潮力発電について

潮力発電について

ぼくらにシカトされた未来が、たましいよりも軽く空気中を漂っていて、月光に導かれていく。死に顔のような受精を、死神はやさしく受け入れる。シブヤにはいつくばっているうちは、見えやしないその光景。きみの絶望の次くらいに美しい光景だったのに。血液のみなさん、明日も循環しといてください。
ヘッドフォンを外したら月夜だった。街灯と街灯に挟まれて月が浮かんでいた。100年前も100年後も、月はどこにでも平等だから、引力で肝臓がはちきれるような気がした。未来もなにもわからないうちにぼくもこのまま月に吸い込まれてしまうかもしれない。児童公園の前で視界がくらくらした。それでもぼくの美しい思考は地上1.2mくらいで静止していて、これってなんだか潮力発電みたいだな。涙がこぼれないように上を向いて歩くんじゃない。上を向いて歩くから涙が溜まっていくんだよ。
まったく、必要以上に数学的な美しさが保たれているんだな。すでにもうぼくの眼球はなくなっていた。月がぼやけて見えるのはきっと、そこに吸い込まれているせい。静かに受容すれば、流産の子と正弦曲線が見える。それでも月にとってぼくは異質なエネルギーのかたまりで、やんわりと拒絶されている(と、ぼくは思いこむ)。あくまで潮力発電のための機械だと誰が宣言したのさ⁉ 命から切り離されてもまだからだが絡まってはずれない。近未来系の機械だったと、いよいよ月にまでうわさが届いた。いや違うな、そうじゃないな。留年みたいだ。いや違うな、ただの発電と放電だ。いや違うな……。
ぼくはふたたびヘッドフォンをつけた。急ぎ足で家に帰る。

潮力発電について

潮力発電について

まったく、必要以上に数学的な美しさが保たれているんだな。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-23

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