ラウンドカンミ!

手焼 水慈雨

  1. 一話 早朝の目覚め
  2. 二話 村長の頼み
  3. 三話 仲良き姉妹
  4. 四話 金色揺れて
  5. 五話 エドメルド城
  6. 最終話 狭い玄関で……

一話 早朝の目覚め

「…………あっつい」
 真夏の太陽がラウンド村という陳腐な農村にある、老朽化した木造二階建ての家を照らす。その家の二階で寝ていた、あたしの部屋の中にまで照らしつけてくる。焼け付くような日差しを顔に浴びて、強制的に覚醒させられる。
 あたしは顔をしかめて、額に走る汗を手の甲で拭う。のろのろと上体を起こし、あれ? カーテン、閉めてなかったかなと思いながら手を振り上げる。ぐ~っと背中を反らす伸びをして、ふうっと軽いため息をつく。農業の手伝いを始めた頃は、毎日のように体がバキバキだったな~。
 そんなことを思っていると、ハッとなる。
「……まさか、日焼けしてないよね?」
 あたしは日が当たり、顔の右半分だけ熱を持っていた頬を手でピタッと触り、労るように撫でた。うん、もち肌だね……じゃなかった。慌てて、買ってからすぐに落とし、自由を求め這い出しているバネが印象的になってしまった、アナログ時計へ目を向ける。よかった、まだ朝早いから大丈夫か……安心した。とはいえ、二度寝ができるような時間でもないから、もう起きないとね。
 そう自分に言い聞かせ、掛け布団代わりのシンプルなタオルケットをのけて、足をベッドの下へ投げ出す。鎖骨の辺りまで伸びている赤茶けた髪が、離れまいと肌へ張り付き、予想以上に汗をかいていたことを実感する。
 さ~てと、うがいでもして顔を洗おうかな。重い腰をよいしょっと、年寄り臭く上げる。すると、同じタイミングで部屋のドアが、軋む音を立ててゆっくりと開いていく。

 そして現れたのは、あたしと同じ髪型と髪色に透き通った青い瞳、ふっくらとした健康的で真ん丸な顔の女の子。着ている水色のパジャマの丈が長すぎるためか、裾で両手は隠れ、両足にいたっては踏んずけてしまっている。
 このあたし、日ノ良(ひのよい)カンミの妹、日ノ良トルミだ。見た目は十歳ぐらいだけど、あたしの五つ下の十三歳で、本人は幼く見えることを気にしている。
「おはよう、お姉ちゃん……やっと起きたんだね……」
 トルミはあきれた顔と半目で、恨めしそうに声を絞り出す。
「え? いつもとおんなじ時間だよね?」
 あたしはキョトンとしてベットに座りなおし、挨拶を返すのも忘れて質問をした。むしろいつもより、少し早い時間なのにと思いながら。
「やっぱり、夜中に地震があったの知らないんだ。結構揺れたよ? あと強い風も吹いたし」
 地震? 風? 熟睡してたから全く心当たりがない。でも強風が吹いたのなら、カーテンが全開になってたのも納得がいく。
「私は大丈夫だったんだけど、お姉ちゃんが心配になって見に来たら、グースカ寝てたんだよね」
 トルミは腕を組み、小さい背で見下ろそうとしてくるけど、ベットに座っているあたしと目線は変わらない。でも、突き刺さる視線が痛い。
「それなら、来たついでに起こしてくれたらよかったのに……」
 地震があったら、あたしだって妹のことが心配になるよ。まぁ、気付けって話なんだけど。
「あ~こりゃ、家が潰れても起きないわ、と思ってほっといたよ。どうせ起こしても役に立たないし」
 妹に面と向かって役に立たないと言われると、姉としてはかなり傷付くね。そんな心情を悟られまいと、あたしは口を開く。
「まぁ、お互い怪我が無くて良かったよ。うん、良かった。それにしても、この村で地震なんて珍しいね」
「あれが原因じゃないの?」
 トルミが横着に顎で窓を指す。もう、ちゃんと手を使いなよと思いつつも、目を向けると。
「うわ! なにあれ? 城!?」

 昨日までの窓からの眺めは、多種多様な畑や水田が辺り一面に広がり、その奥には山々が連なり稜線が雲に隠れるまで続いているという、平凡だけど心が落ち着く景色だった。
 しかし、一夜で一変していた。村と山の間に、高さ十メートルほどの真っ白な城壁があり、四隅には同じく真っ白な塔がそびえ立っている。その城壁に囲まれた中には、ひときわ大きい台形状の城が何食わぬ顔で居座り、頂上にはまさに豪華絢爛といった巨大な王冠が被せてある。土台部分は質素ながらも神聖な城といった感じを醸し出しているが、頂上に品がない。
 城かな? それとも宮殿なのかな? 城壁があるから城でいいよね。いや、そんなことよりも気になることが……。
「村に……隣接してる?」
 この城、近い、近すぎるよ。村を出て十歩も歩かずに、城壁にあるインターホンを押せるよあれ。もうちょっと遠慮してよ。そもそも、城壁にインターホンってあるの? あるとしたら来客のとき、毎回ピンポーンという場にそぐわない無機質で質素な音が城内に響き渡り、お手伝いさんが城門へ我先にと殺到するのかな。ピンポンダッシュなんかされたら過労死するよ。その場合、労災が――。
「ふあぁ~あ、私あまり寝られなかった。また寝るから、朝ごはんは適当に食べといて。冷蔵庫にあるやつ」
 あたしがしょうもないことに思考を巡らせていると、トルミは目をこすりながらあくびをして、最後まで言い切る前に踵を返す。が、またすぐに踵を返した。つまりその場で綺麗にくるっと一回転をした。どうしたんだろ? 寝不足で妹が壊れた? ……そうか! 姉と添い寝がしたいのか!
「大事なこと言うの忘れてた。村長、が話したいことがあるから、午前中に来いってさ」
 恐らく早朝に電話で叩き起こされたんだろう。トルミの『村長』の言い方は、怒気を帯びていた。
「村長が? 何の用事だろう?」
「さぁね。そこまで聞いてない。……それじゃあ、ちゃんと伝えたからね」
 もう私はお役御免といった感じで、トルミが帰ろうとする。……あれ? 添い寝は?
「あっ、待ってトルミ! 恥ずかしがらなくてもいいから」とトルミを引き留める。
 そして、両手を目一杯広げ、満面の笑みを浮かべて優しく迎える準備をする。
「ほら、おいで。無理せず素直に甘えてもいいんだよ。あたしは全然かまわないからさ。ねっ!」
 ああ、なんてあたしは妹思いの姉なんだろうか。最後の、『ねっ!』の部分ではウインクまで決めてやった。自己陶酔がすぎるかもしれないけど、これでトルミは感極まって、あたしの胸にダイブして来るに違いない。
「……こんな朝から熱中症? カーテンぐらい閉めて寝たら?」
 トルミは怪訝な顔をした後、奇怪なものを見るような目で吐き捨てるように言い、部屋を出ていく。開けっ放しにされたドアの向こうから、階段を降りる、トタッ、トタタッ、トタ、という足音のリズムが危なっかしい。
 一方、妹から奇怪人間扱いされたあたしは両手を広げ、満面の笑みのままで停止していた。せめて一回だけでも抱きしめたかった……。一階から聞こえるドアを閉める音で、我に返り真顔になる。窓の外から聞こえる小鳥の鳴き声が、穴の開いた心に沁み込んでくる。
 さっさと村長に会ってこようかな。心が折れないように自分に気合を入れて、飛び上がるような勢いでベットから立ち上がる。すると、全身の力が急に抜ける。ああ、これ、立ちくらみだ……。視界が急激に傾いていくが、何もできず直立したまま横にぶっ倒れた。肩を強打しただけで、頭を打つのは免れたが、タンスでも倒れたかのような打撃音が発生した。当然、それは一階にいるトルミにも聞こえるわけで――。
「ドタバタするなっ!」
 トルミの怒号に恐れおののき、謝罪の言葉を口にしようとした。が、それすらも怒られそうなので、立ちくらみで引いた血の気をさらに引かせ、ごめん本当にわざとじゃないから、と心の中で謝った。
 
 あたしは、食パンと牛乳という軽い朝食と身支度をして、ポニーテールに結んだ髪を微かに揺らし、そそくさと家を出た。外に出ると熱気が襲い掛かってくる。今日も暑くなるな~、どうせなら電話で要件を言ってくれればいいのに。夏の太陽の元気さと村長の回りくどいやり方に、辟易しながらも歩き始めた。

二話 村長の頼み

「おはようございます。カンミです」
 あたしは、村の中で一番大きい屋敷の玄関前に来ると、セミの合唱にかき消されないように大きな声で挨拶をする。本当はそんなことをしなくても、昼のあいだは屋敷の一階は開放されているから、自由に出入りしていいんだけどね。理由は、清らかでおおらかな村長だから、ということのアピールらしい。だけど礼儀として、あたし含めみんな挨拶をしているから意味がなくなってるけど。ちなみに、唯一トルミは「何でみんな頭下げてるの?」と、気にせず我が物顔でズカズカと入っていく。
 
「うむ、来たか。意外と早かったな」
 家の奥から頭を輝かせながら村長が顔を出す。村長曰く、頭はハゲているわけではなくスキンヘッド。わざわざそんなことを言ってくるってことは、たぶん嘘なんだろう。もう七十歳なんだから別にいいんじゃないかな。あたしも全く気にしてないし。
 それよりも、トラ柄の上下ジャージという恰好……そっちのほうが気になって仕方がない。おまけに、でっかいトラの顔がこちらを睨むようにプリントされている。
「はい、できるだけ早い方がいいかなっと思って」
 まさか、妹から逃げてきました、と馬鹿正直に言うわけにもいかないので、トラに少々気圧されながらも適当に答えておく。
「それで、あたしになんの用があるんでしょうか?」
「まぁ、中に入れ。そこは暑いじゃろ」と村長はそう言うと奥へと消えていった。
 あたしは農業の手伝いじゃないという理由で、半袖で出てきてしまい、後悔していたので助かった。日焼け止めクリームの上からも、焦がしてくるような紫外線から肌を守るため、駆け足で日陰に行く。遠くでトラクターの始動音がしているのを耳にして、今日はあたしがいなくても大丈夫かなと、気を引かれながらも中に入る。
 
 あたしは玄関で靴を脱ぎそろえ、足を踏み出した瞬間、酸っぱくて何かが腐ったにおいが襲う。もう子供の頃から何度も経験しているこの加齢臭だけど、やっぱり慣れないな。
 顔をゆがませ、咳き込みそうになったがなんとか堪え、やけに光沢感がある床を歩き出す。案の定ワックスがけがしてあった。今朝のように再び転倒することをさけるため、慎重になってがに股で歩いてゆく。なんとか前を行く村長に追いついた。
 ワックスしてるならせめて一言欲しいな~。そう思って、非難の目を村長の背に向ける。そこには、申し訳そうな顔のシマウマの顔があり、自分の目を疑った。そのシマウマは、見方によっては憐れんでいるようにも……。トラとシマウマの対比? トラは獲物が真後ろにいることに気付かず、シマウマは内心トラをバカにしている、みたいな? なんにしろ、こんなものを着ている村長の気が知れない。まぁ、ほかに着るものがなかったんだろうけど。

 あたしは、十五畳ほどの広さがある居間に通され、その中央の長机に、村長と向かい合うようにして椅子に座る。
「昨夜、地震が起きて、村の近くに城が現れたのは知っているな?」
 村長は他の椅子よりも、ひときわ大きくて肘掛けの付いた椅子に腰を下ろすやいなや、本題に入ってきた。
「ええ、あたしは気付かなかったんですけど、朝起きたら妹に地震があったって言われました。それで、外見たらなんか城みたいなのが、こう、どーんとあって、びっくりしましたよ。このくらい大きいんですよ」
 城の大きさを伝えようと身振り手振りを加えて説明したが、そんなことは当然村長も知っていることに、言い終わってから気付いた。
「その城のことなんじゃが、邪魔くさいからお主ちょっと行って追っ払ってくれ」
「あ、はい、わかり……え? はい?」適当に返事をしかけて聞き返す。邪魔くさいから、何て言った?
「もちろん、城ごとな」と村長はそう追撃してくる。「ちょっと待ってください。お、追っ払うって……魔王とかいたらどうするんですか?」
「あの城からは、魔力や殺気を感じん。おそらく城主は、ここまで城を移動させたことでかなり疲弊しておる。万が一、魔王だとしても……お主なら大丈夫じゃろう」
 この村長は、若い頃は名の売れた腕利きの戦士だったと、普段から自慢しているから、殺気などを感じ取ることができるんだろう。だけど、いったい何を根拠に『お主なら大丈夫じゃろう』と言ってるの? あたし一般人ですけど。
「あたし一人だけなんですか?」
「お主ら姉妹は魔法が使える。だが妹はまだ小さいから、無理じゃろ」
 いや、妹じゃなくて他の村人のことを訊いたんですけど。
 村長の言うようにあたしたち姉妹は、魔法の素質がある。遥か昔は、多くの人が魔法を自在に操ることができ、魔法学校も存在していたという。しかし、約三百年前、勇者なんちゃらが魔王なんとか――ごめん、どっちも名前忘れた。――を倒し、世界に平和が訪れてからは徐々に廃れていった。たぶん、魔法の必要性がなくなったから、人類は無駄を省くための進化をしたんだと思う。いやこの場合は退化かな?
 そして今は、魔法が使える人はあたしたち姉妹みたいな、先天的に素質がある人だけだ。まぁ、特に魔法の勉強をしていないから、使えるといっても初級魔法だけなんだよね。魔族や魔王相手には焼け石に水だと思う。……火属性しか使えないけど。
「それにこの村はわしを除き、一度も闘いを経験したこともない、アホの高齢者ばかりじゃろ?」
 同意を求めるように言われても返答に困る。確かに、やれ膝が痛い、腰が痛いだの「ひれはがほんなぁ、ひんひおふあ(入れ歯が飛んだぁ、新記録だ)」とか言って、ガッツポーズしてたりするから、全く頼りにはできないね。
 挙句の果てには……。
「おーい、飯の時間はまだか?」
「坂道さん、さっきおにぎり、一緒に食べたじゃないですか」
「あ? おいトルミ! 何だその言い方はぁ! 御前、俺が認知症だと言いたいのか? ふざけんじゃねぇぞこの野郎!」
「え?! ちょ、ちょっと! 坂道さん、落ち着いて! 鎌振り回さないでーー!」と、もう少しであたしの頭が、仲良くキャベツと並びかけたこともあった。
 奥底にそっとしまって置いていた、半死半生の思いをした記憶を呼び覚まされて気落ちする。あたしは疑問に思ったことを尋ねる。
「あの~、あたしも戦闘の経験なんてほとんどな――」
「わしは午後から隣町へ行く。そこの町長に呼ばれているんでな。今から準備をせねばならん。では城のことは頼んだぞ」
 あたしの言葉を遮り、村長は説明口調でまくし立てると、風を切るように居間から出ていく。一人取り残され、セミの鳴き声だけが虚しく響いている。……もしかして村長、逃げた?
 
 あたしは口を開けたまま呆然としていたが、いつまでもここにいる訳にはいかないと、力なく腰を上げた。村長がみんなをアホ呼ばわりしていたって、言いふらそうかなぁ。実際にはそんなことをする度胸はないから、口の中で毒吐く。
 床板に反射した自分の不満げな顔を見ながら、村長宅を後にした。

三話 仲良き姉妹

 あたしは自分の家にひとまず帰り、トルミに村長に言われたことをそのまま説明する。トルミはもう起きていたが、白昼夢でも見ていそうな顔をしていて、真剣に聞いているんだか、睨んでいるんだか分かりづらい。
「ふぅ。あのジジイもついにボケたか」
 一通り説明し終わると、トルミは飲んでいたミルクティーから口を離し、まろやかな香りと暴言を放つ。
「こら、ジジイはやめなって」
 あたしはトルミの頭を叩くふりをして、言葉遣いを正そうとする。だけど、今までに効果が出た試しがない。
「ジジイでいいよ、あんなのは。隣町にもどうせ会議とかじゃなくて、女だよ。女を追いかけてのキャバクラ目当て。しかも村の金を使ってね」
 トルミは発言を訂正することもなく、矢継ぎ早に言う。したり顔が妙に様になっている。この子は、キャバクラがどういうところなのかを知っているのか。こんな田舎村のどこで憶えたの……。
「村の金を勝手に使っているのは、ただの噂だよ」
「そんな噂が出るぐらい、能力も実力も人望もないってことよ」
 あたしは少々あきれながら、村長の擁護に回るも、トルミはボロ雑巾を扱うかのように、滅多打ちにしてくる。
 能力も実力も人望もないか……そういえば、そんな諺があったような。あたしは人差し指を顎に当て、思案する。
「たしかそれって、カナエが丁重に断られるっていうやつだよね」
 ……時が静止する。別にあたしが止めたわけではないが、トルミは硬直し、あたしをじっと見つめて動かなくなった。あれ、間違ってた? いやいや、単にトルミが知らないだけだね。
 あたしが、こんな諺を知っているのには理由がある。
 村の人たちはあたしによく話しかけてくる。休憩時間のみならず、仕事中でも世間話をしてくるので、時間内に仕事が終わらないこともしばしばある。でもそのおかげか、自然と色々な言葉を覚えるようになった。余談だけど、おじいちゃんにナンパされることも多い。村内に若い女性が、あたしだけしかいないからだろうね。
 妹へ知識を分け与えるのも、姉としての義務だよ。そんな姉の思いを知ってか知らずか、トルミは視線をあたしから逸らさない。その曇りのない蒼天の瞳の奥で、あたしの言葉を反芻し、言語情報を処理しているんだろうか。
「………………それを言うなら、『鼎の軽重に問われる』よ! 誰、カナエって? 何して断られたの?」
「! そ、そうそう、そういうやつ……あはは」
 あたしは驚愕の事実に動揺し、頬が上気する。自分の勘違いを笑うしかなかった。この子はよく本を読むから、あたしより賢いかもしれない……。全国のカナエさんにはいずれ謝っとこう。
「普通は間違えないけどね。はぁ、疲れた。もうとっとと行って、終わらしてきてよ。わたしは家で勉強してるからさ」
 ものを知らない姉とはしばらく話したくないと言わんばかりに、あたしを邪険に追い払おうとする。昔は、お姉ちゃんのそういうところは嫌いじゃないと言ってくれてたのに……。
 
 よーし、城に出かけるか。蛇が出るか、魔王が出るか分かんないけど、今までの人生なんとか生きてきたし、大丈夫だよね。あたしは謎の根拠とポジティブで奮い立つ。
 武器を持って行った方がいいかと考えて、物置小屋を開ける。そこでふと、引っ越しのお願いをしに行くのに武器を携帯するのはどうかと思い、手ぶらで行くことに決めた。まぁ、武器といっても、この家どころか村にも、鋤・鍬・鎌などの農具ぐらいしかない。こんな物を持っていても、通りすがりの農家のおばちゃんが迷い込んだと思われるのがオチだろうね……。炎天下の中を歩いて行くのに備えて、つばの広い麦わら帽子を被り、水筒を肩から提げる。何だか、遠足に出かけるような恰好だけど、これで準備は完了。

「じゃあ、行ってくるね」
「あ、お姉ちゃん。待って、行かないで」
 手を振って勢いよく玄関から飛び出したあたしは、トルミの懇願に袖を引かれて、たたらを踏んだ。
「ト、トルミィ! 分かったよ、お姉ちゃん……もうどこにも行かない!」
 よく知らないけど、これが俗に言うツンデレというやつか! かわいい、かわいいぞ、トルミ。あたしは妹の名前を叫び、髪が乱れるのも構わず、晴れやかな笑顔で振り返った。目が潤んでいる妹の顔を早く見たいという一心で!
「ほら、時間。お昼ご飯食べていきなよ。今から作るからさ」
 トルミは正午を指している時計を手に持ち、無感情、仏頂面でそう告げると、台所へと入っていく。あの子、わざと行かないでなんて言ったな……。近所のおばちゃんに、「このくそ暑いのに、ホント元気のいいことねぇ」と羨ましそうな目で見られてしまう。
 午後になってまた一段と空気が、あたしの心の中とは対照的に熱せられていく。トルミは満面の笑みとは無縁なんだろうなぁ……。

四話 金色揺れて

 あたしは、トルミの作ってくれた昼食を済ませ、雲の切れ目からでも容赦ない陽射しが降り注ぐ、午後の畦道を歩いてゆく。頭をすっぽり覆ってくれる麦わら帽子を被っていなければ、一溜りもない。わらの香気に全身を包まれると、心なしか涼しさを感じ、気分が落ち着く。稲の草原を眺めながら、ついさっき見た妹の仕草を思い出す。
 
 家を出る間際にトルミが「晩ご飯は何がいい? 一応、何でもいいけど」と、聞いてきたから「何でもいいの? 天ぷらが食べたい。ごぼうの天ぷら、それと唐揚げ」とすかさず返した。
 トルミは眉をひそめると、不承不承といった様子で頷く。「よりにもよって揚げ物……」と小声でつぶやいたようにも見えた。実際は、風に乗ってあたしの耳まで運ばれて来ていたんだけど、たぶん空耳。舌打ちもおまけに付いてたけど、これは気のせい。
「じゃあ、お姉ちゃん行くね」
 手を振るあたしに対して、トルミは「んー」と顔まで上げた右手を、開いては閉じてを繰り返して見送る。手を振る気力すら無くなったらしい。うーむ、この仕草、招き猫に似ていて愛らしい。一家に一台、招きトルミ。
 そんな馬鹿げたことを考えていると、遠方の木陰に、巫女服を着た女性がいるのが視界に入った。木にもたれて暑さをしのいでいるのかな?
「この村にお客さんなんて、しかも巫女さん?」
 あたしは立ち止まり、そう独り言を呟く。声を出すと喉の渇きに気付かされ、水筒の水を一口飲んで一息つく。見間違いかな、遠くてよく見えない。本物だったら話してみたいな。あたしは好奇心に逆らえず、その珍客へと足を向ける。
 
 遠目では分らなかった巫女さんの容貌が、近づいていくにつれ、はっきりしていく。ショートボブのおかっぱ頭が、風の悪戯で素顔を見せまいと揺れている。漆黒の髪に瑞々しい肌の対比は、見事に調和されて、見る者の舌を巻くに違いない。小柄で幼く見えるが、それとは相反して、首筋へ滴り落ちる汗が艶めかしい。腰には、小さいたらいのような物をぶら下げて、ときおり木漏れ日にきらりと光っている。
 そして、何よりも異彩を放っているところは、頭から黄金色をした狐耳が生えていること。最初はカチューシャかと思ったが、ときおり周囲を警戒するようにピクピクと動いている。狐の妖怪……にしては尻尾が見えない。あたしの足音が聞こえたのか、顔を上げて手を振ってくれた。敵意はなさそうなので、ちょっと声をかけてみよう。
 
「こんにちは。今日は暑いですね~」
「どうも、こんにちは。確かに酷暑じゃの~、まるで鍋の中で煮えられてるようじゃ」
 予想外の老人口調に少々面食らう。しかも、少女のような声とセットだから尚更だ。少女の声といっても、落ち着いた川のせせらぎのようで耳に心地いい。そのため、口調と合わさり優雅な雰囲気を醸し出している。巫女さんがもたれていた木から体を離すと、隠れていた一尾の尻尾が顔を覗かした。穢れのないそのもふもふを、抱きしめ頬ずりしたい……。あたしは尻尾をまじまじと見つめてしまう。
「ど、どうしたんじゃ」
「あ、いえ、妖怪を見るのが珍しくて」
 巫女さんがたじろいでしまったので、あたしは慌てて両手を振り誤魔化す。
「そうか……まぁ、わらわも同族に出会うことはほぼなくなったしのう。今となっては旧友ぐらいじゃな……」
 そう言った巫女さんは、過去を懐かしんで寂しそうにしている。垂れた耳と木漏れ日が相まって、哀愁を漂わせる。
 あたしに妹がいるからか、暗い顔をしている小さい子を見ると姉心をくすぐられる。実際は妖怪だから、あたしよりずっと年上だろうけどね。話題を変えてみよう。
「その服、巫女服ですよね。どこかの神社で働いているんですか?」
「こんななりじゃが、巫女ではなく神主をやっておる」
「神主だったんですか! どうりで威厳があると思いました。全てを包み込んでくれそうな、その大きな尻尾も貫禄がありますよ」
「そうじゃろっ。なにせ、わらわはあの末尾(まつび)神社の末尾(まつび)カナエじゃからな! あははは! 凄まじいじゃろ~」
 末尾さんは、身を寄せてきてあたしの肩を軽く叩き、なぜか勝ち誇るように言う。まさかこんな打って変わって元気になるとは……。いったい何が凄まじいんだろう? あの末尾神社って言われても、聞いたことないよ。腰に手を当ててまだ笑ってるし。あの優雅さはいったいどこへ。
「えーっと、あたしはこの村で農業をしている、日ノ良カンミと言います」
 一人で大笑いしている妖怪に、何とも言えない恐怖を憶えるが、取り敢えずあたしも自己紹介をしておく。顔が引きつっていたと思うけど。
「……って大丈夫ですか」
 末尾さんは、笑いすぎて息も絶え絶えといった感じだ。目を潤ませながらも手を挙げて、大丈夫だと答えてくれる。
「ふう~」とロウソクを吹き消すように息を吐き、冷静になる末尾さん。
「お主は日ノ良カンミと言うのか。いい名じゃな。」
 末尾さんは腕を組み、しみじみと頷くと。
「どうじゃ? カンミよ。末尾神社へ一度来てみんかえ? 最近人が全然来なくてのう、寂しい限りなんじゃ」
 憂いを帯びた顔をして、あたしを参拝に誘ってくる。もしかして、神社への勧誘活動でこの村に来てたっぽい? ん~、そんなに人が来ないのか~、だったらトルミといっしょに行こうかな。喜んでくれそうだし。
 あたしは返事をしようとして、さっき聞いた末尾さんの名前を思い出そうとする。カンミって呼んでくれたから、あたしも名前で呼んでいいよね。確か、カナエだったかな。神社の神主がそういう名前だと、なかなかご利益がありそ…………え? カナエ? トルミの前で恥をかいた記憶が蘇ってきてしまった。カナエさんがいたよ。とりあえず謝ろうか? 待て待て、カナエさんにはカナエさんのことは関係ないし。……なんか混乱してきた。
「やっぱり、神社には興味ないかのう……」
「すみ――い、いえ、是非ともお願いします! カナエさん!」
 あたしはつい出そうになった謝罪の言葉を飲み込んだが、まるで師匠に教えを乞う弟子のような言葉が口から出てしまった。
「おおそうか、是非ときたか。そんな若者は初めてじゃ」とカナエさんの胸には響いたみたい。
「それなら今から来るか? 場所は分かるか? 案内してやるぞ? ちと遠いが大丈夫か? ん?」
 カナエさんは嬉しそうに微笑みながら、一言ごとに左右に揺れて迫ってくる。孫に接するおばあちゃんか。でも尻尾はそんなに動いてないってことは、犬とはやっぱり違うんだ。西に傾きつつある夏の陽射しが、あたしの足を熱しているのに気付く。どうやら無意識のうちに、後ずさりしていたらしい。
「今日はちょっと、ダメなんですよ。あの城に用事があるので」
 あたしは王冠が日光を乱反射させて、非常に鬱陶しくなっている城を指差す。カナエさんもその城を見据えて口を開く。
「わらわも気になっておったんじゃが、あの城はいつ出来たんじゃ? あれほど俗悪で目立つ建造物なら、山の中腹にある、末尾神社からでも見えそうなもんじゃが」
「半日前ですね」
「は?」
 カナエさんは、首がもぎれ飛ぶんじゃないかと心配になる勢いでこちらに向き直ると、あんぐりと口を開けたまま『何を言うとるんじゃこいつ』といった表情になる。このままでは、あたしが虚言癖だと思われかねないので、要点をかいつまんで事情を話す。
「なるほどのう」
 カナエさんは腕を組みそう言うと、あたしのことを案じてか、憂いのある表情で見上げてくる。
「カンミよ、一人で行くのは不安じゃろ。神社に来てくれる礼も兼ねて、わらわも協力しよう」
「いいんですか。ありがとうございます。戦える人が一緒だと心強いです」
 あたしはカナエさんの手を、両手で優しく握り合わせ感謝をする。暑さのせいだろうか、カナエさんの頬は赤らんでいるように見えた。
「戦闘については、あまり期待せん方が――」そう言うとカナエさんはそっぽを向き、「式神は全部……」と何かを小声で言っていたが、後半部分が聞き取れなかった。
 どうしたのかな? あたしが心強いなんて言ったから、プレッシャーに感じているとか。別に戦いになるとは限らないから、そんなに気負いしなくてもいいと言っておこう。
「カナエさん、別にあたしは――」
「わらわに任せておけ! よし、すぐに行こうぞ」
 カナエさんはあたしの言葉を遮って、自らを鼓舞するように両拳を振り上げる。そして、あたしの背後の畔道をずんずんと歩いてゆく。歴戦の戦士のように見えるその後ろ姿に、思わずついて行きたくなったけど、城とは真逆の方向なんだよね。
「カナエさーん、そっちじゃないですー! こっちこっちー!」
 カナエさんは立ち止まり、振り返って照れ笑いを浮かべて駆けてくる。元気あるなぁ、インドア派のトルミにも見習わせたいよ。砂埃を巻き上げて、狐なのに母親を見つけたウリ坊の如く、走ってくるカナエさん。これ、突っ込んでくるんじゃない?
 荒々しい肉食獣の突進に恐怖を覚えたあたしは、少し腰を落とし身構える。だけど、くの字形の急ブレーキで止まってくれたため、そんな心配は杞憂に終わった。
「慌てて間違えてしもうたわ……」
「あはは、そんなに慌てなくても城は逃げませんよ」
 むしろ逃げてほしいと切に思うよ。
 
 あたしたちは村の外に出るために歩き出す。吹き出してきた生暖かい風が、稲穂を揺らし、生を謳歌しているセミと二重奏を始める。あたしは麦わら帽子が飛ばないように手で押さえ、隣のカナエさんを見る。あたしと比べ歩幅が小さく、ちょこちょこと歩いていくペースに合わせる。しばらく会話はなかった。数十分前に初めて会ったばかりで、お互い戸惑っているのかもしれない。少なくともあたしはそうだ。
 ずっと黙っているのもあれかなと思い、世間話でもしようとした矢先、疑問が浮かんできた。
「あの、カナエさん。末尾神社って、どんなご利益があるんですか?」
「ご利益かえ? む~う……そうじゃのう」
 カナエさんは瞑想をするように目を閉じ、考え込んでしまった。神社の神主なのに分からないんだろうか。まさかそんなことないよね。
 あたしは目を閉じたまま器用に歩くカナエさんが転ばないか、ひやひやしながら次の言葉を待つ。
「始まりあれば終わりあり、終わりあれば始まりあり。天地万物は起首(きしゅ)神社で生れ落ち、末尾神社を求め足掻き始める。永遠とも呼べる長い航路を経て、その身に有終の美を飾るために……」
「つまり、参拝しに行くと、死ぬってことですか」
 あたしはカナエさんの言葉を噛み砕いて、身も蓋もないことを言った。そりゃあ、全然人が来ないわけだよ。
「今のは、わらわの考えたちょっとした作り話じゃ。誰も死んではおらん」
 ただの妄想を聞かされて、あたしはなんとも言えない気持ちになる。
「先代から受け継いだときに話は聞かされたが、何しろ百年以上前の話じゃ。もう、きれいさっぱり忘れてしもうたわ。そもそも神様なんて、どうせいないじゃろ」
「一応、いるんじゃないですかね……」
 カナエさんは罰当たりなことを、清々しい顔で言ってのける。あたしの予想がまさか当たるとは。というか本当に神主? 末尾神社が本当にあるかどうかも怪しくなってきた。
 あたしが半信半疑の目で隣を見ると、そこにカナエさんはいなかった。えっ! と思ってそのまま後ろに振り向くと、狐が地面にへばりついていた。どうやら石に躓いてこけたみたい。
 あたしは駆け寄って助け起こし、土汚れを払ってあげながら思う。こういうのって確か、金髪キモメンだよね。……キモメン? 絶対違う。なんだったかな?
「すまん。まさか石ころがこれ見よがしに置いてあるとは」
「そうだ、天罰覿面だ」と思わず声に出てしまった。
「むう、やはり天罰じゃったか、迂闊なことは言えんのう」
 再び歩き始めたあたしたちの前方に、村と外を分けるため形ばかりに建てられた石柱が、陽炎に揺れていた。城はもう、目と鼻の先だ。

五話 エドメルド城

「お邪魔しまーす」
 あたしたちは城に着いてすぐに、失礼を承知で城内に侵入した。もちろん、うだるような暑さから逃れるために。別にいいよね? 城門には誰もいないし、鍵もしてなかったうえに、インターホンさえ無かったんだから。
「おお~! ここは天国じゃのう。……うん? 微力ながら魔力を感じる。魔法で城全体を冷やしておるのか。ありがたいことじゃ」
 カナエさんの言うとおり、城内はひんやりとしていて、まるで全て氷でできているように感じるほどだった。もう外に出たくない。あたしは麦わら帽子を頭から背中に回して、こもった熱を追い出す。
「……誰もいないみたいですね。どこかにいるんでしょうか?」
 辺りを見回しても人っ子一人いない。人の気配さえも全くしないが、誰かが住んでいるのは間違いないと思う。なぜなら開封したばかりであろう消臭剤が、所狭しと並べてあるから。
「あえて見ないふりをしておったが、気になってしょうがないわい。これはなんなんじゃ、芸術か? アートとかいうやつかえ?」
 カナエさんは消臭剤の一つをつかみ取り、訝しげな顔をする。
 カナエさんの言う通り、あたしも暑さで脳がやられたのかと思って放置していたけど、赤い絨毯に沿うようにして並べられた消臭剤が目に付いてしょうがない。他にも、二階まで吹き抜けになっている天井にはシャンデリアがあり、よく見ればロウソクの代わりに消臭剤が置かれていて、異彩を放っている。さらには、額縁に絵画ではなく、色鮮やかなビーズが詰め込まれて壁に飾られていた。これは消臭ビーズで間違いないね、ていうか意味あるのこれ。
「ここまで徹底的なら、芸術といっていいかもしれないですけど、ただ単に消臭マニアだったりして」
「臭いが、ここの主の弱点なのかもしれんのう」
「もしかしたら、自分の好きな匂い以外は嗅ぎたくないという、匂いフェチとか」
「さもありなん、じゃな」
 あたしたちは城の主について、勝手な想像を広げる。一階を一通り調べて、誰もいないことを確認したから上階を目指すことにした。

 階段を六階ほど登ったあたりで、金や青銅で装飾された扉を見つける。この先に魔王がいてもおかしくない荘厳な雰囲気に、あたしは今更になって怖気づいた。横目でカナエさんを見ると、尻尾をピンと立てて、ためらいもせずいきなり扉を開けると、まるで自分の部屋のように堂々と入っていく。やっぱりカナエさんと来てよかった。一人だけだったら、ここで踵を返して家に帰り、トルミを抱き枕にしてふて寝してたよ。あたしも、その頼もしい背中の後に続いて入っていく。
 
 中に入って最初にあたしの目に飛び込んできたのは、二匹の巨大なドラゴンだった。
「いやっ!」
 血のような深紅の瞳に心臓を焼かれる錯覚に襲われ、あたしは悲鳴をあげてカナエさんに抱きつく、もとい羽交い絞めにする。
「うおおお! 何じゃ! 落ち着くんじゃ! あれは石像じゃ! よく見るんじゃ!」
 背後からいきなり拘束されたカナエさんは、じたばたしてじゃーじゃー言い、あたしを宥めさせようとしてくる。尻尾の猛抗議という名の往復ビンタが、あたしの太ももに炸裂して地味に痛い。
 痛みで正気を取り戻したあたしは、羽交い絞めを離して太ももをさすりながら、ドラゴンをあらためて見上げる。そこには自らの強さを誇示するかのように、天に向かって翼を広げている金色の石像が二体、部屋を守るように左右に置かれていた。裂けるように開けた大口から、牙をぎらつかせた姿は今にも動き出しそうだった。
「すみません。殺されるかと思ってびっくりして、つい……」
「ドラゴンを初めて見たんじゃろ?」
「はい、初めて見ました。なんだか恥ずかしいです……」とあたしは縮こまる。
 いやっ! とか、気合を入れるみたいな声出ちゃったし、穴があったら入りたい。
「物には魂が宿ると言うしのう。ここまで精巧な作りなら仕方ないことじゃ」
 カナエさんは気にするでないと微笑んでくれるが、着崩れしたままなので、なんだか締りが悪い。着崩れはあたしのせいなんだけどね。
「それに、あやつはまだ寝とるみたいだしのう」
 カナエさんは二体の石像のあいだを指差した。本来なら玉座が置かれているはずの空間には、質素な平机があり、フードを被った誰かが突っ伏して寝ている。右手には開いた本を持っているため、たぶん読書中に寝落ちしたんだろうと思う。
「この人が城の持ち主なんでしょうかね」
「そうじゃろうな」
「じゃあ、すぐに起こして出て行ってもらうようにしますね」
「その前に、作戦を練っておいた方がいいじゃろう」
「話し合うだけなら大丈夫ですよ」
「そうかのう? 交渉決裂したとき、いきなり暴れだして追い払われても困るじゃろ」
「……ちょっと可哀そうですけど、今のうちに手足を縛っておきますか?」とは言ったものの、そんなことをしたらまともに話し合いなんて出来ないよね……。
「それもよいが、あの大事そうに持っている本を隠しておくとか、フードの中にこの消臭剤を入れておくとかじゃな」とカナエさんは、手で消臭剤を転がしながら不敵な笑みを浮かべる。
「ただの嫌がらせですよそれ。あと消臭剤まだ持ってたんですか」
 あたしたちはこの部屋に不釣り合いな机へ近づいて、寝ている人をまじまじと見つめながら、騒がしく議論をする。
「……ん、誰だお前たちは?」
 当然、その気配に気付いたフード人間は、むくりと起き上がる。フードから鋭い目つきをした美麗な顔と、くせ毛のないサラッとした髪が覗き見える。あたしは一瞬身構えたが、完全に左右対称で人間にしてはあまりにも整いすぎている顔に、気味の悪さを感じながらも、見とれて無防備になってしまった。
「相手に訊く前に、まず自分が名乗るべきじゃないのかえ?」
「……いやいや、あたしたちが勝手に入ってきてるんだから、それはどうかと思いますよ」
 カナエさんの言葉に我に返ったあたしは、頭を振って小声で言うと、「お主はわらわに合わせておけ」と耳打ちで返してきたので、とりあえず頷いておく。カナエさんは自分のペースに巻き込んで、有利な立場に持っていくつもりなんだと思うけど、なんか不安。
「おお、そうだったな。俺の名前は富豪魔族のエドメルド・A(アイン)・ランディーだ。趣味はビリヤードとボーリング。この城か? もともとは魔王様が住んでいたらしいんだが、売りに出されていたのをセールで買ったんだ。二百年ローンでな。実にいい買い物だろう?」
 意気揚々に話し始めた魔族のエドメルドさん。さながら話し相手を見つけた子供のようで、何だか嫌な予感がした。
「聞いてほしいんだが、先日、魔界の全身を引き裂かれるような凄まじい刺激臭と、生者への警告とも言える、えげつない腐敗臭から逃れるために、引っ越し先を探していたんだよ。事前リサーチしたときに、この土地の空気がうまかったもんでなぁ。それで善は急げってことで、昨日引っ越してきたんだ。この世界には勇者がもう何年もいないから、羽を伸ばしてゆっくり過ごせそうだな……。そうそう、この城でカジノの経営を始めたくて勉強していたんだが、魔力を使い果たしたせいか、どうやら寝てしまっていたらしいな。それでも、快適に過ごすためにかけたこの冷却魔法はとけてないことから、俺のすごさが窺えるな、すごいな俺は!」
 ペラペラとしゃべらなくていいことまで言ったあげく、自画自賛までする富豪魔族とやらに、呆気にとられるあたしたち。寝起きなのに……寝ぼけているからこそなのかな。それと消臭剤の謎が解けた気がする。
 
 放っておくと、日暮れまで話しそうなエドメルドさんに割り込むように、あたしたちは自己紹介をした。と言っても、カナエさんは名前だけを、あたしは隣の村から来たということを付け加えた、簡単なものだけどね。
「わざわざここまで来たということは、何か要件があるんだろう?」
「はい、エドメルドさん。これほど村に城が近いとちょっと……せめてうちの村長の許可がないとダメなので、単刀直入に言います。また引っ越してください。大変かもしれませんが、お願いします」
「それは無理だな…………大丈夫か?」
 あたしは懇願の気持ちを示すために頭を下げたが、目測を誤り机に額を強打する。ししおどしのような軽い音ではなく、ゴンッという鈍い音とともに目の奥で火花が散る。
 心配してくれるのは嬉しいけど、無理なんだ。あたしは無理に笑顔を作って誤魔化そうとするが、気恥ずかしくなり顔を背ける。そしたらドラゴンと目が合った。怖っ! そのままの姿勢で固まってしまう。
 カナエさんはそんなあたしをよそに机に手を置き、前のめりになって質問をする。
「エメラルドとやら、何故無理なんじゃ?」名前違うよカナエさん。
「そもそもどうしてここに来たんじゃ?」それさっき言ってたよカナエさん。
「びりやーど、ぼうりんぐ、かじのって何なんじゃ?」
「それはあとで教えますからカナエさん」
 あたしは、食って掛かるように言うカナエさんの背中に触れて落ち着かせる。その背中は汗が生乾きでぐっしょりと湿っていて、右手がじっとりと濡れる。うわぁ……。
「どうしてもというなら、俺と戦ってみるか? おまえたちが俺に、一撃でも当てることができたら引っ越してやろう。俺が勝ってもメリットはないが、なに運動不足解消にちょうどいいしな」
 エドメルドさんはそう言うと立ち上がる。――でかい。華奢な体つきだけど、全身から威圧感が溢れ出ている。
 よっぽど自信があるんだろうけど、一回当てるだけでいいの? それだったら、でも……。
「それじゃ悪いですよ。エドメルドさんが勝ったら……えーっと、あたしの村で収穫した新鮮な野菜セットとをプレゼント、とかどうでしょうか?」
 あたしは不公平さをなくすための提案を、何とか絞り出す。一応、悪い人じゃなさそうだしね。
「なぬ! カンミを倒せば野菜をくれるのかえ!」
 カナエさんは瞳を爛々と輝かせてあたしへと振り向く。ああそうか、狐は雑食だから……じゃなくて、なんで敵が増えるの? あたしの背中に、冷や汗が伝いゾクリとする。

「わかった、その条件でいいだろう。さあ、どこからでもかかってくるがいい」
 エドメルドさんは机といすを邪魔にならないよう、丁寧に隅へ寄せると、あたしたちから距離を取る。口調からは殺意などは全く感じず、休日に子供と遊ぶ父親のようだ。手には武器を持っておらず、あたしと同じく丸腰のまま。魔法で戦うんだろうか? 魔力を使い果たしたと言っていたけど、寝ていたから少しは使えるようになっているかもしれない。
「カナエさん、あたしが後ろから援護しますから、突っ込んでいって、やっちゃってください」
「お、おう、そ、そうじゃな。やるしかないんじゃよなぁ……」
 どうしたんだろ? あたしが戦えないから援護にまわろうと思ったんだけど。
 カナエさんは曖昧な返事をしながらも駆け出す。あたしはそれを見て、余計な心配だったかな? と安心する。目を閉じて集中し、唯一使える魔法を唱える。
「ファイアボール」
 拳ほどの大きさの、チリチリと燃える火球が五つ現れると、あたしの周りに寄り添うように近づいてくる。来ないでよ! 慌てふためき、何とか制御して火だるまにならずに済んだが、髪の毛が少し燃えたようで嫌な臭いが漂う。もう少しで村長みたいになるところだった。
 あたしは援護をしようと前を見ると、カナエさんは床にうつ伏せて大の字になっていた。
「カナエさん!」
 カナエさんは呼び掛けても反応がなく、尻尾や耳でさえピクリとも動かない。顔の辺りの床が、真っ赤な血でゆっくりと塗られていく。そんなっ……死んでる。
「か、仇は必ず取ります」とあたしは目から零れ落ちる一筋の涙を拭う。
「待て、その妖怪は裾を踏み、勝手にすっころんで気絶しただけだぞ」
「えっうそ」
「俺が起きたときから着崩れしていたからな。いつもそうなのか?」
 そう言われて再度見ると、カナエさんは右足で力強く裾を踏みしめて倒れていた。
 あたしのせいだ! どうしよう仇は自分だよ、すぐに直してあげればよかった……。あたしはオロオロしてしまい、なぜか火球も近づいてきて、いっしょにオロオロする。だから熱いってば。その一つを右手で振り払う。
「一人になったが、降参するか?」
 エドメルドさんはやれやれと肩をすくめるが、あたしはかぶりを振って否定する。悩んでいたって仕方ない。この戦いに勝つことが、カナエさんへのせめてもの償いになる、はず。
 あたしは火球と、カナエさんの無念の思いを勝手に背負い走り出す。それと同時に二つの火球を牽制攻撃として放つ。空気を焼き、火の粉を飛ばしながら競い合うように突き進んでゆく。
 エドメルドさんは不敵に笑う。そして手のひらをかざすと、黒い靄のようなものが現れ、まるで異空間に飲み込むかのように火球がかき消されてしまう。強すぎない? 二つも使ったのはまずかったかな。
 あたしのファイアボールという魔法は、全ての球を使い切らないと、また唱えることはできない。また、集中もしないといけないから、相手が近くにいると使えない。つまり、全て使い切ると負けが決まる。
 とはいえ、ここで止まるわけにはいかない。あたしは走りながら、もう二つの火球を操り合体させる。あたしの顔ほどの大きさになった燃え盛る炎の塊は、燃焼させ尽くす相手を見つけると、唸るような音を立てる。なかなか生きのいい子が出来た。よし、いけっ! と解き放す。
 だが、これもまたエドメルドさんの手によって、容易くかき消される。あれでもダメか。一つにした炎を、また分裂させるような芸当ができてたらな~。
 これであたしの周りには火球がゼロになる。だけど十分近づけた! 後は
「お前が炎を振り払うとき、その一つを掴んだのは見えていたぞ」
 エドメルドさんは冷静に告げる。うっ、バレてた。
 カナエさんの汗で濡れていた手なら大丈夫かと思っていたけど、やっぱり熱いね。だけど、ここまで来たら止められない。右手の中の火球を握り潰す。隙間から炎が這い出す拳を前へと突き出すが、エドメルドさんはあたしの腕を掴もうと手を伸ばしてくる。
 捕まったら終わり……こうなったらもうヤケだ! あたしは走っている途中で、ワザと自分の足を後方へ蹴っ飛ばす。石にでも躓いたように空中に投げ出されると、勢い余った体はほぼ海老反りになっていく。エドメルドさんが驚きの表情に変わっていくのが、スローモーションで目に映る。あたしは背中が悲鳴を上げながらも歯を食いしばり、右手を一か八かに賭けてそのまま床に叩きつける。そこから前方に向けて爆炎が巻き起こる。
「むうっ!」
 エドメルドさんは避けれず、灼熱に覆われる。
「ギャァァーー!」
 あたしはというと、攻撃した側なのに断末魔を上げて、爆発の反動で木の葉のようにもんどり打ち、カナエさんのところまで吹っ飛ばされた。
 いたた、あたし生きてるよね。あ、手はどうなったんだろう。……良かった、火傷したっぽいけど右手はちゃんとくっついてるし動かせる。安堵のため息が出る。
「よくやったのう、カンミ」といつのまに起きたのか、カナエさんが顔だけを上げて褒めてくれる。その顔面は鼻血で真っ赤に染まり、さながら朱肉に顔を突っ込んだ人にしか見えない。
「はい、一撃を、なんとか、くれてやりましたよ」
 どうにか返事はできたけど、意識が遠のいていく。全身に力が入らない。あの爆発で魔力を使い切ったみたい。疲れたから少し寝ようかな。まぶたが下がり、視界がぼやけていく。
「カンミ、寝たら死んでしまうぞ!」
 雪山じゃないから大丈夫だと思うし、カナエさんの見た目の方が死にそうだよ……。
「お主が逝ったら、わらわに野菜をくれる約束はどうなるんじゃ!」
 そんな約束は……してないよね…………。

最終話 狭い玄関で……

 空が赤紫色に染まり、太陽が一日の役目を終えようとする頃に、あたしは家に帰り着いた。山から下りてきた風が、体に優しく吹き過ぎていき、熱と疲れを追い払ってくれる。
 家のドアを開けようとして、自分の右手を改めて見つめる。この手が炎に包まれて地面と激突したのが嘘のように、赤く腫れたり、水膨れになったりは一切なかった。
 あたしが意識を失った後、エドメルドさんが魔法で治療してくれたらしい。目を覚ましたときにお礼は言ったんだけど、エドメルドさんは炎に包まれたのにフードが少し焦げただけで、涼しい顔をしていた。さすが魔族というか悔しいというか……。でも治療魔法って便利だな、あたしも使えたら手荒れに悩むこともないのに。

「ただいまぁ~今帰ったよ~、トルミ」
「あ、おかえり。意外と早かったね」
 家に入るとあたしの温かみのある声に対し、トルミの抑揚のない声が帰ってくる。台所から出てきたトルミは、ネコ柄エプロンを着て菜箸を持ち、香ばしい匂いを引き連れていた。
「ゴボウの天ぷらとから揚げ、今ちょうど出来たとこだから」
 あたしは好物の名前を聞いて喉が鳴り、このまま土足で上がりそうになったが、なんとか堪える。何か裏でもあるんじゃないんだろうか? とトルミの機嫌を気にしながら聞いてみた。
「えっ、あたしの好きなもの……やけに豪勢だね。どうしたの?」
「は? お姉ちゃんが食べたいって言ったから作ったんだけど。頭でも打った?」
「あ~そうだった、あたしが言ったんだった。ごめんごめん」
 トルミの、体の深部まで凍らせてくるような、冷たい視線にたじろぐ。頭打って完全に忘れてた。でも心配させるわけにはいかないから、それは黙っておこう。それに頭どころじゃなくて全身だしね……。
「ところで、ちゃんと終わらせてきたの? まだあの景観悪い城があるんだけど」とトルミが窓の外の城を、行儀悪く菜箸で指差す。
「魔力が回復したら、またすぐに引っ越してくれるって」
「ふ~ん」と聞いてきたのに、明後日の方向を見ながら返事をするトルミ。ついでにあたしは、トルミに褒めてもらいたくて、胸を張って自慢話をしてみる。
「あたし、魔族と戦ったんだよ。しかも勝っちゃった。いやぁ~自分で言うのも何だけど、カッコ良かったな~。トルミが見たら『お姉ちゃん素敵、見直した』って目をキラキラさせてたと思――」
「あっそ」とトルミは、得意げに語っていたあたしの話を打ち切ってくる。
 まぁね、あたしの妹はそんなタイプじゃないのは分かってるんだけどさ、もうちょっと興味を持ってくれてもいいのに。最後まで言わせてもくれないとか……。
「景観が悪いか? こうして見ると風情があっていいじゃないか。我ながらいい買い物をした」
「お主、風情の意味分かっとらんじゃろ。どこからどう見ても、狂気をはらんだ建築家が、自然への冒涜をした結果じゃ」
 あたしが地面に足で、のの字を書いていじけていると、エドメルドさんが酔狂なことを、すかさずカナエさんが小言を、それぞれドアから顔を出して言う。場所的にはあたしの脇下にあたる。なんで? やめてほしいんだけど。
「品性下劣な王冠だけでも返品するべきじゃ」と不満を口にするカナエさんは、よっぽど気に入らないらしい。
「あの過剰装飾がオプションで一番高かったんだがなぁ」とあごに手を当てるエドメルドさん。
 あたしは過剰の自覚はあったんだと思いながら、喧嘩になりそうでならない二人を、遠慮しなくていいですよと手招きする。
「うわっ!」
 誰がいるんだろうと、あたしの後ろを覗こうとしていたトルミは、驚きの声を上げて、力が抜けたのか少しよろめいて後ずさる。狐の妖怪と細身の大木みたいな男が入ってきたら、そりゃそういう反応になるよね。
「紹介するね。この村に来ていた、神社の神主カナエさんと、あの城の持ち主で、魔族のエドメルドさん。今日会ったのも何かの縁ということで、来てもらったから」
 あたしの紹介に合わせて、カナエさんは頭を下げてくれるが、エドメルドさんは仁王立ちで微動だにしない。
「あ、はい……よろしく……お願いします……私はトルミです。その……妹が姉をやっています……」
「そ、そうそう、この子がしっかりしているから」
 緊張しているのか、まごまごしているトルミは伏し目がちになる。たぶん言い間違えたんだと思うけど、妹が姉をやっているというのは、あながち間違いじゃないような気がして、否定できなかった。
「わらわは妖怪じゃが、人を食べたことはないから安心せい。なっ?」
 怖がらせないようにトルミと目線を合わせて、にっこり笑ってくれるカナエさん。と言っても、あまり身長は変わらない上に、玄関の段差のせいでトルミの方が高く、カナエさんが背伸びをして合わせにいっている。
 それに対してエドメルドさんは、「俺は昔、人を食ったことはあるな」と自分の城を恍惚の表情で見ながら呟く。そんなに好きなのか、何かあったら城と心中しそう。
「お主はなぜそういうことを……」
「だから昔だと言っただろう?」
 また言い合う二人。
 トルミの方はというと、相も変わらずあたしを不安げに見つめてくる。よく見ればトルミの菜箸を持っていない手は、あたしの服の裾を掴みたそうに伸ばしたり、指をすり合わせたりしている。この仕草……あたしの頭を刺激するんだけど、何だったかな、まぁ大丈夫だよね。
「トルミ、あたし、村長の家に行ってくるから……」
 村長に今日のことを報告するため、まだ気温の下がらない日暮れの外へと足を踏み出したところで、あっ! と大事なことを思い出した。
 しまった、トルミは人見知りするんだった。ここのところ、お客さんなんて来なかったから完全に忘れてたよ。まったく、普段が強気だから尚更だね。いやしかし、しおらしいのもギャップがあって、そそるなぁ。
「やっぱり、村長には明日言いに行くよ。ご飯が冷めちゃうしね」
 あたしはそう言って玄関のドアを閉める。トルミの一瞬だけ浮かんだほっとした表情に、ひとまず安心する。
「玄関でずっといるのもアレなんで、二人とも上がってください。トルミ、料理の量はどんな感じ? あたしも何か作った方がいいかな?」
「……今日は多く作りすぎたから、たぶん問題ないと思う」
「わらわは少食じゃから、気にしなくても……ぬわっ!」と草履を脱ごうとして、尻尾で傘立てをひっくり返し、そこへ器用に顔から突っ込んでしまうカナエさん。この狐妖怪、着崩れ関係なく転びやすいだけなんだ……。
「俺はたらふく食うぞ。それと味にもうるさいからな、覚悟しておけよ。はっはっは」と何が可笑しいのか、爆笑しながら廊下を土足で上がり、敵兵を見つけた兵士のように突撃していくエドメルドさん。
 その傍若無人ぶりに、トルミは、「あの、靴は……」と言ったっきり放心状態になってしまった。魔族はみんなこうなのかな……てぇぇっ!?
「あーー! そのまま真っ直ぐ行くとあたしの部屋ですから! 入らないでくださいね!」
 なんかメチャクチャになっちゃったよ。あたしの判断ミス?

 この後も「すぐに助けてくれんかったのう」と傘立て妖怪になりかけたカナエさんがすねたり、あたしの部屋に突入したエドメルドさんに、「なんだここは、便所か?」と問われ、もう一度燃やしてやろうかと思ったり、だんだん調子が戻ってきたトルミに耳元でねちねち、「連れてくるなら、出かける前に言え」と怒られたりした。
 最後に食べ終わって二人を見送ろうとしたとき、「こういうのって、実家解散みたいで楽しかったです」と言ってしまい、みんなからあきれ顔で見られたりもした。一家団欒なのは知ってる。ただちょっと言い間違えちゃっただけ。ホントだよ?

 村長に頼まれたときはどうなるかと思ったけど、こんなに賑やかな日常? になるなら悪くないかな。
 とはいえ、もう戦いは二度とごめんだけどね……。

ラウンドカンミ!

ラウンドカンミ!

ラウンド村に住む主人公のカンミが村長に頼まれて、村の近くに突如として現れた城を何とかするコメディ重視の話。 インフィニットランドシリーズ第一弾。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-11-14

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著作権法内での利用のみを許可します。

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