感傷的な歌だけ聞かせてくれ

緩やかに死んでいくみたいだ

人をゆるせても自分をゆるせなかったら

自分が自分をゆるしてあげられなかったら

誰がわたしを楽にしてくれるというんだろう

誰がわたしを理解してくれるというんだろう

いつからか 人と自分の境界線が曖昧になって

人の痛みまでも抱え込むようになってしまった

理解するために、近づくために傷つきにいくことに

わたしはいつしか 抵抗を抱かなくなってしまった

心を閉ざした人の綻ぶ顔が見たいという、ただそれだけの理由だった

馬鹿だな

そんなことをしても、自分の傷が癒えるわけじゃないのに

誰よりも心を閉ざしているのは、自分の癖に

人に寄り添っていながら自分を見せないだなんて

見せられないだなんて そんな息苦しい生き方があるかよ

一体何のために これまで傷ついてきたっていうんだよ

わたしは自分のことなんて何もわからなかった

自分を 自分の傷を見て見ぬふりをしていたのは

突き放していたのは

他でもないわたしじゃないか

それがわたしの、真に訴えるべき苦しみじゃないか

人を救うたびに人から遠のいて

腐った人間になっている気がする

もう、腐り切っているかもしれない

きっと心のどこかで 捨て鉢になっていたんだろうな

今さら後ろを振り返っても 引き返すにはもう遅すぎた

死にかけている人間が人助けをしていたなんて 馬鹿な話だな

いまはもうどんな慰めも響かないほど憔悴してしまっている

優しさの意味も価値も すっかりわからなくなってしまっている

わたしが与えていたものは、わたしの憧憬そのものだった

もう帰れないし、それにもうすぐ死ぬからさ。だから今日は、

せめて今日は 感傷的な歌だけ聞かせてくれ

感傷的な歌だけ聞かせてくれ

感傷的な歌だけ聞かせてくれ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-11

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