コロリナ

昔々、難病の人たちの薬に使われる薬草があった。
その名はコロリナ。
いろんな人がその薬草を欲しがった。
それはそれは、身体が楽になるのだそうだ。

ユロラという村に、それはそれは美しい娘がいた。
透き通るような白い肌、ウェーブした栗色の髪、大きな黒い瞳、やさしさに満ち溢れた心。
名前はウタリといい、美しい声でよく歌う。

ウタリには好きな男がいた。
村の男の中で1番強い、と言われるヴェルダ。
ヴェルダは頭も良いし、運動神経も良いし、非常に端正な顔立ちをしている。
彼に勝てる者はいなかった。
当然、村の娘たちからの人気を集めている。

ユロラ村の隣には、ダゴという村がある。
お行儀がよろしくないことで有名な村だ。

ある日、そのダゴ村からゴンゾという男が入ってきて、いろいろ気に食わないという理由でヴェルダを一方的にボコボコにした。
もちろんヴェルダは抵抗したのだが、ゴンゾはとにかく体格が良くて強かった。
村の娘たちはゴンゾの方が強いのだと知って、ヴェルダから、ユロラから離れていった。
ウタリ以外の娘は、連れていってしまった。

その晩、ヴェルダは泣いた。
生まれて初めて負けたことに驚いて。
自分より強い者はいないと思い込んでいたからだ。

ウタリは毎日ヴェルダの元へ通い、看病をしていた。
彼は心も身体もボロボロになり、食事を摂らなくなって日に日に痩せ細り、呆気なく死んでしまった。
薬草と小さな紙切れの入った小さな小さな瓶をひとつ残して。

ウタリは悲しかった。
そしてとにかくゴンゾが憎かった。
彼女のやさしい心は、日に日に闇の色に染まった。
ゴンゾが憎い。ゴンゾが憎い。
ダゴに忍び込んで復讐してやる。

やさしいウタリは、もうどこにもいない。

ウタリの母親はヴェルダの残した瓶を気にしていた。
あの瓶に入っている薬草がコロリナだとわかっていた。
ウタリの祖父が薬を扱っていたからだった。

コロリナという薬草は難病を治してくれるが、間違った使い方…健康な者がその薬草を食べてしまうとコロリと死んでしまうのだ。
だから、コロリナという名前なのである。

ウタリの身体は健康だけど、心が不健康になっている。
もうずっと歌っている姿を見ていない。
日に日にウタリの目つきは悪くなり、無口になった。
それを心配していたウタリの母親は、ウタリの分のスープに、ヴェルダが残したコロリナをすり潰して混ぜ込んだ。
娘が誰かを、ダゴ村のゴンゾを、殺してしまう前に、と。

瓶の中の紙に、こう記してあった。
「不安になったら、こっちへおいで。」

ウタリはいつも通り食事をした。
何も知らずにコロリナの入ったスープを、変な味がする、と思いながら飲んだ。
しばらくするとどうしたことか眠くなってきた。
そして、なんだか悲しくなって、ベッドに潜り込む。

しばらくするとヴェルダの声が聞こえてきた。
「ウタリ、となりで歌っていて。」

ウタリはひさしぶりに声を出した。
それはそれは美しい声で歌ったのだった。

コロリナ

コロリナ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-02

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