手のひらの翅
骨のように白い翅をはばたかせた蝶が目の前を横切って、死にたいと思った
柔らかな秋の陽射しを背中に浴びながら
遠い昔のことを考えていた
朧気に 何かを偽るように笑う瞳の奥底には
誰にも解らない 深い哀しみが湛えられていた
言葉ではどうにもならないことがあるという残酷な事実を前に
僕はただ憮然として 沈黙することしか出来なかった
何かが終わるたびに何かが始まり、何かが始まるたびに何かが終わる
絶え間なく、目まぐるしく移り変わるその光景が
価値という価値を無遠慮に踏み潰していく
僕はそれらを拾い上げては 一つひとつ修復していく
言葉に一切頼ることなく、淡々と修復していく
まるで自分だけの廃墟を築き上げるように
自分にしか視えない居場所を創り出すように
余計な言葉なんて、要らなかった
失って初めて気付くなんてことがあるから
最初から何も抱えずに 背負わずにいたいだなんて、そんなの
そんなの当たり前だけど 傲慢じゃないか
未熟さを盾に目を逸らして逃げていたのは
君から逃げつづけていたのは 僕の方じゃないか
一人で苦しみ抜くことが強さなら、そんな強さは僕は要らない
強さとは理解し切れなくても、最後まで寄り添い抜くことだ
次に目の前に手を差し出す役がどちらになるべきか
僕はもう とっくに判っている
手のひらの翅