孤影

錆びた鉄柵に悄然と凭れかかり

純白の煙をくゆらす少女の孤影が

私を一瞥したかと思うと

霞がかった夜空を仰ぎながら

ぽつぽつと何かをつぶやき始めた

私はそっと目を瞑って

それに耳を澄ませていた

然し、突如として声はぴたりと止んでしまった

驚いて目をひらくと 私は鉄柵に凭れかかっていた

私の口からは 白煙が滔々と吐き出されていた

私が誰かを一瞥すると

清冽な冬の青空を仰ぎながら私は

ぽつぽつと何かをつぶやき始めた

その誰かはいつかの私のように目をとじて

私の声に耳を澄ませていた

私も自分の声に耳を澄ませていた

然し、自分でも何を言っているのかわからなかった

少女の孤影だけが脳裏に焼きついていた

あの時私が見たのは 少女の亡霊だったのか

辺りを見回すと

そこにはもう 誰のすがたもなかった

凭れかかるための鉄柵すらなかった

茫漠とした砂漠がつづいているきりだった

無表情に少女の記憶をなぞりつづけるいまの私は

紛うことなく 孤影と呼ばれるに相応しかった

孤影

孤影

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-09

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