夜をかぞえる

 気味悪く、なぞるような。あばらを駆けてゆくさびしさのことを、きみも知っているかもしれない。
 その瞬間が訪れて、ぼくが思い浮かべるきみが、だれを思い浮かべるだろうかってかんがえて、またあばらが軋む。でもそれは、ただ、ぼくのこと。きみがどうこうということではなく、ただ、ぼくのこと。
 秋が颯爽と過ぎさってゆくのを、どうにかつかまえようとして、金木犀のなかをあるく。このにおいにつつまれて、きみのことをしずかに想っている、おだやかな時間を、だれにも知られないようにたいせつに仕舞っている。きみにはいちばん、知られてはいけない。
 想うことは勝手だって、だれかが言う。それはそうなのだろうけれど、勝手だって言える自信が、ぼくにはないな。
 この苦しみも、ぼくのこと。きみのせいじゃない。伝えるのも勝手だって、それはぼくにはなかなかそう思えなくて、きみへの気持ちはほんものなのに、不甲斐ない。
 高密度の金木犀のなか、逃げ場のないここで、だから練習をする。溺れる練習をすれば、溺れていたって問題ないのだ。吸って、吐いて、きみを想えば、ぼくは平然と夜をこえてきみのとなりに、いられるのだ。

夜をかぞえる

夜をかぞえる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-24

CC BY-NC-ND
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