ガラス瓶に詰めたもの

 真っ白な正方形の紙が一枚。まさしく掌サイズと形容するのにふさわしい。ふわりと軽く、ざらりとした表面。指のはらで触れれば、ヒトの皮膚にしっとりとなじむ。
 まずは半分にぴらり、すらっ。白が覆いかぶされ、あらわれたのは鮮やかな赤色。折り目を戻して、真っ白に。足跡のように残った線と対立するように、また半分。識別と認識が生まれた。
 線と線を合わせて、スリッ、ピタリ。
 山折り、谷折りと続き、紙は姿を変えていく。
 時にはひっくり返して、初めの頃の名残を思い出したり。
 角を潰したり、逆に鋭くさせたり。
 爪をたてて、折り目を正すことも。
 こうして、紙に細工をしていった。
 最後の仕上げに、また指のはらを紙の表面に滑らせる。できあがった折り紙は、掌よりひとまわり小さな心の形。上にはふっくらと丸い山が二つ、下はスッと締まった。折り重なった紙のふにゃりとした厚さが、指の皮と肉を伝う。
 赤くて可憐な心型の折り紙。

 退屈がまだ頭の中で巡っている。もっと作ってみようかな。
 また同じ、掌に収まる紙を取り出す。半分に折ると、今度は紺色が現れた。
 次は黄色。緑。紫。桃色。橙色。
 無心で折っていると、気づかないうちに紙がなくなってしまっていた。
 ふと思い出し、部屋の奥にしまっているはずのものを探しにいった。箪笥やらダンボールやらをひっくり返していると、まだ新品同然の小さなプラスチック箱を見つけた。中には紙の束が詰まっている。上から覗くと、小花が散りばめられた紅色の折り紙がぴらり。束をパラパラさせると、もっとたくさんの柄が出てきた。
 薄藍の水流紋や、萌黄の紅葉柄。菖蒲色の矢絣柄に、柄鴇色の梅柄などなど。
 テーブルに戻って、また一心不乱に折りはじめる。
 スリッ、ピタッ。
 ピラリ、クシャ。
 ズズズ、サラッ。
 
 

 そして、ふっと。
 集中の糸がゆるり。

 気がつくと、周り一面に心がたくさん落ちていた。
 色とりどりの心たち。花畑のように咲き誇って、鮮やかな世界を作り上げている。時には寂しそうに、時には怒るように、時には嬉しそうに。ふわり、きらり。
 幼い頃のおぼろげな記憶も、最近あった出来事も、待ち遠しい明日や明後日も。
 ふわふわ、きらりと。浮かんでは浮かぶ。



 飾るには少し小さくて、何かに貼るにはちょっと大きい。
 このこたちをどうしようか考えながら、手でさらさらと撫でていると、視界の隅に光るものがうつった。視線を向けると、テーブルの上に置かれたガラス瓶がぽつり。窓越しに差し込む太陽の光を、全身で受け止め、煌めいている。中身は空っぽで、その透明さがまた眩しい。
 これから何によって満たされるんだろう。
 それが楽しみでしょうがないように見えた。
 ふと、自分の手の中で踊っていたこのこを思い出す。
 テーブルの上に広がった、他のこたちも見やる。つやりと、光った。
 ガラス瓶にもう一度振り向く。まだ静かに待っていた。

「これで、どうかな。」

 独り言のようで、独り言でない声。
 ガラス瓶が、さらに輝いたように見えた。

ガラス瓶に詰めたもの

実際に、小さめの和風柄が入った折り紙のハートを詰めた瓶が家にあります。暇な時期にやりました。楽しかったです。
白い面に好きな言葉か落書きでもかけばもっと楽しいかもしれませんね。
お読みいただき、ありがとうございました。

ガラス瓶に詰めたもの

感情や思い出をたくさん折って、心の瓶に詰めましょう。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-12

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