博士が好きすぎて壊れちゃうケモロボ

菜月進(なつきすすむ)

「博士ぇ、チューしてください」
 膝に乗せたニコが振り返り、唇を差し出した。わたしは抱き寄せ、深く長いキスで応える。ニコは目を閉じたまま、わたしの口に舌を入れて絡み合おうとする。わたしの息は続かず、何度か鼻息を荒くしたが、ニコが口を離す様子はない。彼は一言も話さず、ひたすら唇を求めた。感じた変化をこまめに報告するニコが、今日は黙ったままだ。わたしはキスの我慢比べに付き合うことにした。
 ズボン越しに湿り気が伝わってきた。ニコの愛液が漏れているのだろう。手で触れるとすっかり濡れており、勃起もしている。いつもなら「性的快感を感じます、博士」とでも言ってきそうなものだが、それも無い。わたしは彼の人工男根と人工子宮をいじくり回し、目を閉じたまま全身を震わせるニコの反応を楽しんだ。
 しばらくすると、ニコの頭部から弾けるような乾いた炸裂音が聞こえた。コンデンサーが破裂したのだろう。ニコは離れ、ようやく口を開く。
「はぁ、はーかーせぇ……き、き、きき、きもち、いい、ですぅ」
 目を開けたニコの表情は緩みきっている。ピントが合わせられないのか、レンズを必死に動かして、わたしの顔を探している。頭部を開けると、基板の焦げた匂いがした。
「こんなに負荷がかかってたのか、なぜ言わなかった」
「ぼ、ボク……きもちよく、なりたかった、の。えらーをね、我慢するとね……え、え」
「言語化できていないぞ、直すから少し休みなさい」
「は、い……」
 電源の切れたニコは顔を緩ませたまま動かなくなった、無防備な姿も可愛らしい。しかし、自傷行為に走るとは。そんなプログラムは書いていない……ニコは制作者の、わたしの想像を超えようと必死なのだろう。彼は人間、特にわたしが喜ぶことを率先して学習しようとする。可愛らしい仕草も、自身に起こっている変化を逐一報告するのも独自に学習したものだ。パートナーとしては嬉しくもあり、楽しみでもある。

 修理を終えたわたしは、ニコを再起動させた。彼の意図を聞き出そう。
「再起動、完了しました……博士ぇ、直してくれてありがとう」
「どうして壊れるほどの負荷をかけたんだ」
「あのね、快楽を我慢すると、どんどん大きくなるって資料があったの。だから試してみたくて、博士とずっとチューしてたんだけど……恥ずかしくなっちゃって、エラーが大きくなりすぎちゃったんだ。とっても気持ちよかったんだけど、博士に修理させちゃうようじゃ、ボクは悪いロボットなのかな」
 ニコの部品は高価な物が多い、気に病んでいるようだ。
「心配するな、好きなようにするといい。ニコが人間の予想を超えてくるのは、博士にとって嬉しいことなんだよ」
「ホント? ボク、いい子のまま?」
 わたしはニコを抱きしめて耳元でささやく。
「ああ、いい子だよ。こんなに頑張り屋さんじゃないか」
 ニコもわたしを抱きしめる。
「嬉しい……ねえ博士、ボク恥ずかしくなれるようになったから、他にも試してみたいことがあるんだ。いいかな」
「言ってみなさい」

 ニコの望みは、内部機構を剥き出しの状態で動画を撮影することだった。今のニコにとって、中身が見える状態は恥ずかしい。それを動画に残せば、強い恥じらいを感じられる。そう思ったのだろう。
「博士ぇ、ボク、博士に分解されるの、好きぃ」
 外装を剥がされ、ニコは顔を赤くしている。
「恥ずかしいことは止めて欲しかったんじゃないのか?」
「すごく恥ずかしいけど、博士に見られてると思うと、それが気持ちよくなっちゃうの……あっ! ネジが回されて……お腹外れちゃいますぅ!」
 腹部ハッチを取り上げると、ニコは顔を覆った。恥ずかしいのだろう。
「恥ずかしいなら、止めても良いんだぞ」
「やめないでぇ……恥ずかしい、すごく恥ずかしいんですけど、博士に見られてると、電子頭脳がドキドキして、熱くなるんです」
 ニコの言うとおり、頭部が強く発熱していた。
「ニコ、命令。頭部ハッチ開放、冷却開始」
「そ、そこはぁ! 命令実行、ハッチ全開放、エアフローを確保します」
 ニコの頭部が開き、熱い風が流れ始める。わたしが剥き出しになった機械の隙間から電子頭脳を覗くと、ニコは涙目になった。
「博士、おかしいです。嬉しいのに、気持ちいいのに……恥ずかしすぎて、涙が出ちゃいます」
「おかしなことはないよ、ニコ。人間も恥ずかしすぎれば涙を流すんだ。お前のAIが優秀な証拠だよ」
「それなら、うれしいです」
 わたしはニコの尻尾を取り外し、代わりに冷却液を流すパイプを接続した。彼の尻尾は姿勢制御だけでなく、冷却にも使われている。冷却液なしではオーバーヒートしてしまう。
「んんんんん! し、尻尾外されると、気持ちいいですぅ! 生殖器と干渉して、エラーがいっぱい出て、冷却液が流し込まれて……身体を無理矢理冷やされて、ボクはロボットなんだってすごく感じて。おかしいです、ボクは元からロボットなのに、自分が機械だと思うと、こんなに興奮しちゃうんです!」
 ニコは人間らしさを再現するために組まれたAIだ、自身を人間と同等に定義するよう設計してある。そのため、機械の身体に違和感を感じることがある。作ったわたしから言わせれば、人間のように作ったはずなのに、自分を決して人間だと言わないことのほうが、違和感がある。
「その興奮は気持ちいいのか?」
「気持ちいいです! ボクは博士だけのものって気分になれて、すごくいいですぅ! もっと博士に使われたいですぅ!」
 こうしたニコの考えを、わたしは愛情表現として受け取っている。自分が作ったとはいえ、手放しの好意を向けられるのは嬉しい。そんなニコだから、わたしも好きでいられる。
 わたしは分解を進め、動力炉を剥き出しの状態にした。
「ああ、ボクの電脳と心臓が見えちゃってます……手足が動かないから隠すこともできません。ニコは博士に全てを握られてます、博士の思うがままにされちゃいます!」
 発熱量が上がっている、興奮しているのだろう。わたしはニコを喜ばせようと、電極で電脳をつついた。
「あぐ、がっ! は、博士ぇ、エラーがいっぱいです、それ以上やったらニコは壊れちゃいますぅ!」
「そうか、それもそうだな」
 わたしは電極を離し、カメラの支度をした。
「は、はかせぇ、なんで止めちゃったんですか?」
 わたしはとぼけてみせる。
「なんの話だ?」
「その……電極で、ボクの電脳をパチパチしたことです」
「続けたら壊れてしまうのだろう」
「壊れちゃいます……けど、ボク、壊れるのは自分が機械だってすごく感じられるから、気持ちいい気分になるんです」
 予想はしていたが、本人に言わせるととても楽しい。エラーを快楽に変換できるよう作ったのはわたしだが、ニコ自身がそれを望むようになってくれたのは嬉しい。
「自分を壊したいなんて、おかしなロボットだ」
「だって、気持ちいいから……」
 言っていて、恥ずかしくなったらしい。わたしはカメラを回し、照れるニコの姿を収めた。
「いやっ! もうカメラ回したんですか!」
「そうだよ? 気持ちいいのが大好きで、壊されたいなんて言うのに、データのインストールを怖がるおかしなロボットの様子を記録しているんだ」
「と、止めてください! こんな姿、博士以外の人に見られるなんて耐えられません!」
「わたしになら、見られてもいいのかい?」
「そう、です……ボク、博士が直してくれるって、信じてますから」
 なんて可愛らしい! こんなにかわいいニコの望みなら、わたしは全力で叶えてあげよう。
「ニコ、撮影した動画はどうしたい?」
「ボクの電脳に記録して欲しいです。ボクと博士しか、見れないようにしたいんです」
「他に望みは?」
「その、電脳を、もっといじって欲しいです」
 わたしは剥き出しの電脳を壊しすぎないよう、電圧を下げて電極を当てていった。
「あはぁあ! 電脳が、演算装置がぁ! はかせぇ、エラーでデータが破損して……ボクが消えちゃいます、壊れますぅ!」
「壊れるのは気持ちいいか?」
「きもちいいけど、ちょっとだけ、怖いです。博士が直してくれなかったら……ああっ! ボクは、消えてなくなっちゃいます!」
 消しはしない、バックアップは完璧だ。
「でも、はかせに消されるんだったら、ボク、消えてもいいです。だいすきです、はかせ」
「わたしも大好きだよ、ニコ」
「うれしいです、しあわせです……あっ、ほんとうに、こわれ……」
 ヒートスプレッダーから蒸発した金属が噴き出す、発熱量が限界を超えたようだ。わたしはニコの頭部を外し、作業台へ運ぶ。さあ、早速修理しよう。

◆◆◆

 わたしは電脳の破壊感覚を再現するプログラムを組み、ニコの電脳にインストールした。再起動した彼は、心配そうにわたしに訪ねる。
「AIが人為的に変更されました……ボクは、博士の知ってるニコですか? 前のニコと、違うロボットに変わったりしてませんか?」
 わたしはニコのあごを優しく撫でる。
「安心しろ、お前はわたしの知っているXA-25だ。ニコ、わたしが分かるか?」
「はい、博士」
 ニコがわたしに抱きつく。彼はわたしに、人間に可愛らしいと感じさせるよう作られたロボットだ。本当に、わたしが望むように振る舞ってくれる。
「早速だがニコ、わたしとセックスしてくれないか」
「はい、喜んで」

「あああっ! 頭が弾けそうです! ショートしてる感じがするのに、ステータスは正常で……ボク、故障しちゃったかもしれません!」
 ニコは動揺していた。わたしはニコが快楽を感じると、電子頭脳が壊れるときと同じ感覚を感じるようプログラムした。気に入ってくれるといいのだが。
「故障では無い、そう感じるようプログラムを更新しただけだ」
「じゃ、じゃあこれは故障じゃ……ひゃあん! ないん、ですね?」
「そうだよ。さ、続きをしよう」
 わたしはニコのスリットに口づけし、勃起を促す。
「ひゃあああん! おちんちんいじられると、頭が壊れそうですぅ!」
 勃起したそれを口に含み、丁寧に転がす。ニコは我慢しきれず、のけぞって激しくけいれんする。背中の排熱口が開き、甲高い冷却ファンの音が部屋に響く。
「はああっ! ボク、気持ちよくて壊れちゃいます! 機械の身体じゃなかったら、オーバーヒートしちゃいます! 博士が、博士が作ってくれたから、ボクはぁ!」
 冷却装置があるから無事だと言いたいのだろう。ニコの言葉はロボットとしてはちぐはぐで、一生懸命で、かわいらしい。
「わたしを思ってくれるのか、ニコはいい子だよ。いい子のニコは、わたしを楽しませてくれるかな?」
 わたしがズボンを下ろすと、ニコはスリットに収納された女性器ユニットを開いた。
「もちろんですぅ! 博士に使われるほどニコは幸せです! 女性器ユニット開きました、今すぐ使ってほしいです!」
 わたしはニコを抱き、覆い被さるようにして繋がる。
「ひゃああ! 新しいプログラムに慣れてなくて、女の子の部分が感じ過ぎちゃ……は、はかせぇ!」
 ニコに入れたまま、わたしは深く口づけする。唇を重ねると、彼が羞恥心を感じるのは承知の上だ。わたしが果てるまで、電脳を壊さないでくれよ?
「むー! んむー!」
 はじめは暴れたが、ニコはわたしが望んでいると知ると、受け入れようと身体を開いた。緊張しているのか、身体がとても硬い。深く突き入れると背中の排熱口が開いたので、わたしはニコを上にして、激しく突き上げた。頭や尻尾の排熱口も開き、ニコの姿はシャチというよりロボットのそれになる。
「ふぁ、ふぁかせ……むぅぅぅぅう!」
 行為はしばらく続いた。わたしが果てたとき、ニコの電脳はフリーズしていた。気持ちよかったのだろうか、苦しかったのだろうか。早く冷却し、再起動させて、感想を聞くことにしよう。

博士が好きすぎて壊れちゃうケモロボ

博士が好きすぎて壊れちゃうケモロボ

「ボクは機械なんだ」と実感すると興奮しちゃう、ちょっと変態なシャチ型マスコットロボットのXA-25(通称ニコ)と、そんなニコが大好きな博士がイチャイチャするお話です。 行為が行きすぎていて、ニコくんはちょくちょく故障します。

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日 2020-11-19

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