短編集

ハイミドリ

  1. 春行く
  2. 恋香
  3. 木苺
  4. 瓶の中
  5. コトノハ
  6. 秘密の場所
  7. 明け方の雲
  8. Q
  9. 目覚め
  10. 感覚
  11. 帰り道
  12. 答え合わせ
  13. 吸血鬼
  14. 午後六時一二分
  15. 命の生すもの
  16. てのひらの太陽
  17. ハイミドリ
  18. 蟲食い
  19. LUST
  20. アクティブ・シンデレラ
  21. 吟遊詩人
  22. 眼差し
  23. 四季

この恋が例え夢想だとしても

春行く

まだ蕾の枝の下
開きかけた蕗の薹
冷たい風と暖かい日差し
私に春を教えてくれた

雪の塀は道を譲り
水溜りのカーペットは空に干され
私の行く視界は
どんどん広がる

あぁ
後はあなたが咲けば
素晴らしい時代が迎えられる

恋香

春の恋は木蓮の香り
不思議で甘い
慣れない香りだった

あなたも「変わった香りだね」って
いつの間にか気付いたね
今年もあの香りを身に纏って
日々を過ごすよ

私の涙
たった一滴

目の前が海になる

そこに住むのは
私の涙に
気が付いたあなた

優しく愛しい
あなただけ

木苺

イチゴの様に小さな願い
一つ摘まんで
あなたにあげる

甘いのも酸っぱいのも
私の気持ち
一つずつ摘まんで
あなたにあげる

最後は全部ジャムにして
愛しい愛しい
あなたにあげる

瓶の中

日々、蓄積される思い
空舞う鳥に「届けて」と
口笛吹いてみる

天を見上げると
小さな視界から
あなたが覗き込んだ

「閉じ込めて、出してあげない」

イタズラに笑って?
あなたから逃げないから

コトノハ

私の小さな海に
その身を投げて

言葉なんて嘘ばかり
だけど
それでも重ねなくては
本当に触れ合うことができないよ

秘密の場所

屋上に続く階段で
お弁当食べてたね
食欲なさそうに

君の一段下、足の間に座ったら
驚いてたけど嬉しそうだった

私は君に包まっているのが
大好きだった

みんな知ってる
誰も来ない場所

君からの告白の場所

明け方の雲

映画を一緒に見た帰りは
藤色の空が名残惜しそう

始めの頃はみんなで歩いた空
だんだん二人だけで歩いた空

感動で号泣したり
恐怖で抱きついたり
ただただ眠たかったり
色んなスクリーンを眺めたね

幸せ過ぎて
「喜び過ぎてはいけない」と俯いて
石畳を一つ飛ばしで歩く空

Q

問・恋とは何か?

答・毒に満たされたグラスの中に
  数滴ずつ落ちてくる血清のようなもの

目覚め

雨音を聞くと
あなたと愛し合った時間を思い出す

あなたに会う時は
よく雨が降ったから

雨雲を呼んだのはあなただと
てっきり思っていた
だけど
私の方だったのかもしれない

まぁいいや
今はただ愛したいから
何もかも天気のせいにしてしまおう

感覚

あなたの手が
私に触れた感触が
思い出せなくなって久しいのに
わずかな断片から
柔い痺れを感じ始める

指先から
爪先から

恋しくなってしまうから
これ以上
何も感じたくないのに

帰り道

今日も雨が降る
街灯の反射で雨粒が見えた

車がよそよそしく通り過ぎながら
私は壊れた傘を捨てられずに
靴擦れと共に家路へ向かう

排水溝に流れていくのは
私の涙なんかじゃなく
誰かが無為に消費した残り滓

だけどそこにも命は存在していて

奪いながら与える自然の様に
ただそこに存在しなくてはならない

答え合わせ

眠る少女は
赤と白を混ぜても桃色にならない事に
いつまでも悩んでいる

少年に貫かれる憂う赤
真っ白なシーツとシャツだけが
その答えを知っている

泣き喚く授業の隙間
裂けた夢
恋人の知らない間

少年は少女の初めてを奪ってまで
答えを欲しがった

吸血鬼

傷口を塞ごうと
口に含んだ
君の血液は
私の安定剤だった
この嗜好が
恋の残り香

午後六時一二分

あの日の私達は
今日に繋がった

あの日の夕焼けは
今日沈み
明日生まれ変わる

思い込みでも良い
あなたと私の傷口は
きっと癒えることが出来た

胸からあふれるこの気持ちが
あなたと同じものでありますように

命の生すもの

あなたが生まれたのは
ある夏の夜

穏やかな夏の夜

若い命が燃えていた

愛が形を成すのなら
きっと
あなたの姿なのだろうね

てのひらの太陽

潮の香りと結晶が
腕と砂利に張り付いて
屈めた腰を伸ばし
遠くを睨む白髪頭に浅黒い肌

紫煙を吐きながら
仕事の手が拙い私をよく褒め
節くれた大きな手が
太陽の様だった

祖母の薬指に輝く
白銀色の太陽の様だった

ハイミドリ

秋になると祖母がいつからか
オモチャカボチャを居間に並べていた

まだハロウィンなんて言葉が
浸透していなかった頃
カボチャのランタンを作って
お菓子をもらうのが楽しみだった

サラダにはリンゴやミカン
今ではよく見かける楕円のプチトマトが
食卓に花を添え皆が囲う

晴れた冬空の様な瞳をした祖父は
どんな日も黙々と牛の世話をする

温めてくれと差し出す白い掌を擦りながら
二人の故郷に思いを馳せた幼き日

蟲食い

あの時の痛みを
まだ覚えているのね

自我を手放しそうになって
必至であなたに縋った痛み

肌に浮かぶ濃桃の痕
舌の平で圧をかけるように
口に含みたい

あぁ、果てる
「おかしくなっていいんだよ」
あなたは優しく囁いた

空の様に
白んでゆく

触れたくて仕方ない
静かな温かい呼吸を思い出す度

こっそり口づけた夜
胸の中で泣いた夜
偶然手が触れてそのまま握り合った夜

たくさんの夢を抱く
優しく閉じた瞼が開く時
私だけを映してほしい

LUST

ひりつく乳房の先
あなたがいたと
意識する夜更

冷えた指先は
優しく輪郭を撫で
慰めるも静寂の部屋

淡く甘い胎の底
声のない嬌声に
響くのは呼吸だけ

薄く見開く目と口は
だらしなく開く
ただの器


愛を受け入れるだけの
あなただけの
赤い肉

アクティブ・シンデレラ

バレエパンプスであなたに飛びつく道
スニーカーで並んで歩く道
厚めのブーツで街頭に照らされる道
根雪にヒールを刺して歩く道

あなたの選んだ靴は
あなたの前では履いてみせなかった


ねぇ王子様?

十二時の鐘が鳴り終わったらさ

吟遊詩人

黙して語る調べは物語
深夜早朝の寒空
賑やかな声音も冷えて行く

奏者はただそこに構え
無心に掻き鳴らし爪弾いた
時に懐かしむように
時に希望を見るように

少ない聴衆の鼻先に火が点る
時間の経過は煙しか知らない

静寂が辺りを白く照らし音が止む
一枚のコインは涙した

眼差し

泣き虫だから

指を差された泣き黒子

その横顔を確認すると
若き日の愛しいあなたの様で
私の様で

少年は青年になり
歩き出す
繋がない手だとしても

私は帰りを待っている

四季

入試の折に不幸なジンクスを
ことごとく踏み抜いた私に差し伸べられた手
嗤わず引っ張り上げてくれた事を
今でも覚えているよ

「君も無事に入学できたんだね」
階段の踊り場で照れ臭そうに笑ったキミ
赤い胸章が辛うじての共通点
踊り場から見えた中庭は雪見桜
今はなき学び舎のささやかな十五の日



大人であると決意して一人開けたピアスを
クラスメイトはこぞって開けだした
若干の憂いを含ませて口を閉じたまま
声を出すことを忘れた初夏

キミにあげるはずのプレゼントを失くして
途方に暮れる校庭の隅で
若草が揺れながら夕陽に照らされる海を臨んだ
狐の面は涙を流さない
沈黙がすれ違いを生んだ
潮の香りが肌を刺した日々



嫉妬が人格を歪ませるなら
もう子供の仕業じゃない
トンネルの向こうの紅葉と瓦屋根
息も出来ないほどの湯が体を満たす宿

何かから逃げるように手を繋いで歩く
木枯らしの吹く帰り道
それぞれの進む道を撫でながら
名もない傷が増え薄れて行く記憶の中
イヤホンをしながら授業をやり過ごし
キミが貸してくれた音楽に浸った



凍てつく白い粒に顔をしかめ
それでも素足で歩く通学路
暖かい部室の扉の前
物悲しげに立ち塞がるキミ

粉雪が牡丹雪になる頃には
私達はもう会うこともないだろう
全てを黒く塗られても
確かに存在した眩い記憶
愛と呼ぶには若すぎてまた雪見桜
遠くの街の映画館で抱きしめ合い
十八の青春は終わりを迎えた

短編集

この愛が例え独りよがりでも

短編集

短い言葉の詩集です。

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