ほころ村
映画 「犬鳴村」が作られましたね。
私はほとんどオカルトに興味はないのですが、「村」系の話は特別好きです。
なので自分で書いてみました。
ほころ村とは?その正体は?
最後まで先の読めない展開をどうぞお楽しみください。
ほころ村。それは歴史に忘れ去られた孤独な村。
都会の喧騒。
都会の幻想。
僕たちはみんな、身勝手だ。
不便なことに怒りを覚えるくせに
「幻」や「夢」なんて形の無いものを欲しがっている。
なくなれば悔しむくせに
あればあるでケチをつける。
法律に、大人に、国に、世界に、地球に。
守られているから生きられているのに
恐怖を、痛みを、孤独を、絶望を。
なるべく遠ざけて生きているのに。
時に、求めてしまう。
これは、私が心より願いついに出逢った
「夢」のお話。
この手記を読む貴方が
誰かに伝えてくれることを願う。
無いじゃないか。
「いつまでやってんだよ」
ええいうるさいな。
まだ気が済んで無いんだ。
「もう帰ろうぜ…何もねぇよココには」
まだ探してないところがあるはずだ。
…というか別に付き添いを頼んだつもりは無いんだが。
私は友人と「そこ」に来ていた。
私は自分ではそうは思わないがかなりの「オカルト好き」らしい。
確かに好きは好きだがオカルト呼ばわりはごめんだ。
だって私が好きなものは心霊やら都市伝説なんかじゃなくて「実在した恐話」なんだから。
「そーだけどさー。なんもないって、ただの森じゃん」
「私はもう少し調べてから帰る、君は先に帰宅してくれてかまわない」
「お前の車で!?俺が運転して!?
お前はどうするんだよ、真」
「帰りにタクシーで駅まで行くさ。
車は君の家に止めておいてくれ、明日取りに行く」
「そんなに気になるのかよ
大体なんだよ「ほころ村」って。
聞いたことねぇよそんなマイナーな話」
「地図にない村だなんだとオカルトな村はたくさんあるがほころ村は違う。
確実に存在した村なんだ、私はこの目でちゃんと見たい。
村の跡地を…」
「でも地図通りきてもなーんにもないじゃん
あるのはただの森、森、森。
森が3つで森三中だ。
どんだけ行っても森の中だろーが。
何が実在した村だか〜。」
「でもほころ村の話をしたら君は楽しそうに飛びついて来たじゃないか。
お昼代出すなんて言ってまでさ」
「そりゃさ!?有ったら楽しいじゃん!
別に興味はねぇけど村の跡地て…男の子にはいい響きだぜ!
…現実は虫にたかられて大変なだけ。
もう帰ろうぜ、置いていくのは気がひけるよ」
友人、実とは幼なじみだ。
二人合わせて「真実コンビ」と名前でよくもじられたものだが、悪縁もここまで来ると凄い。
もう十何年も一緒にいる。
私の趣味に付き合ってくれるのは嬉しいが邪魔をされるのは正直ごめんだ。
「実、私はゆっくり調べたいんだ」
「しかたねぇか。お前は言い出したら気かねぇしな!」
「ありがとう。では次はあっちの方だ」
だが、この日この後3時間ほど探しに探したが奇しくも実の言う通り「森の中」なだけで何一つない。
服を汚しながら私たちは日暮れとともに家へと帰宅した。
「おかえりなさい貴方、大丈夫ですか?」
「ああ、遅くなってすまない。
実を送ってきたから…。」
「また嘘おっしゃって…。
どうせ遅くまで探索したんでしょ」
「う、それを言われると何も言えなくなる。」
私は既婚者だ。
妻はこんな趣味を持つ私を心から理解してくれている。
子供は私たちの間にはないがつつましく幸せな生活を送っていた。
「…」
私は夜中、インターネットに没頭していた。
もちろん情報収集だ。
「ほころ村」の情報はほとんどネットにはない。
そう。
存在自体にあまりにも信憑性がなさすぎるため「都市伝説」にすらなれなかったのだ。
だからインターネット上にいる物好き達の中でもほころ村を知っている人間は存在しない。
「ほころ」の意味すらわかっていない。
そんな言葉は存在しないからだ。
「綻ぶ」という言葉はあるが綻ぶ村。
意味になっていない。
しかし、なぜ私は「実際に存在した村だ」と言い張っているのか。
確証がある。
まず地図だ。
これはほころ村の話を知ってる人間なら誰でも知っているが…。
明治時代付近まで使われていた周辺地図にはっきりと「ほころ村」とかかれているのだ。
それを現代の地図と比較すると地形的に合致する場所があった。
それがまず根拠その一。
その二は、書物だ。
私はほころ村の存在を知ってから五年。
仕事の隙を見つけては様々な古文図書館へと足を運んだ。
それらしい書記を探し続けたが何一つなく難航した。
だがついに見つけたのだ。
唯一と言っていい手がかり。
明治時代に書かれたまま朽ちることなく保存され続けていた「全国の村役場」をまとめた書物だ。
は、ひ、ふ、へ、ほ。の行を凝視した私の目に飛び込んだ文字。
そう、「ほここ村」だ。
他に探しても「ほここ村」は存在せず、おそらく長い年月を経て「ろ」が「こ」にすり減ってしまったのだろう。
「ほころ村」は存在する。
なぜなら、その書物に記されていた他の村はすべて「実在」したからだ。
かなり長い時間をかけて私は全ての村の存在の確認を取った。実に1200以上。
電話代も著しく…それはまあいい。
だがほころ村だけどの役場に電話をしても知らないと言われる始末。
何かを隠しているのかと最初は疑ったが、役場の人間から動揺は一切見られなかった。
おそらく、本当に存在を知らないのだ。
その書物が明治時代に書かれたものであること、地図が明治時代のものであることから同時期に作られたものだと分かる。
つまり、ほころ村はやはり存在していたのだろう。
私は決めた。人生をかけてこの謎を解こう。
ほころ村を必ずこの目で見よう。
そして世界には黙っていよう。
だってその方がロマンがあるじゃないか。
この先の未来、また私のようにほこら村にたどり着くものがいるかもしれない。
その時に私の情報が残っていれば簡単に探せてしまう。
未来の伝説好きの夢を、汚したくないのだ。
…そろそろ妻も起こしてしまいそうなのでパソコンは閉じることにする。
この手記も、ページがもうない。
明日手帳を買わなくては。
「で、次の日ってわけか」
「ああ、昨日ネットで沢山調べたんだがやはり見つからなかった。」
「俺も気になってよう。一応オカルト好きなダチとかにも聞いてみたんだけどさ」
おいおい。早速オカルト呼ばわりか。
「犬鳴村や杉沢村の話は沢山聞くんだけどよ
ほころ村なんて鼻で笑ってたぜ」
言わせておけ。
「ま、俺は昔からお前のことはよーく知ってるし
一度行くと決めた手前最後まで付き合うよー」
「一人でやってもいいが少し怖くてな。
助かるよ」
「え?怖いの?好きなのに?」
「私も人間だぞ。孤独は苦手だ」
「そんなもんかー。」
「辛いものが苦手でもたまに食べたくなるだろう?」
「それと同じか」
「うむ。」
私たちはくだらない会話をしながら先へと進む。
昨日探索しきれなかった範囲を今日は捜索する。
正直、この日まで私は甘かった。
かなり甘かった。
何事言われれば恥を忍んで答えるしかないが
「見通し」だ。
「…?おい、真」
「どうした…?」
「おい!おい!」
「だからなんだ、大きな声を出すな」
「あれ!見つけた!」
なんだというのだ。
「…?家…?」
木々の隙間に確かに家を見つけた。
まさか。
「村だよ!ほころ村じゃねぇの!?」
「まさか…」
だが数分後、私たちは膝を落とす。
今も人が住んでいるただの民家だったのだ。
「こんな辺鄙なところによくもまあ…」
「あ、お茶…すみません、図々しく…。」
「いえいえ、お気になさらず」
住まれていたのは見たところ70代後半…と言った男性だった。
姓は「里見」さん。
下の名は別に聞かなかった。
最初は村を見つけたとはやとちりしていたので気付かなかったが、家の前の道はご自分で整備されたらしくアスファルトこそないが平らにならされていた。
その道を道なりに真っ直ぐ進めば街に出る。
「なぜこんなところに一人で住んでらっしゃるのでしょうか」
私は質問をした。
実はトイレに行ったっきり戻らないところを見ると、飽きて外で携帯をいじっているのだろう。
「静かなところが好きでしてな…。
この辺りは一切人工物がないでしょう?
20年前に見つけて、土地を買い、道だけ整備してひっそり暮らしておるんです」
「街などには出るのですか?」
「ええ、スーパーに行かなくては食料がないので…」
「なるほど…。」
「貴方はなぜこんなところへ?」
そうだ。この方に聞いてみよう。
20年間この森に住み続けてるのならもしかすれば探索くらいしたことがあるのでは、と私は期待を込めて質問をした。
「里見さん、いきなりで失礼なのですが
「ほころ村」と言う村はご存知ですか?」
「ほころ村…どこでその名を?」
来た。これだ。ついに見つけた手掛かり。
反応的に絶対に知っている。
気を損ねないように私は次の言葉を選んだ。
「私はほころ村を探しています。
その名に出会ったのは5年前です。
独自で調べてこの辺りの森のどこかにあるんだと私は思っているのですが…」
「…おやめなさい、貴方が探しているのはただの昔の人間が住んでいただけの村です。
今では跡形もありません」
「それでも、5年間探し続けていたんです。
特に何ってわけでも人に広めるわけでもなくただただ私がその跡地を見たいのです。
何一つ建造物が残ってなくてもかまいません。
もし詳しい場所をご存知なら連れて行ってくださりはしませんか…?
もちろん、お礼はさせてください…。
どうか、どうか…。」
私は深く頭をさげた。
そこに深い意味はない。
ただ体が勝手に下げていたのだ。
あと少しで念願が叶う。
そんな時人間は謙虚なものだ。
「…すみません、お引き取りください。
本当にすみません…。」
「私の、夢なんです。
お願いします…!本当にお願いします…!」
「……すみません。」
悟った。
無理だ。
この人は絶対に折れない。
そんな信念を感じた。
「……分かりました、無理を言ってすみません。
しかしこれだけは聞いてください」
「…なんでしょう?」
「捜索だけはさせてください。
私のただの趣味です、もちろんこの家には近づきませんし森は絶対に荒らしません。」
「それは貴方の自由です、どうかお気をつけて」
私は外で退屈そうにしていた実に事情を話し、里見さんに深く頭を下げその場を後にした。
里見さんはとても優しい方だった。
もしまた何かあれば尋ねてくれと言ってくださり、ここまで来るのに道を使っていいと言ってくださった。
車も家の前に止めておいていいと。
本当にありがたいことだ。
今度お礼の品でも持参しようと思った。
だがこれで確信した。
「村は存在する」
「なあ、真」
「どうした?」
「地図見せてくれよ」
翌日、菓子折を届けた時里見さんはとても喜んでいた。
安物ではないにしても別にたいしたことではないのだが、その笑顔に救われた気がする。
心折れることなく捜索を続けること3日目。
実がいつになく真剣な顔をしていた。
「うむ…?」
私は地図を手渡す。
「この「ほころ村」って書いてるのがここなんだよな?」
「うむ」
「やっぱり…。
ちょっとこれ見てくれよ」
実は地図を指差す。
「…崖?」
「うん、崖だよな。地図の書き方的に。
でもこんなところに崖なんてあるわけない」
私は失念していた。
ほころ村を探したいあまり地図の周りを見ることを怠っていた。
場所の特定は出来たのでそれ以外のところには目を向けようとしなかった。
だがこの問題は簡単に看破できる。
「これは長い年月で雨やら風やらで崖が埋まっただけだろう」
と、言うよりなぜ地図を今日初めて見た実が「やっぱり」と言えるんだ…?
「なあ、実。なぜ崖があることが判ったんだ?」
「お前さぁ。ネットの使い方本当に素人だよな。
どんな検索の仕方してんだよ…
その地図普通にGoogle画像にあったぞ」
!?
私は初めて出すような抜けた声をあげた。
「ひゃはは、バカみてぇな声出してやんの
ほらみてみ?」
実に見せられた携帯の画面には確かにこの地図が画像として表示されていた。
私は恥ずかしい話、機械は苦手だ。
とても…。
「この地図…見つけて写真を撮ってネットにあげていた人が既にいたのか…」
「昨日適当に調べてたら見つけたんだけどよ
ちっと調べてこんな地図出てくるくらいだしもっとちゃんと調べたらあるんじゃね?」
「実、頼んでいいか?
一応パソコンは持ってきているんだ」
「携帯でも調べられるけど…あるならそれでいっか」
実はカタカタとパソコンをいじり出す。
「ったく弱いポケットWi-Fiだなぁ
動作が遅いしなんだこのヘンテコな設定」
私はほころ村を調べるために店員にオススメされたパソコンを買っただけだから何もいじっていない。
それを実はボヤいていた。
自分の無知が今は恥ずかしい。
それと同時に頼れる友人がいることに幸せを覚えていた。
それから30分は経っただろうか。
私には実が何をしてるのかさっぱりだったが、様々な言葉の組み替えでついにとあるサイトに辿り着いた。
「これだ…真、これだよ…」
「矛路村の存在…」
私の体に電流が流れたような気がした。
ついに、ついに。
五年かけてついに辿り着いた。
実いわくこのサイトは去年できたみたいだ。
私がネットに強かったとしても4年かかったことになる。
まず名前だ。
矛 路 村
ほこ ろ むら。
意味はよくわからないがついに漢字を知ることができた。
このサイトはとある個人が作成したブログのようなサイトだった。
閲覧にはパスワードがいるらしい。
「くそー、せっかく見つけたのにパスワードがねぇから見れねぇじゃんかよ」
「パスワード…。」
「しかもなんだこれ、パスワード打ち込むところに「場所をかけ」って書いてんだよ」
「ならばほころ村と打ち込むのは?」
「いんや、数字しか打ち込めないようになってる。」
「…緯度と経度じゃないか?この場所の」
「座標か!それだ! わかるか?」
「調べれば分かるんじゃないか?」
「よーし、携帯で調べてっと…」
見事に的中。サイトが開いた。
この場所を特定できていたことが功を奏した。
私の五年は無駄にはならなそうだ。
「おいおい…閲覧注意って何回書くんだよ。
どんだけスクロールさせるんだこのサイト。
ち、めんどくせぇ。横のバーで一気に…
できねぇ!?」
「どうした?」
「このサイトめっちゃくちゃに縦長だ。
しかも下まで行くのにかなりスクロールしなきゃならねぇ、飛ばすこともできねぇ。
まるで当てずっぽでパスワード開いちゃったやつを諦めさせようとしてるみたいだ」
「…頼む、続けてくれ」
「…おう」
なんと。
これを読む貴方は信じられるだろうか。
パソコンに疎い私でもわかる。
マウスの、真ん中の、車輪のようなもの。
あれをくるくるとスクロールする行為。
それに2時間半かかったのだ。
「も、もう指がいてぇ…」
「変わるよ、ありがとう…」
交代を繰り返しついに。
『…最後の警告です。
閲覧、注意』
その言葉とともにURLがあった。
実に交代し、実はそのURLを押した。
『矛路村の真実』
『それを記すことは
許されないこと』
『このサイトが見つかってしまえば
私は
私は』
『だが誰かに見つけて欲しい
その理由は
くればわかる』
『場所のヒントを残す
あとは
自分の目で』
そこまでスクロールしたとき、サイトが一番最初のページまで戻った。
「あー!!!!またやり直しかよ!!!」
「…いや、実。もうコロコロしなくてよさそうだ。」
するとそのトップページには…
【日本最大の矛 その根本】
と、書かれていた。
私と実はその日は帰宅した。
各々、その言葉の意味を考えることにしたのだ。
「…日本最大の矛…。
槍…?徳川軍最高戦力と言われた本多忠勝の蜻蛉切り?
だがそんな槍の根本にあるわけがない。
つまり「比喩」だ。物の例えだ。
日本最大を考えてみよう
スカイツリー…
だが場所が違いすぎる。
だって私たちがいる森は富士の樹海…」
ここまで言ってついに分かった。
「富士…山」
日本最大の、山だ。
矛と言われれば確かに尖っていて
日本で一番巨大だ。
その根本…。
富士山の、地下だ。
「えー!富士山かよ!」
翌日私は実に伝えた。
「ああ、おそらくだが…」
「すぐそこに見えてんじゃん!」
「うむ、行ってみよう」
私と実は樹海を進む。
そして坂になっている富士山根本へと辿り着いた。
さすがにこの辺は人がちらほらといる。
登山客だ。
「なんかちっと安心するよな」
「だが私たちは立ち入り禁止の樹海側から来たんだ、見つかれば補導されてしまう。
気を付けろ、実」
「おうよ!ここまできて見つかってたまるかい!」
富士山の周りをぐるっと周ってみることにした。
根元と言っても富士の火口から飛び降りるわけにはいかないし、火山である富士山のど真ん中に村なんてあるわけがない。
つまり「富士山の根本の近くのどこかの地下」だ。
登山客がたどり着く富士山の正規の入り口。
その間反対にたどり着いたとき…
ついに私と実はたどりついた。
「お、おい真…
あれじゃないか…?」
「まさか…」
井戸だ。
恐らく相当長い間使われていない…。
木々の真ん中、探したって見つかるわけがない。
偶然見つけるしかないような…
そんな井戸だ。
まさかとは思うがやはり地下への入り口なんて井戸しか思いつかない。
私と実はのぞきこんだ。
なんてことはない。
水の枯れ果てたただの穴だった。
「…やはりか、そんなわけないよな。
これが入り口なら冒険家にとっくに見つかっている。」
国の探索チームは一度樹海を総探索している。
その時点でこのイドは見つかってるはずだし、何かあれば封鎖されているはずだからだ。
「…いやまてよ
なぁ真、俺を信じるか?」
何を今更。十数年来の友人が言う言葉を疑う気はない。
「何をする気だ?」
私と実は一応ロープやら簡易食糧やらを持ってきている。
遭難してしまったときのためだ。
「おりてみる」
「正気か?何もないぞ?」
「信じてくれるんだろ?」
そうだった。
「うむ、分かった」
ロープをしっかり結び、懐中電灯で照らす。
実は何一つ臆することなくロープを使いおりていく。
さすが元自衛隊、と言わんばかりにスイスイとおりていく。
深さは5メートルほどだろうか。
汚いといえば汚い、そんな井戸におりていく。
「どうだー?」
「んーー、読み違えたかなぁ。」
仕方ない、だが降りてくれて調べてくれたことはとても嬉しい。
私にそんな勇気も技術もないからだ。
早く引き上げよう。そう思ったときだ。
「…?まてよ。おーい真!
俺の荷物から白いハンカチ出してくれ!」
ハンカチ…?
とりあえず言われるがままにとりだす。
すると…
ゴトッ
という鈍い音と共になんと銃が落ちた。
「!?お前、なぜこんな物…」
「落ち着け!本物じゃない!
俺の趣味ってやつだ、ただしかなり改造してるから合法ギリギリだけどな」
護身用に持ってきていたらしい。
もちろんエアガンだが、改造をかなりしているみたいだ。
私はそれをロープにくくりつけて落とす。
実はそれを受け取る。
ガシャンガシャンとエアガンの音が鳴り響く。
だがかなり威力があるみたいで、井戸の壁面が少し削れていく。
「何をしてる!」
「いーから待ってろ!」
撃ち続ける。
すると、何かが出てきた。
「ほら!おい!真!俺の読みは合ってたぞ!」
「それ…なんだ…?」
レバーにしか見えないものが出てきた。
今実が撃ち壊していたのはレバーにまとわりついていたサビらしい。
それを力任せに引く実。
なんと、井戸の側面が開こうとしている。
だが…
「くそ!完全に錆びついてやがる!」
もちろん映画や漫画の中みたいに科学的な仕組みでもなんでもなく、レバーに呼応して開くゼンマイ仕掛けのような古い仕掛けだった。
完全に錆びており、レバーを倒し切ってもほんの少し開いた程度だ。
だがそこはさすが元自衛隊。
ほんの少し開いただけの穴に手を入れこじ開ける。
「ふんんんんん…!!」
ガシャン!
ゴゴゴ。
ガシャン!
ゴゴゴ。
とにかくたくさんの音が鳴り響く。
エアガンでサビを壊しながらこじ開けていく。
無力な私は正直内心喜びが止まらない。
本当にあるんだ。
ついに、ついに。
「んんんん!!!
ふう!!よぉーーーーし!
あいたぞー!」
完全に開いたわけではないが、なんと井戸の側面が開いたのだ。
「ありがとう、実
大丈夫か?」
「おう、降りてくるか?
それともやめとくか?真っ暗だぜ」
「もちろんいく。
お前がついてるんだ、心強い」
「おう、任せとけ
現役時代はもっと狭いところに行ったもんだしよ」
私は時間をかけてロープを降りる。
人生で初めてのことだ。
懐中電灯を二人で照らしながら先へ進む。
狭いがちゃんと大人が立って歩けるようには作られている。
長い道だ。
完全に閉じていたがネズミはちらほらとみかける。
やはりどこかに続いているんだ。
坂になっていて登ったり降りたりまた登ったり。
随分起伏が激しい。
かなり上に登った気がする。
そして…。
「はぁ、はぁ、どんだけ登るんだ…」
「実、本当に巻き込んですまない」
「俺が好きできたんだってば!
…あ!またレバーだ、出口だぞ!」
「開けられるか…?」
「任せとけ!」
さっきと同じような手順でなんとかこじ開ける。
光が差し込む。
外…?
扉が完全に開く。
太陽が眩しい。
少し安心感を覚えた私たちは歩き出す。
「どこだ…?これ」
「外…だ」
「外ってことは他からもこれたんじゃねぇのか?
あんな危ねぇ道通らなくてもよ」
「…いや…。実…。
道はあそこしかなかったみたいだ」
「なんでだよ、だって外なら別に山乗り越えたっていいんだったらどうやってでも…って
おい…なんだよ、これ」
空を見上げた私たち。
空には輝く太陽、青い空。
見慣れた光景だ。
周りを見渡した私たち。
そう。
この場所は
「富士山の…火山口…!?」
そう。
富士山の、真ん中だった。
つまりあの道以外にここに来ようと思うのなら…
富士山の火山口から飛び降りるしかなかった。
現実的ではない。
「マグマは…?」
実が口に出す。
その言葉で我に帰る。
そういえば、暑い。暑過ぎる。
「実!気を付けろ、下を見ろ!」
かなり下の方だが、マグマがある。
ここは富士山のほぼど真ん中。
約1500メートル地点。
そこに出たのだ。
上からは人間の視力ではこの足場は見えないし
マグマまではギリギリ暑さで死なない高さにある。
かなり息苦しいが…。
「おい…真…」
「ああ…」
そして…
「村だ、石造りの村だ」
数軒しか家がないが
明らかにココだと言わんばかりの
ほころ村を見つけた。
私と実は歩き出す。
道のようなものはあるがおそらく自然的にできた富士山の突起のような岩の上に立っているこの村は不安定にも程があった。
私たちは充分に気をつけながら最初の家に侵入した。
富士山は昔はともかく人類史で言えば過去一度だけ噴火をしている。1707年ごろ。
そこから300年間噴火をしていない。
おそらくその後に出来たんだろう。
じゃなければマグマに飲まれて石といえど溶けているはずだ。
中には石造りの家具やらが腐敗や破壊してはいるが散乱していた。
私と実は歩き出す。
探しながら、歩き出す。
それらしい書物なんかはみんな文字が焼けすぎていて一切読めない。
「真!もう帰ろう!命が危ねぇ!
ここはもう見つけた!なんの目的でこんなところにあるかは分からないけどもういいだろ!?」
「すまない実、せめて家全てだけは…頼む…!」
「ああもう!仕方ないな!」
二つ、三つ。何もない。
そして最後の家だ。
一際大きなこの家。
この家になければなにもない…。
「入るぞ、真。
離れるなよ」
「ああ、分かってる」
一歩
一歩。
そして。
「…出るもんが出たな、真。」
「人の…骨…」
理科室で見たような。
あんな綺麗なものじゃない。
この温度では虫は生きられないから食べられてはないが、腐り果てた人骨が大量に見つかった。
おそらく村人のものだろう…。
「匂いもほとんどねぇな。
火山の匂いしかしない」
「う…」
「大丈夫か?」
「実は平気なのか?」
「災害現場はもっと酷かったよ。
これはもうただの骨だからマシだ」
「そうか…」
「ん?おい真…あれ…」
「!」
なんと、まだ腐っているだけの死体があった。
そう、白骨化していない…。
明らかに最近できた死体だ。
「おい!こいつ最近の死体だぞ!」
「うっ、、なんでココが…?」
その足元にはノートパソコンが転がっている。
実が手に取り自分のパソコンのバッテリーを移してみる。
「同じ機種だ、動くぞ」
開いた画面はーーー。
「あのサイトの…管理人だ、こいつ」
実がちゃんと調べてくれた。
この死体は大体一年前。
そう、あのサイトができたあたりに死んだと推測されるらしい。
死因はよく分からないがおそらくこの骨をみて気が狂ってショック死か、なんらかの原因でいきなり死んだか。
「なんだこの冷蔵庫…血がついてやがる」
「冷蔵庫…?なんでそんな最近のものが…」
「あれ?これ冷蔵庫じゃねぇのか…?
なんだこれ」
形はとても冷蔵庫に似ていたが、これは昔江戸時代によく使われていた食料保存用の箱…
つまり冷蔵庫の元のような存在だ。
中を開けてみる。
この血はおそらく管理人のものだろう。
「…本だ
しかも焼けてない
真、読めるか?」
「…これは…江戸時代の文字…
古文だ、ここでは解読できない…!」
「よし、持って帰ろう
いくぞ真、そろそろ危ねぇ!」
「うん、いこう」
私と実は村を後にした。
帰り際に気付いたが
この大きな家の後ろに私たちが来たような道と同じ道があった。
この管理人はここからきたのだろう。
『てくれ』
?
なんだ?
たす
けて
くれ
まだ
しにた
く
私と実は
無事に、家に着いた。
それから数日後。
私と実は再び会っている。
場所は私の家。
解読が終わったので全ての答え合わせだ。
「いらっしゃい」
「おう。 奥さんは?」
「友達とランチに行ってもらった。」
「おっけい。じゃあ聞かせてもらおっかな」
「うん、もちろん」
そこから私と実はたくさん話をした。
村のこと、本当のこと、これからのこと。
それから
私と実は連絡を取っていない。
否、取れなかったのだ。
私は今87歳。
特に病気もなくこの歳まで長生きした。
あれから50年。
半世紀を迎えたこの年に
私は真実を書き記そうと思う。
あれから私は誰にもほころ村のことを言わなかった。
実のことも。
これを読む貴方が誰なのかは知らないが
私はもう死んでいる頃だろう。
人は死ねばそれで終わりだ。
もし私が残したこの「余計なお世話」が誰かを死に導いてしまうかもしれない。
だが、許してほしい。
私が墓まで持っていくには
この話は
悲劇的過ぎるのだ
これを読む貴方へ
この先は
気をつけて、読んでくれ。
矛路村。
その正体は
「江戸幕府の将軍」
への贈り物や
食事などを
『毒味する役目』
のために集められた村人の
監禁所だったのだ。
当然、毒味なんて誰もやりたくない。
本当に毒が入っていれば食べたものは死ぬからだ。
将軍の命を守るために平和に生きていた村人たちは駆り出された。
あの日、私が持ち帰ったあの古文書は
村人の日記だったのだ。
毒味役を育てる村だったということだ。
あの井戸は言わば門。
彼らはあそこから逃げることを許されなかった。
なぜ富士山なのか。
それは分からないが…
死体を処理するのにすぐ側にマグマがあるのはやりやすいのだろう。
村人たちは次々と狂っていった。
毒を少量含んだ毒味程度では死なないため、毒を少し体に受け病気になったり気がおかしくなったりした村人たちはこの村に送り返された。
この村で毒に対する耐性を少しでもつけるため、この村で村人たちに出される食事には少量の毒が毎日盛られていた。
そしてここで育てた毒味役の村人を江戸に送る。
そして使い物にならなくなればここに送り返してここで始末する。
この日記を書いた村人は特殊な体質だったようで毒があまり効かなかったみたいだ。
日記もかなりまともに書かれていた。
助けて、もう嫌だ、怖い。
その言葉をたくさん見かけた。
次々と家族とも言える村人たちが駆り出されてはおかしくなって帰ってくる。
暴れるものもいればマグマに飛び降りるものもいる。
そんな狂気の監獄と化したこの村で
唯一正気だったのがこの日記の主だ
彼は抗議した
幕府の役人、管理者達に。
彼は殺された。
最後の日記にはこう記されていた。
「さようなら
私は明日死にます
だけどちっとも悔しくなんてありません。
国のため、侍様のため、将軍様のため
私は毒の海へと逝きます
さようなら
ありがとう」
この村で
正気な奴なんて
ひとりもいなかったんだ。
実は死んだ。
あの日、持ち帰っていた瓶の中のものをひと舐めしてしまったんだ。
それは長い年月を経て熟成された猛毒。
司法解剖でも原因がわからず自然死扱い。
二度と話せなくなってしまった。
私のせいだ。私が連れていったから…。
その日から私はオカルトをやめ…
この村のことも頭の隅に置いて完全に闇に葬ることにした。
あの村について書いてあるサイトをなんとかパソコンを勉強し閉鎖した。
ギリギリほころ村と書かれていた当時の地図や後の人間が面白半分で書いたであろう私と実が見ていた地図を日本中から集めて燃やし…
古文図書館で見つけた村役場の「ほ」のページを破り…
できうる限りの事をして、あの村にだれも近づけないようにした。
勇気を振り絞りもう一度井戸の前に行き、扉を封鎖した。
近くに住んでいた里見さんは
若い頃にあの井戸を見つけて、ほころ村を知っていたそうだ。
あの時忠告を聞いていれば…。
後悔なんてそれこそ山のように湧いてくる。
最後に聞こえたあの声はなんだったんだろう?
誰の声だったんだろう。
今はもうわからない。
誰がなんのために。
あの場所を後世に残そうとしたんだろう。
幕府の最高機密をどうやって知って。
地図に書いたんだろう。
この散り際の命では
もう何も知る事はできない
この手記を読むそこの貴方が
もしこの願いを叶えてくれるのなら
私の骨を
矛のもとへーーーーー。
「ふう。」
「おいークソ退屈だったんだけど!?」
「まあそういうなよ。
この日記すげえワクワクしないか?」
「どーーーせ暇なニートが作った作り話だよ
け、くだらねくだらね
第一富士山なんて15年前に思いっきり噴火してるし
あんな中に住めるわけねぇじゃん」
「…ま、そのとーりだけどさ
今度行ってみない?」
ほころ村。
完ー
ほころ村
いかがでしたでしょうか。
構成を本気で立てる時間が無かったので、なるべくミステリー要素を強めに書いてみました。
もし好評なら第二弾も書きたいと思います。