赤い蝶の見る夢
楽園、というなまえの、繁華街にある、夜にだけ営業しているお店の前で出逢ったひとの、おおきく開いた胸元に、赤い蝶がいて、吐き気とともにこみあげてきたのは、えもいわれぬ感情だった。
恋に近いと云えば、そうであるし、拒絶反応にも似ているような、単純明快ではないそれに、微かに震えるのは、指先で、赤い蝶は、わたしの網膜に、はっきりと焼きついてしまった、もう、月も、星も見えない。
夜明けという瞬間が、すべての終わりであると妄信して、夜だけを生きる者たちが蔓延る世界から、切り取られた街で、わたしたちは、呼吸をしているだけで、ゆるされた。明日を希望とする人類が、恋しい。
いやしくもみえる、スパンコールのドレスをまとった女の胸に留まり、蜜を吸うかのように、蝶は羽ばたく。
遠くの知らない国が、今頃、幸福に満ちているかもしれないと思ったら、馬鹿みたいに泣けた。
赤い蝶の見る夢