曲がった羅針盤

森悠希

  1. 曲がった羅針盤
  2. A Wicked Compass

曲がった羅針盤

直黒(ひたぐろ)に浸された暗澹(あんたん)たるこのみちを、うかうかとすすむとき。
影たちは怱々(そうそう)(いが)み、炎色を宿しながら眼光炯々(がんこうけいけい)として己を射る。
用心なさい、死が放つ鈍い音吐(おんと)蠱惑(こわく)され、濃い煙霧(えんむ)の中へと誘われるだろう。

叫喚(きょうかん)咆哮(ほうこう)が、心魂(しんこん)に安らぎを与えることなく、幾度も突き刺さる。
厳寒(げんかん)な息吹が己のさくい背骨を鞭打(むちう)ち、奥深くの脊柱(せきちゅう)をも凍らす。
直黒に浸された、暗澹たるこのみちを、うかうかとすすむとき。

たまは恥辱(ちじょく)と苦悩により、覆われ錆つき、くすんでゆく。
空虚で要らぬものだと戒飭(かいちょく)するものの、粘着質なそれは剥がれやしない。
用心なさい、死が放つ鈍い音吐に蠱惑され、濃い煙霧の中へと誘われるだろう。

鮮麗(せんれい)な色艶や快哉(かいさい)な音楽。美事なる刺激は、いずれ
不毛なガラクタとして、遥か遠くの過去へと葬り去られる。
直黒に浸された、暗澹たるこのみちを、うかうかとすすむとき。

自由気ままに流れる心の機微や、長年かけて蓄積された叡智(えいち)の結晶
さえも消滅する。心髄(しんずい)(こぼ)れ、熱く脈打つ液を零すのだ。
用心なさい、死が放つ鈍い音吐に蠱惑され、濃い煙霧の中へと誘われるだろう。

失ったものが多くてもなお、己はその脆弱な手足で地面を這うという。
皮をジリジリと擦り減らすたび、次第に薄くなる跡は見放される遺志のよう。
直黒に浸された暗澹たるこのみちを、うかうかとすすむとき。
用心なさい、死が放つ鈍い音吐に蠱惑され、濃い煙霧の中へと誘われるだろう。

A Wicked Compass

As you wander through the deep and darkest ways,
Shadows shift and turn with a sharp, fulvous gaze.
Beware, the dull note of death will lure you into the haze.

Shrieks and snarls keep piercing the soul.
A frigid breath lashes at your frangible spine.
As you wander through the deep and darkest ways.

Orbs are blackened by shame and distress.
Useless and vacuous, yet dreadfully viscous.
Beware, the dull note of death will lure you into the haze.

Beauteous colours and delightful music are
To perish into the past as jejune junk.
As you wander through the deep and darkest ways.

Sentimental fluid and intellectual crystals fade
Away, the heart shatters and pours out gore.
Beware, the dull note of death will lure you into the haze.

Yet you still press on with your frail, starveling limbs.
A forsaken will, a trail on the wane with each and every step.
As you wander through the deep and darkest ways,
Beware, the dull note of death will lure you into the haze.

曲がった羅針盤

曲がった羅針盤

己の羅針盤を決める自由はあれど、曲がった羅針盤には気をつけたまえ。 While you have to freedom to choose your compass, be weary of the wicked one.

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • サスペンス
  • 青年向け
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