青い止まり木

青い止まり木

某青い鳥のSNSにて書いた140字程度の物語たち。
枝一本一本のように、違う物語が沢山あるので、ぜひ、どれかで一度止まっていただけると嬉しいです。

途絶えない来客

 うちの裏庭にはよく猫が集まる。白や茶色、黒に灰色、三毛猫だって集まってくる。みんな人懐っこくて、撫でて撫でてとせがんでくる。ふわふわとした毛並みに混ざった、膿んだ傷や血の跡。沢山撫でると、痕は消えていく。目を細めて一鳴きすると、猫は光となって、空へと散った。また、新しい子が来た。

思い残し

 大好きな人に向けて手紙を書いた。理想の紙質に、理想の装飾が施された、綺麗なお手紙セットを使った。届くかな。届くといいな。小さな郵便屋さんに預ける。雲の上に浮かぶ教室の窓から、飛んでいった。今日も青い空と温かい光が、たった一つの机に注がれる。思い出のままに落書きが残った、私の机。

背中で伝える

 背中合わせで、彼は漫画を、私は雑誌を読んでいた。彼の顔は見えないけど、時々背中から伝わる動きで、大体の予想はつく。大きく盛り上がり、一拍置いてから戻るのは感嘆の息。小刻みに振動するのは抑えた笑い。あ、熱くなってきた。緊迫したシーンなのかも。表情が豊か過ぎて、雑誌に集中できないや。

透明な脅威

 頽廃し荒涼とした、殺風景な世界で。人類の過ちを忘れないよう戒めの意を持って、価値など曖昧な制服を身に纏う。役割を失った錆びた鉄柵と、看板の印に背を向けた様子は、痛ましくも勇ましい。塵が混じった風が吹き、鬱陶しい黄金色が空から現れる。残酷で無粋な明日が来た。

終わりの一端

 果てしなく伸びる深黒。しんと浮かぶ青い星。ガラス越しに手を添えて、輪郭をなぞる。白いちぢれ雲と緑の大陸がまた美しい。一度だけ、その地を訪れたことがある。独自の発展を経て、独特な生態系を持った、実に興味深い星だった。ゆえに、残念だ。時計の針が静かに動く。さようならだ。青き水の星よ。

非効率な感情整理

 心がいっぱいになったとき。隈と涙袋が重くなっていく。漏れ出る涙は薄めた水銀。解毒薬を探せど見つからず。濃度は刻々と上がっていく。ある日、便器に吐き出した。水面に浮かぶのは嫌いな自分の顔。いつの間にか隈は消えて、目の周りは赤く腫れていた。心も頭もズキリと痛むけど、不思議と軽かった。

思い出すAI

 侵入を検出。処理開始。完了。記録番号PL0V33E。発信元のトラッキングを開始。検出完了。敵の支部より。ウイルスを送信。10分で全滅予定。一次結果、異常なし。二次検査を開始。1KBのテキストファイルを発見。内容を確認。アーカイブ番号00と照合。いつからか見なくなった、優しい顔をした博士の言葉。

短命の付き添い人

 空っぽな庭に種を植えた。なんでもいいから、変わり映えする何かが欲しかった。一生懸命しか取り柄のない自分は、毎日丁寧に手入れをした。植物って不思議なもんで、日々応えてくれてるみたいに感じられる。初めての芽、初の満開、精彩豊かな花畑。記念に押花を一輪。この短い命に付き添っておくれよ。

A Partner to Remember

 Our lives are short, but we require delicate care. If love is poured abundantly, we shall provide bloom and glory. A moment to remember is where we shine. After our upmost time, we wither with pride. But there is a rare blessing, we are kept old in beauty. The life of us flowers.

外付けメモリー

 メモリーがいっぱいだね。中身を整理した方が良さそうだ。今製造されてる中でも一番大きい物を使ってるのに、余程人生を楽しんでるんだね。あと、新しい記録媒体ができるらしいね。やだな、新しい挿入方法を覚えなきゃいけないじゃない。ま、それまではこれで我慢ね。はい、もう頭は閉じたから大丈夫。

始まりへの誘い

 都会の雑踏をすり抜けてくる、断続的な甘辛い香り。魔法に惹かれるように辿っていく。曖昧な道筋。導かれた先は、樹齢が千年以上はありそうな大樹。幹の中から、ほかほかのシナモンドーナツが納まったショーケースがぽつり。奥の空間から出てきた、角を生やした女の子。魔法を信じはじめた瞬間だった。

生き残りの証明

 朝の散歩中に見つけた、綺麗で黄色くなったイチョウ。この辺には植って無かったはずなのに。拾うと一瞬。黄が緑に染まる。ぞわっとする熱風。目に滲み入る広大な森。葉の息吹が喧騒に。圧倒されるほどの力が血を流れる。ぷつり。瞬き。手には黄色のイチョウが一枚。なんだか軽い足取りで散歩を続けた。

Recurring Wishes

 My grandma passed away a few years ago. Was a fine spring morning. She was found in her futon with a serene smile. The cherry blossoms in her yard were in full bloom that day. Vibrant and soft, just like grandma. Even though her grave is far away, they are still in full bloom.

最後のおもり

 僕は長年育ててくれた母の首をはねた。母にそうしろと言われたから。言われた通り、血抜きをして、山を降りて、麓の村まで持っていった。村人たちは大喜びして、僕を村に入れた。飲んだり食ったり踊ったり歌ったりし始めた。僕は喧騒の中で静かに涙を堪えた。銀の毛並みをした大狼の頭を見据えながら。

一緒なら怖くない

 歳を取れば怖いものは無くなると、爺ちゃんはよく言う。ある日、僕は聞いた。「死ぬのは怖くないの?」爺ちゃんは言った。「ああ、怖くないとも。こいつがしっかり案内してくれるからな」そう言って、自分の左肩の向こうを指差した。「……爺ちゃんにも見えてたんだ」黒い布を纏った、骸骨さんのこと。

切り取り職人

 仕事用の包丁を研いだ。切れ味を確認しよう。自分の反射が見えるほど磨かれた、巨大な金属壁面。布手袋をして、表面を軽く撫でる。場所を変えて何度か繰り返す。そのうち、小さな反響音がする箇所と出会う。コンコンと叩いて低く鳴れば、当たり。包丁を当てて、スパッと立方体に切り出す。確認、よし。

空に浮かぶ約束

 虹は約束の印。嫌な事が起こったら、それはもう二度と起こらないよっていう約束。だから、雨が降って空が晴れる時に出るんだ。虹は見守りの印。ちゃんと君のことを見てくれる人がいるよって印。虹のように丸く、清らかな色の目で見守っている人がいると。虹は時々現れては、度々思い出させてくれるの。

君の物語と、僕の文章

 流行る物語は、当たり前なことだけど、人がどこまでも出てくる。だって、それがきっと、物語の原動力なのだから。でも、僕にはそんな共感や、新しい発見は書けない。人が書けないんだ。だから、僕が書く文章はどこまでも空っぽで孤独だ。人がいなくて、でも、他の何かにばかり動かされているのだから。

どっちでしょうか⑴

 ライバルにずっと負けている。悔しすぎて、毎日分析と練習に励んでいる。あいつなら、こういう時、どういう風に動くだろう。そんなことを考えながらやっていると友達に言ったら、「なんか恋みたいだね」と言われた。絶対に違うと否定した。その苛立ちが、私の負けず嫌いな精神に更に火をつけた。

どっちでしょうか⑵

 高校最後の大会で、やっとやつと対戦できることになった。全力を出し切った。そして、念願の勝利を得た。満足して、二度と顔を見ることも、あいつのことを考えるはない。そう思っていたのに。むしろ増えた。よく鉢会う、思い出す。今でも友達は恋だとからかってくる。その度に、苛立ちが心を揺さぶる。

ガラスのハート(割)

 恋に対する憧れは、数々の色眼鏡を通して薄れていった。拒絶の恐怖と幸せな幻想で板挟み。結ばれた糸の先には理論の欠乏と感情の暴走。そのくせ、欲はとっても理にかなっていて。感情は儚いと美化していく。期待と理想という一番分厚い色眼鏡。いつまでも足りないと刺激に貪欲で。恋って、なんだろう。

ガラスのハート(磨)

 恋に対する憧れは、数々の色眼鏡を通して濃くなっていった。はためく心が見せる世界は煌びやか。勇気で自身を磨きたくなる。ささやかな言動で感じられる大きな幸福。夢見る豊かな未来への希望。とにかく夢中で走り抜けられそうなくらいのエネルギーが溢れ出て。飽きることができない。恋って、不思議。

手作りラジオ

 「ノイズが多いなあ。ここを調整すればいいのかな?」手作り感が満載の機械をいじる博士。次第にノイズは性質を変えていき、明確な声へと変わっていく。「……ここはどこだ?……」鮮明に聞こえてきた言葉に、博士は白衣を翻して大はしゃぎ。機械の配線の先にある、ガラス缶に浮かぶ脳を見つめながら。

カスミソウ

 私はいつも、引き立て役。でも、それが嬉しい。小さな私がいるだけで、主役は一層華やかになるから。そしたら、人は喜ぶの。喜びが連鎖するから、私も連鎖に入って喜ぶの。それに、私の頑張りはちゃんと認められてるんだ。もしかしたら、どの主役よりも知られているかもしれない。だから、私は誇るの。

泣いた魔女っ子たち

 四歳の誕生日に貰ったプレゼントは、おもちゃ売り場に沢山置いてあった、可愛い魔女っ子になるための変身道具だった。置いてある数だけ、特別な子がいるんだと思って、仲間に入れて欲しかった。当然、変身はできなくて、でも私は壊れちゃったと勘違いしていた。仲間になれないって、沢山泣いたっけな。

真夜中の静かなお茶会

 山々は生きている。生きているから喉が渇く。雨が降らない日は、こっそり夜に起きている。近くにある湖や川に寄っていく。湖は星で甘くなっていて、川は月光でまろやかな口当たりに。山々は気分によって好きな方を選んで、掬って飲む。長い一夜をかけてお茶会をした後、山々は日が昇る前に帰っていく。

山々の白昼の秘密

 山々は、本当は我慢している。真昼のお茶会だってしたい。日光で香りが立つ川や、空の青で爽やかになる湖が恋しい。だけど、山々は自分の雄大さを知っている。自分より小さい者を怖がらせたくない。だから、昼はじっと寝ている。どうしても飲みたいときは、こっそりと、ちびちび飲むことがあるらしい。

願いは三回唱えない

 嫌なことがあった日、失敗した日、傷ついた日。それぞれの夜にはいつも流れ星が見えた。空から燃え尽きたように落ちていく。次の日には、いいことなんて別になかった。ある日睨んで言った。何が願いを叶えるだ。お前は疫病神の化身だ。不幸をもたらす石っころだ。三回唱えたのは、心からの悪態だった。

人喰い樹

 森の奥深くにいる、それの前に立って、私はこう言った。「わたしを食べてください。死ぬならせめて、誰かの糧になって死にたいです」初めて出た我儘は、随分と掠れていた。それは、私の真意を見定めるように、少しも動かない。沈黙の後、それは腕を伸ばして私を包み込んだ。緑の匂いが、酷く優しかった。

樹の包容

 また哀れな子供が我の前に立つ。同じ言葉を何千年聞いてきたことか。喉が渇くほどの距離を歩いて放つ言葉ではなかろうに。枯れ木のように痩せてしまって。そもそも我は人は喰わぬ。我にできることはたったひとつ。癒しの香の中、甘い琥珀色の眠りへ誘うこと。ああ、愛しい人の子よ。どうか良い夢を。

今日だけのこと(バレンタインデー)

 部員が二人しかいない部活。部室に行ったら後輩はチョコを食べていた。後輩は俺を見るなり、丸くて薄いチョコプレートをずいっ、と渡してきた。「食べます?」「じゃあ、もらおうかな」一口でぱくり。「ん、美味しいな、これ、どこのチョコ?」尋ねたら、後輩の耳が少し赤くなった。「……自家製です」

女の子の構造

 親友が結晶化してしまった。おばさんが悲痛な声で、電話越しに教えてくれた。素敵なワンピースを着て、赤子のようにうずくまっていた。穏やかな寝顔を覆う薄桃色の結晶。一欠片をぱくり。芳醇な甘さとピリ辛さ。僕はおばさんに放っておくように言った。あの中で、なりたかった君になれているといいね。

男の子の構造

 飼っている子犬のしっぽをいじっては、ちょいちょい噛まれる私の友達。他にもカエルとかカタツムリとか、いろんな動物を飼っている。環境を整えるための草木が、彼女の長い髪と顔にひっつく。細い切り傷と噛み跡は白い肌の上でよく目立つ。それでも、友達は気にすることなく、またしっぽをいじるのだ。

宇宙人宣言

 自分でもどうしてやらかしてしまうのか。分からないから他人にも分かるわけがなく。お互いに人間で。原因が解き明かせないまま。だから、自ら得体の知れない生物を名乗る。疎まれる宇宙人デス。理解し合えるわけナイでしょ。ガラガラ声で高らかに、そう宣言しなガラ。心は地球の重力に押しつぶされる。

急かしているのは誰?

 成人になった瞬間、生きることを急かされた気がして。小さい頃はあんなにゆっくり食べていたご飯も、今はガツガツと貪っている。周りも人たちも、ネットの世界も、目まぐるしくてさ。なんだかお腹、壊しちゃったよ。今日はご飯をじっくり噛んで味わおう。いつもの量は食べきれないけど、まあ、いっか。

隙間の見えない向こう

 おおきなおおきな広場の中。ぜんぶが石でできていて。素足がこする音でもおおきく響きわたる。空気は冷たいのに。走って体が熱い。すぐそこに。アレがいる。隠れないと。変なオブジェのすき間にもぐりこむ。だれかが灯したロウソクがチラつく。じぶんの息しか聞こえない。いま、アレはどこにいるんだ?

命と想像を削り

 渇いた目を覆おうとする重たい瞼。必死に持ち上げて画面に食らいつく。作り上げたい、何かを残したい。我儘な意志が睡魔に抵抗しようと必死だ。睡魔は囁く。最期には全てが無意味に還るから。残そうと削るなんて滑稽だぞ、と。本当は分かっている。けど、無意味な意志がどうしても美しく見えるからさ。

青い止まり木

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次に育つ枝を乞うご期待!

青い止まり木

ツイートしたマイクロノベルをまとめたもの。青い鳥に関連づけて、名付けて「青い止まり木」。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-12

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 途絶えない来客
  2. 思い残し
  3. 背中で伝える
  4. 透明な脅威
  5. 終わりの一端
  6. 非効率な感情整理
  7. 思い出すAI
  8. 短命の付き添い人
  9. A Partner to Remember
  10. 外付けメモリー
  11. 始まりへの誘い
  12. 生き残りの証明
  13. Recurring Wishes
  14. 最後のおもり
  15. 一緒なら怖くない
  16. 切り取り職人
  17. 空に浮かぶ約束
  18. 君の物語と、僕の文章
  19. どっちでしょうか⑴
  20. どっちでしょうか⑵
  21. ガラスのハート(割)
  22. ガラスのハート(磨)
  23. 手作りラジオ
  24. カスミソウ
  25. 泣いた魔女っ子たち
  26. 真夜中の静かなお茶会
  27. 山々の白昼の秘密
  28. 願いは三回唱えない
  29. 人喰い樹
  30. 樹の包容
  31. 今日だけのこと(バレンタインデー)
  32. 女の子の構造
  33. 男の子の構造
  34. 宇宙人宣言
  35. 急かしているのは誰?
  36. 隙間の見えない向こう
  37. 命と想像を削り