占い始めました
黒い背広にピンクのネクタイ男が、凍えるように震えながら言った。
「さむっ!こんな寒い日は汁物が恋しいな」
大袈裟に両腕をさすりながら、
「ちょうどよく、ここにラーメン屋がある。おっ、なんだこの、のぼり旗は?」
眼を細め、まじまじ見る仕草をする。
「占い始めました・・・・・・は?冷やし中華始めましたのパクリか」
「へい、らっしゃい!」
白いタオルを頭に巻きつけた店主が威勢よく叫んだ。
「いや、まだ入ってないって」
驚く背広の男がぼやく。かまわず、店主は笑顔で聞いてくる。
「こんな冷えた冬に熱々のラーメンでもいかがですか」
「ラーメンは食べたいけど、占いって何?あっ、あれか。昔、喫茶店のテーブルによく置いてあった100円で占う、あれ」
背広の男は店主を指差した。
「違います。うちはラーメンで占います。ラーメンを食べて占うんです」
「ラーメン食べて占う?」
「そうです。ラーメン食べてスープを飲み干したどんぶりの底の、スープやらの残った模様で占います」
「それ、俺ムリ。だって高血圧だからスープなんて飲み干せない」
片手を振って背広の男は否定する。
「それならチャーハン占いはどうでしょう」
「チャーハン占い?」
「食べ終わったチャーハン皿に着いた米粒具合で占うんです」
「俺はチャーハンはパラパラ派ね。米粒が皿に着いちゃうチャーハンは好みでない」
断るように手のひらを店主に向けた背広の男だった。
「まだまだあります」
「今度は何!」
「ズバリ、餃子占いです」
「ああ、わかった。羽根の形で占うんだ」
ポンと手を叩いた背広の男だった。
「ブッブーッ」
「なんかむかつく。違うのっ」
「餃子を食べた皿の枚数で占うんです」
「そりゃ、ただの大食い挑戦だ!」
ここで店主は、肘から先の両手を突き出して言う。
「さらに、今ならお得な、ラーメンチャーハンに餃子付きの占いコースまであります、よ」
「そりゃ、ただのセットメニューだっ!」
叫んで息が荒い背広の男は聞いた。
「そもそもなんで占いなの?」
待ってましたとニヤリ口元を曲げ店主は答えた。
「夏が終わって、冬が始まったから冷やし中華は売らない。つまり」
ここで店主は向き合っていた背広の男から、首を90度右に曲げて言った。
「冬だから冷やし中華、売らない。占い始めました」
「ダジャレかよ。いい加減にしろ」
背広の男が、店主の胸元へ右手を当てる。
『どうも、ありがとうございました』
深々とお辞儀をした二人は舞台袖へとはけていった。
観客席からまばらな拍手が聞こえてくるのだった。
占い始めました