夜の国の郵便屋さん
ほら、目を閉じて。
そうしたら、夜の国への扉が開くわ。
こんばんは。
私はこの物語の主人公、「ラヴェンデル ミルキー」よ。
見た目、全然ラベンダー色じゃないけどね。
そうね…名前が長いから、ラヴェ、とでも呼んでちょうだい。
あなたは夜の国に夢を見にきたのかしら?
朝になったら、住んでいる星に帰ってしまうのね。
私は夜の国で大切なお仕事をしていて、地球と夜の国をつなぐ郵便屋さんなの。
流れ星に乗って配達に行くのよ。
さて、今日も地球からいくつかお手紙やお荷物が届いているみたいね。
よかったら、だけど、私のお仕事でも見学していく?
なかなか楽しいお仕事なのよ。
近いところから回っていきましょう。
まずは、たんぽぽ村のうさぎのハンナちゃん宛て。
ハンナちゃん、こんにちは。
ステキなお荷物がきているみたいよ。
「こんにちは、郵便屋さん!」
大きな瓶をハンナちゃんに手渡すと、
うれしそうにリボンをほどいてフタを開けたわ。
そしたら、たくさんのたんぽぽの綿毛が出てきて空を舞って、ハンナちゃんをやさしく包み込んだわ。
「わぁ、すごい…!あの子、私が夜の国でもたんぽぽをいっぱい食べれるように綿毛を送ってくれたのね。大切に育てるわ!ありがとう、郵便屋さん!あの子によろしくね!」
うれしそうなハンナちゃんを見て私もとても安心したわ。
次は、まっしろ町のハスキー犬のリンくん宛て。
リンくん、こんにちは。
今日も寒いけど元気そうね。
あの子からお手紙とお荷物が来ているわよ。
「くんくん。あの子の匂いだ!」
*
リン、元気にしてる?
私の町は今朝、雪が降ってすごく寒いよ。
暖炉の前でココアを飲みながら、お手紙を書いてるよ。
リンは雪が大好きだったから、窓から見えるリンのお家の前に雪だるまを作って置いているよ。
今頃、どこかでソリを引っ張ってるのかな?
そっちも寒いだろうから、手編みの帽子を送ります。
*
「あの子、僕が雪を好きだったのを覚えてるんだ…。寒がりだったことも。離れてても、ずっと気持ちは一緒なんだね。ありがとう、郵便屋さん!」
リンくんはさっそく帽子をかぶって、雪の中を駆け回ってうれしそう。
いつも楽しそうだから、見ている私も楽しい気持ちになるわ。
次は、ぽかぽかタウンの三毛ネコのミーナさん宛て。
ミーナさん、こんにちは。
今日もいいお天気ですね。
地球のあの人から、お手紙が来ていますよ。
「あら、郵便屋さん。ありがとうねぇ。」
*
ミーナ。
私も夜の国に旅立つときが来てしまったわ。
でも、どこにもあなたの姿が見つからないの。
約束した通り、お迎えに来て欲しいの。
待っているわ。
*
「まぁ、大変!郵便屋さん、私を流れ星に乗せてくださいな。あの人をお迎えに行かなくてはならないのよ!」
ミーナさん、私にしっかりつかまって!
流れ星はすごいスピードでミーナさんのご家族のところに連れて行ってくれたわ。
やさしそうなステキなご家族の方だったし、これでミーナさんもひとりじゃないわ。
「ラヴェさん、ありがとうねぇ。これで安心だよ。お礼にこのアメでも食べてちょうだい。」
きれいな紫色のアメを3粒手渡されたわ。
これは今日の私たちのおやつにしましょうね。
次はフローラ町のキツネのチャイさん宛て。
チャイさん、こんにちは。
今日もお庭の手入れを頑張ってるんですね。
お手紙が届いていますよ。
「おや、ラヴェお嬢ちゃん、ありがとうな。なになに…?」
*
今年もチャイを埋めたところからきれいなお花が咲きました。
子供の頃から、チャイに花冠を作って被せるのが僕の趣味でした。
たくさんのタネが取れたので、チャイに贈ります。
いつか、僕にも花冠を作ってね。
チャイ、大好きだよ!
*
「ほうほう。あいつは相変わらず、男なのに女子力が満載じゃのう…。まぁ、しかたない。いつか作ってやるわい。…なんじゃ、ラヴェお嬢ちゃんも欲しいのか?」
あら、チャイさん…私にも作ってくださるの?
じゃあ、結婚式でもあげるときにお願いするわ。
今のところは予定がないけれど…。
さて、次は…
あら、私宛てだわ。
*
ラヴェンデル、今はどこにいるの?
毎日、地球からしあわせを祈っています。
またどこかで会えたら、ハグさせてね。
そして、そのままいっしょにお昼寝したいな。
さみしいよ、ラヴェンデル。
*
…!
お兄ちゃん!
私、思い出したわ。
お兄ちゃんと暮らした毎日のこと。
ただただ、静かに暮らしたあの日々のことを。
お兄ちゃん、私…
世界でいちばん、しあわせなネコだったわ!
…な、泣いてなんかないんだから!
ほら、朝が来るわ。
あなたはもう、帰る時間よ。
星が見えなくても、いつも夜の国と繋がっているわ。
だから、見ていて。
夜の国の郵便屋さん