ブレード・オブ・ナイツ first

第一章 絶炎の剣士

――この世界は君のいた世界ではない。
俺はそう伝えた。
伝えた人物はこの世界に来てまだ時間が経っていない少女だった。
少女は長く黒い髪いわゆるロングで顔は綺麗に整っている。だがその顔は何を言っているんだという顔をしていた。
当然返事も
「あなた馬鹿ですか?」
だったが、気にはしない。
気にならないはずなのに……
「それが助けてやった人への言葉ですか!?」
と人知れず突っ込んでいた。

それから半日後
「じゃあ、何ですか? 私はこの世界に紛れ込んでしまって出られないと?」
少女が何やら不満そうな顔を浮かべている。
「まあ、そうなるかな、うん」
「俄かに信じられませんねぇ、ここがもしもの世界の混ざり合いの世界だなんて」
信じてくれないと俺はただの変人じゃないか! と叫んでしまいそうになったがグッとこらえる。
「で? さっき私を襲ったい、犬? がなんで助けてくれた恩人のペットなんですか?」
俺の隣で犬のようにクーンと鳴いている頭が三つあるケルベロスことケルを指差して言ってくる。
「襲ったんじゃなくてお前の服が欲しかっただけだって言ってるだろ? コイツは一見凶暴そうに見えるけど服が大好物なんだよ」
「なんだか世界観ぶち壊しですね」
それを言うなと少女の頭を小突く。
「イタ! 何するんですかぁ」
「俺の仲間を馬鹿にするからだ!」
そんな痴話喧嘩っぽいものをしているとケルが唸った。
敵が来た合図だ。
「ど、どうしたんですか?」
「敵だ、しかもこれはかなり強いみたいだな」
えぇ! と驚くがそんなのに構っている暇はない。
「ケル、まだ敵はこっちに気づいてないか?」
頭を横に振るケル。
ちくしょう、戦わなきゃダメか。
「おい!」
「わ、私ですか!?」
「そうだ! これから俺は戦闘態勢に入る、極力お前に危害が加わらないようにする! でももしものことを考えてお前はここから安全な所に移動してくれ!」
「い、移動って言ってもどこに行けば……」
「ケル! 安全なとこまで案内しろ」
バウっと言って少女を背中に乗せ安全区域まで走っていった。
敵は少ないが大型のモンスターばっかりだった。
「仕方ない、抜くか」
俺の腰に火がつきそれが刀の形になっていく。
それを抜きモンスターの方に向けると一歩後ずさるが本能に任せて突っ込んでくる。
「やっぱり、抜くだけじゃダメか、まったく知能が高いモンスターなら逃げていくのになぁ」
俺は襲ってくるモンスターの攻撃を避けないで、だが当たらないように刀で弾いていく。途中少女が何かを叫んでるような気がしたが気にはならない。
「攻撃が当たらなければ逃げていくと思ったのになぁ、ちょっと本気出すか」
気を強めると俺の周りに俺を包むかのように焔が現れる。
するとモンスターたちは恐怖を感じたらしく早々に逃げて行った。

「何あれ、なんであの人避けないの?」
私は恩人がモンスターを引きつけて自分は逃げると思っていたのにあの人は逃げないし避けようともしない。
『あいつはそういうやつだ』
「そうなの?」
ん? 私は誰と話してるんだろう? ここにはあいつのペットくらいしかいないはず……
『お前俺の言葉がわかるのか!』
い、犬が話してる……
「き、きゃぁぁぁぁああああ!!」
『うわっバカ、耳元で叫ぶなぁあああ』
い、犬が喋ってる! 犬が話してるぅぅぅぅうううう!
「そんなことよりさっきのはどういうこと?」
『お前適応力パないなぁ、まあいい、あいつは避ける必要がないんだよ』
「だからなんでよ」
避けなきゃ死んじゃうんじゃないの?
『まあ、見てろ答えはすぐにわかる』
答え? 私は黒と白の服を着た人、つまり私を助けてくれたであろう人の方を見た。
その人の腰から炎が出てそれは刀の形になっていく。
「あいつ、何者なのよ」
現実じゃああんなのはアニメの中だけなのに今は目の前で起こっている現実だ。
炎は刀の形から本物の刀になり、その刀を抜く。刀身は銀色に輝き一切の傷もない。
「あれってほ、本物?」
『だろうな』
ペットが話すが気にならない。
私はあの刀に心を奪われていく。まるで恋みたいなもので目が離せない。
私が刀を見ていると使っている本人の体に焔が立ち上る。
「なによあれ、あいつなんで焔が使えるの?」
『あいつには二つ名がある』
二つ名? それってゲームとかアニメで言う二つ名のことかな?
『「絶炎の剣士」これがあいつの二つ名であって強さだ』
二つ名であって強さ。「絶炎の剣士」焔を纏ってる彼はまさにその二つ名に相応しいものだった。
モンスターたちは彼を見て怯え、怖がり逃げて行った。

刀を腰に当てると炎となり消えていった。
いつの間にか後ろにいたケルと少女に俺は
「怖かったか?」
と訪ねた。
答えはなんとも歓楽的で
「別に、ちょっとはかっこよかったかも」
だった。
俺は気恥ずかしくなり話題を変えようと頑張って
「そういえば自己紹介がまだだったな、俺は荒貝慎二だ」
自己紹介しかできなかった。
当の本人はふふっと笑ってから
「私は心菜美香、まだまだわからないことがあるから教えてもらうよぉ」
とどうやら会話のキャッチボールが成立したらしい。
「ああ、任せとけっつても俺もあまり知らないんだけどなぁ」
そして俺たちは、特に俺はこの世界の俺が知る限りのことを美香に教えた。
この世界で死ねば当然死ぬし、この世界からは出られないこと、この世界はいろいろな世界が混ざり合って出来た世界であること。
そしてこの世界では二つ名が力を与えてくれることも。
「二つ名が強さかぁ、ケルの言ったことは本当だったんだねぇ」
「お前ケルと話せるのか!?」
え? うんと驚きながらも返事をする美香。
「それがお前の強さかぁ」
そんなものがあったのかぁと内心で関心していたがあることに気づいた。
「それ、戦闘には使えないよなぁ」
戦力外スキルみたいのがこの世界にもあったんだなぁ。
「なによそれ、私は足でまといとでも言いたいの?」
思わず首を縦に振りそうになって寸前で止める。
「そんなことよりそろそろ二つ名がもらえるはずなんだけどなぁ」
「え? 私にも二つ名がもらえるの?」
人の話を聞いていたんだろうか。
「この世界では二つ名が強さなんだ、初めにもらわなきゃダメだろう?」
「あ、それもそうか……で? どうやってみるの? その二つ名っていうのは」
俺は空を見上げる。
「来た!」
俺が言うと同時に美香も空を見上げる。
「あれなによぉお!」
「二つ名鳥って俺たちは呼んでるよ」
二つ名鳥、その名の通り二つ名をくれる鳥のことだ。
その鳥が人の上を通ると美香の体は光を放つ、これが二つ名継承のいわば儀式みたいなものだ。
「二つ名はなんだった?」
「『モンスタートーキンガー』ってこれなによ」
「ぷっ」
モ、モンスタートーキンガーだってさぁ。
「な、何笑ってんのよ!」
「だってモンスタートーキンガーだぜ? 怪物と話すってそのままじゃん」
笑いが止まらないぜぇ!
『安心しろ、慎二も最初はダサかった』
「え? 本当?」
『ああ、最初はみんなそんなようなものだ』
「ちなみに慎二の最初の二つ名は?」
『「ビリーバー」』
「ビ、ビリーバー?」
俺の最初の二つ名をケルの野郎ばらしやがったな!
「おい、ケル! 何勝手に話してんだぁ!」
「え? でも慎二の二つ名は……」
そうか、二つ名が変わることを話していなかったな。
「ああ、なんだ、二つ名は進化するんだよ、俺がビリーバーから今の絶炎の剣士になったようにな」
まあ、この二つ名を手に入れるのにかなりの時間と苦労があったのだがそれはまた別の話だ。
「なんだ、そうなんだ」
「でも変えるにはそれなりの努力が必要だぞ? それにその力だからケルと話せるわけだし」
それはそれでいい力だと俺は思うがなと言おうとしたが必要はなかったらしい。
「ど、努力ですか……そんなのに努力をするなら変えなくてもいいかなぁ」
なんとも現代人ぽい意見である。
「とりあえず移動するぞ、ここは夜は危険だ」
「あなたが私を襲うの?」
ななな何をおっしゃっているのでしょうかこの方は!
「俺がそんなことするわけないだろ!」
「え? じゃあ、了承を得ておそ――」
「まず、その考えをかえてくれぇぇぇぇええええ」
俺は絶叫した。
それから約三時間かけて俺たちは近くの街に行った。
「うわぁ、街があるんだねぇ」
俺の隣で目を輝かせて言う美香。
その顔はこの世界に来て俺が見た中で最高の笑顔だった。
「そりゃあ、あるだろうな、人は俺たちだけじゃないんだから」
俺が知る限りこの世界に来ているのは約千人、その内実に三割がこの世界に飽きを示し自殺するもの、モンスターの餌になるものだ。
この子は絶対にその三割には入れさせない、特に自殺だけはさせてはならない。
「慎二、何怖い顔してんの?」
俺が考え事をしているのが怖く見えたのであろう美香が言ってくる。
「いや、なんでもないよ、さ、行こうか」
「なーんか、ナンパしてる人みたい」
「そういうのはもういいって!」
そんなこんなでボケとツッコミを繰り返しながらある店の中に入った。
「よう、慎二!」
「……」
「って、しょっぱなから無視かよぉ~」
俺に話しかけてきたプロレスリングの選手にも負けないような筋肉を持ったキングだ。
本名なのか、あだ名なのかはキングのみ知ると言ったところだが、信じられる人物だ。
「おお! お前が女を連れてきたのは久しぶりだなぁ!」
俺が返事をしないのを理解したのか俺の後ろでここはどこ? 的な感じで店内を見回してる美香に話題を変えた。
「え? わ、私?」
「そうだぁ! こいつが女を連れてくるのは早々にないことだぞ! なんでも女は弱いからだそうだがなぁ!」
キッとこっちを見てくる美香の視線が痛い。
「別にお前が特別なわけじゃないぞ?」
しまった、と思ったときには既に遅かった。
「そんなのわかってるわよ!」
ふん! と言って顔を合わせてくれなくなった。
何を怒っているのか、男の俺にはわからなかった。
「おお、そうだ慎二! お前に依頼が来てたぞ!」
依頼、それはこの世界にいる人たちの迷惑していることや困ってることを報酬をもらって解決することだ。
「今日はどんな依頼なんだ?」
「えーっと、盗賊退治らしいなぁ! しかも生きてる人らしいぞ!」
生きてる人を退治、それはこの世界から排除することだ。
「ち、ちょっと待ってよ、慎二! それって人殺しなんじゃ……」
まあ、そう聞いてくると思ったよ。
「そうだ、これは人殺しだ」
「そんなのダメだよ! 人を殺すなんて……そんなことしちゃ、ダメだよ」
美香は最後の方では泣きそうになっていた。だが、俺はやらなくちゃならない。人殺しを……
「美香、この世界では確かにルールはない。けどな、ルールがないからなんでもしていい理由にはならない。人に迷惑をかければそれ相応の罰が無きゃならないんだよ。それがこの世界では『死』なんだ」
俺もできればやりたくはない。でも今やらないで後で後悔をするくらいなら俺はやる。
「キング、場所は?」
俺は下を向いて何も言わない美香を放っておきキングに盗賊の場所を聞いた。
「ここから東に三百キロの洞窟だそうだ!」
それを聞いて俺は立ち上がり店を出ようとした。
「美香、ここにいるなら二階の俺の部屋があるからそこにいてもいいぞ?」
俺が人殺しをしに行くのが嫌なのか何の返事もしない。
俺は無言でドアを開き外に出た。

今私の目の前で白と黒の服を着た同い年くらいの少年、慎二は私と同じ『人』を殺しに行くと言った。
言われてから今まで私はその言葉の意味がわからなかった。理解しようとしなかったのか、できなかったのかすらもわからない。
この世界に来て間もない私にいろいろ教えてくれた人が、モンスターに襲われて私を助けてくれた人が今私の前で人を殺しに行くと言った。
それは私には信じられなかった。
心の中がぐちゃぐちゃになり、慎二にかける言葉すら出ないほどに……。
「いいのか? 慎二の野郎、お前さんに危険が内容にここに置いていったが、それであんたはいいのか?」
キングさんが私に話しかけてくる。
「いいんです、まさか助けてもらった人が人殺しだったなんて、私はそんな人に助けられたんですね」
人の血で汚れた手で助けられた私なんて……。
「あいつ、お前さんに少しでも触ったか?」
なぜそんなことを聞いてくるのだろうと思ったが言葉にならない。
「……あいつは初めて人を殺したときから今まで誰とも触ってないんだ。親友でもある俺ともな」
「え……なんでそんなことをしてるんですか?」
「なんでも、この手は汚れてるから誰にも触ってはいけないとか言ってたけどな」
この手は汚れてるから、そんな理由で触らないないの?
「それと、助けられた人がかわいそうだからとも言ってたな」
今の私が考えていたことと同じだ。
「だから、あいつは極力人には近づかないし、まして話したりもしない」
自分から人を遠ざけているの?
「でも、それじゃあ変ですよ! 私あの人から声をかけられましたもん!」
今のはキングさんのちょっとしたジョークか何かだろうと心の中で思っていたが返って来たのは意外な言葉だった。
「そこなんだよ! なんであいつが自分から人に声をかけたのか。それが俺が持つ最大の疑問なんだよなぁ!」
キングさんが言ったのは嘘ではなくジョークでもなく真剣で真面目な本当のことだった。
「もしかしたら、あいつお前さんのこと……」
「そんなことないですよ!」
キングさんが言おうとしているのはなんとなくわかる。でもその感情はまだ私には早すぎると思う。
「ハッハッハ、まあ、そんなことより早く追っかけな! あいつ一人だと無茶をしかねないからな!」
私は未だに迷っている。
私なんかが行ってどうこうできる問題じゃないのに、もしかしたら邪魔にしかならないかもしれないのに着いて行っていいのだろうか?
嫌われているかもしれないのに着いて行ったら迷惑じゃないかとマイナスの要素しか浮かばない。
「あいつ、前にこんなことを言ったことがある。今しないで後悔するのならして後悔したいってな」
――今しないで後悔するならして後悔したい。
その言葉はぐちゃぐちゃだった私の心を優しく、そして確かにとかしていった。
私は自分でも理解する前に外に飛び出していた。
目指すは恩人の背中、慎二の背中だ。
慎二の背中が見えたとき私は慎二に後ろから思いっきり抱きついていた。

ブレード・オブ・ナイツ first

ブレード・オブ・ナイツ first

訳も分からず気づいたら違う世界に来てしまったヒロイン心菜美香の前に二つ名『絶炎の剣士』を持つ主人公荒貝慎二が現れる。 慎二は美香にこの世界は『二つ名』で強さが決まることを教えたが……

  • 小説
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更新日
登録日
2012-11-18

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