押しやられた。罰を与えられた者はそれに服役するように、罰を主人としてしまう。
けれど悪魔はそうじゃない。おれは罰を下された人間であり、また、罰の主人なのだ、と体を蠢かせはじめる。
――体から部品が剥がれ落ちる。水中で魚たちは泳ぐ。魚たちにとっての水は、人間にとっての異物。水が私から部品を掠め取っていく。せっかく築いた文明の中で生きていた私が権利を奪われ、この海に沈んでいく。
 漂っていると、住み慣れた場所にひどく似た“街”が出てきた。海の底にも街があるのか。信じられなかった、でも私が人間社会から隔離され、海に沈められ、生命を保ったまま漂っていることも、きっと不思議なのだろう。
 街には人はいなかった。信号待ちをするのは魚。小学生の下校を見守るのも魚。小学生ですら魚。そして、私の職場で働くのも魚。
 光の届かない薄もやの街で、奇妙ということばは、どこか温かい。
 きっとあなたとはそれになれなかった。どうして。わたしの技量不足? 技量じゃない。その関係を求めるには自分は刺激を好みすぎたのだ。穏やかなあなたの顔を思い返すと、
もっと私と一緒になって、、。・。。・fちん96tn
だとか言ってしまいそうになる。しかし罪悪感もあるのだ。
星が見えない。見えなくていい、願うことはない。やがて私はやみくもな単細胞になるだろう。
私の意思によらず、みんな持っている脳の奥のところが今の私を導いた。この状況は地上で暮らしていた当時の私からすると劇的そのものだろう。何事か分からないまま、ここへ来た。そしていつか日常になってしまうのだ。

ここはとてもいいところよ

独房にしては広すぎるもう一つの世界、海。独房にしては色んなものと出会えすぎてしまう世界、海。みんなぐちゃぐちゃ。手を振りかざせば波動だって伝わるの。何かのキャッチコピーみたいだけど、ここは水中だから。
 
 本当は罰なんてないくせに
「でも、何かがそう定めたから、頭の中でそれは罰だって声がする。ちゃんと頭の中で物質も分泌されてーの。本当は罰なんてなくてもそう感じるならあるのと同じでせう?」
 ひとに備わる本能にはいくつか種類があるみたい。罰があるから私はこうです?
 神様に内緒でそれ食べたいな。って思った瞬間私は罰されなくちゃと思った。罰されたくないのに、ぶっちゃけ実際してはないから罰される道理なんてないのに、そう思った。だんだん罰されたくなってきた。してないのにね。どこかの絵画にこんなシーンあったっけ?
誰にも裁けるわけないでしょう。だからこれはタトゥーです。
 ねーどうしてそうやって生きてるの
 似合うからよー
 はやく幼稚園いきましょうねー
 構造を指摘して何が悪い したところで超越できないけどね
 はっと私は目が覚めた。夢でした、朝陽が射しこむ、二度寝したくなる、二度寝したくなるってことは現実だ、なぁおまえ中途半端なこと言うなよ、いっそのこと
 悪魔は罰さえ呑みこんだ? 
 楽園ってあれか、薄れていくものなのか
「なにもございません!」

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-11-21

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