物理学について
物理学について
ほんとうは、すべて十一歳で止まっていればよかったんだと思う。加速とそれに伴った摩擦熱で、こげそうになりながら、この受験勉強がいったい何の役に立つのか考えましょう。電熱線といっしょにショートして、原子といっしょにぐるぐる回って、なにもかもが感情のよどみに変わっていく、そういうのが眼前にせまってからようやく、きみの痛いポエムに発狂する。いっそ、詩人になりたかったことだけで虎になってしまえたら、きみは社会のゴミと呼ばれなくてすんだんだよ。夢の島競技場、トラックを反射した夕日は必要以上にまぶしかった。減っていく語彙と減っていく友達と減っていく時間。
工事現場は静かだった。空気を読めたみたいに静かなら、重機は重機と言えんだろうな。目は二つ、耳も二つ、胃は一つ、肝臓も一つあればよかった。食って、寝る。それだけ第一志望に受かるんじゃないかっていう余裕が、あさましかった。落ちたとしても、それならそれでいい。どこまでも鈍い色で、どこまでも眠っていて、どこかで物音がする、そういう町。言葉は軽く、内臓は重く、ぼくは無重力エレベーターで浮遊していて、客観的に見ればただ落ちていくだけの、そういうこと。きみがここに来た根拠だけははっきりとある、そういう不安。
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