悪夢 ⑦

節分の催しが行われるのは、
以前クリスマス会が開かれた怪しげなBARだった。
「節分がBAR?」とやはり企みを感じた。
考えて見れば、寺でやってしまえば公になってしまう。
報道関係が入ってしまっては、「メイサと偽って役所登場」と
いうわけにはいかないだろう。
BARで節分もありえるのだ。

BARに着いたのは、開始時間を過ぎていた。
電車が車両故障の影響で遅れていた。
BARの店内は、真っ暗で片隅にスポットライトが当たっていた。
そこで鬼が、照れくさそうに舞っていた。
メイサが鬼の面をつけている・・かのように思わせて役所だろう。
毎回思うのだが、さすが役所だ。完全にメイサを演じている。

今回は、客が10人ほどいるようだ。
暗闇にシルエットが やはり踊っているようだ。
すぐに係りの者が俺に枡に入った豆を渡してくれた。
「鉄砲玉をありがとう」 おっとやばい 口が滑った。

豆まきが始まった。
鬼に向けて豆を投げ出した。
みんなも 鬼は、メイサだと騙されているのだろう。
あくまでも 遊びとして優しく投げつけている。
鬼も可愛く痛いふりをしていて イチャイチャ遊びだ。

でも俺は、騙されない。
鬼は、役所に決まっている。
枡から豆をつかみとり 鬼に目がけて
おもいっきり投げつけた。
「鬼は、外。福は、内。・・・役所は、外!。メイサは、内!。」
何度も何度も 叫んでは、投げつけた。
投げつけるたびに 今までの恨みが解消されていき
快感や興奮が増してきた。

力いっぱい投げつけた豆が当たる度に鬼は、痛そうに体をくねらせた。
あれは、まじ痛いはずだ。
「役所よ 面を取ってみろ!そしたら その髭面にぶつけてやる!」
俺の興奮は、絶頂だ。
その時、俺の隣にいた男が「おい」と話しかけてきた。
「あっ!」その男の顔を見て驚いた。
「役所~~~なぜ ここに?」
隣にいた男は、役所だった。
この髭面に見間違いは、ない。
「えっ あの鬼は・・・メイサ?」
おいおい 俺は、メイサに豆を・・・。
「メイサ~ごめん。 俺を許してくれ~」
大人気なく俺は、泣き叫び鬼に走り寄った。
みんなが投げた豆が俺の背中や後頭部に当たった。
メイサに当ててはならぬと思った。
豆は、段々と激しさを増し俺を狙っているかのように投げつけられた。
痛みを堪えてメイサを守っていると思うとうれしかった。

しばらくすると豆がなくなったのだろう。
豆が投げつけられなくなった。
そして、鬼が面を外そうと面を結んでいる紐に手をやっていた。
いよいよ 目の前にメイサの顔が・・・
きっと笑顔で 俺にお礼を言ってくれるだろう。
これこそ運命。メイサ~~。
面が外れた。「メイサーー」

鬼の笑顔は、眩しかった。
「なんで 唐沢・・・・」
鬼は、メイサでなかった。
俺は、この男を守っていたのか・・・。
全身から力が抜けた・・・帰ろうと振り向いた時、
役所の顔が目に入った。役所も驚きの表情だった。
「それは、俺の役だろ・・・」とつぶやきが微かに聞こえた。

悪夢 ⑦

文中に登場する団体・個人は、実在したとしても 本作品とは一切関係ありません。
あくまでも 作者の悪夢を書き綴ったものです。

悪夢 ⑦

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-17

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