季語になる

ぬるいまどろみから覚めて
くしゃみを小さく三つしてから
街に出た
街はまどろみの前と同じようにそこにあった
少しくらい変わってくれていてもよかったのに
そう頭の中で口にしたところで
部活帰りのあの感じが甦ってきた
あの感じだ
季節が全身の毛穴に襲いかかってくるような
あの感じ
いつか死ぬということを思い知らせてくれる
あの感じだ

無邪気さが人を殺す
とかなんとか
わかったようなことを考えながら歩き続けた
私が歩くことで季語になる
石、手摺り、コンビニ、クラクション、小田急線
貪欲な目が、耳が、街を舐め取ってゆく
捏造された時間を生きるということ
生き切るということ
鉄のフェンスが嬉しそうに光っていて
夏はまだ終わっていないという錯覚に陥った
私は今日一日、
辞書のように黙ったまま歩き続けた

季語になる

季語になる

詩誌『月刊ココア共和国 2020年11月号』(電子版)に佳作として掲載された詩作品です。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-28

Copyrighted
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