蛾について
蛾について
ふわっと生きようと頑張っているきみの目が澱んでいる。エレベーターが上り始めるときの気持ち悪さを再現してくれている。重力に抗うなんて、いくらなんでもそりゃねえぜ。突っ立っている。明日には自分自身の墓標になるつもりなのか。うん、やっぱりきみは命に引きずられている。
家の前に蛾の死骸があって、おもちゃみたいだなって思えてくるあの感情が、ものすごく幼くて好き。どうかこのぼくを見捨てないでねって言いたくなる。才能も夢もないのに、存在感だけは消えないからね。大先輩たちの前では、生きてるってことがもうすでに幼稚なんだよ。恥ずかしいよ。そういう羞恥心が押し寄せた結果、信じるも信じないもきみ次第の世界になる。ふわっと生きようとするからには、そういう覚悟も必要なんだぜ。それがいやなら蛾になってしまえ。家の前に落ちていた、あの蛾になってしまえ。
蛾について