名も無き詩人

いまの私と同じ、あるいは近い年齢で

とりわけ、二十代という若さで

この世を去った詩人を 私は日々

日がな一日、悼んでいる

立原道造、八木重吉、竹内浩三、森川義信、石川啄木、キーツ、ラディゲ、クレイン…

他にもまだまだいることだろう

私はというと、去年二十になった許りだ

そしていまはそれより一つだけ歳を食ったのだが

不思議なことに

もう何十年も生きてきたような心地がするのだ

何十年も生きてきて

いますぐにでも 死が私の手を引いて攫っていくような

そんな気が常々していてならないのである

これからそういった思いを馳せる者たちの

歳を次々と追い越していく度に

私は苦しんでいくのだと思う

現にいま、私は苦しんでいるのだ

十二で亡くなった、岡真史という詩人がいる

私がいま知っている中で、最も若い詩人だ

彼の最後の歳は十二、いまの私の歳は二十一だ

私は彼を初めて知った時、言い様のない程の空虚感に襲われた

その頃私は、自殺というものをどのように考えていたか

孤独というものを どのように考えていたか

生命というものを どのように考えていたか

人生というものを

どのように考えていたか…

詩を読むことでしか、私は彼らに会うことが出来ない

それは直接的対峙ではなく

言葉を一切交わさない

柱の影に隠れて見守るような出会い方だが

私はそうすることによって

彼らと共に生きているような心地になる

紛れもなく 彼らに生かされている確信が持てる

彼らを生き返らすことなど出来ないが

私は実体を失った彼らに支えられて

いまこうして 詩を書くことが出来るのである

その魂を、密かに継ぐことが出来るのである

ああ、今日まで私を生かしてくれた詩人たちよ!

私は貴方たちのように、一瞬をとらえて書きつける

貴方たちのように、一瞬をとらえて離さない!

ああ、どうかこの魂を見守っていてください

この生命が燃え尽きるまで 見守っていてください

私は、貴方たちの魂が詰まった、私のこの魂を貫きます

絶対に、貫いてみせます

名も無き詩人の慟哭を、どうか見守っていてくださいーー。

名も無き詩人

名も無き詩人

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-05

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