人気者
こいつは今、誰もが知る人気俳優となった俺の友人だ。オフなのか何なのか電話で連絡をくれたから逢うことになった。
待ち合わせ場所であるアーケイドの付いた商店街中程にある喫茶店に普通にいた。
「だいじょうぶなん?」
「ん?なにが?」
「何がって、顔バレとかさ」
「そんなのはひと昔前の話だよ。今はアイドルが歩いていても誰も気にしないよ」
「そんなもんかな?」
「そんなものだよ」
会計を済ませて喫茶店を出る。適当に商店街を歩いていたら、案の定女子高生三人組に気付かれた。
「ですよね?」
いきなりな問いかけだ。俺たちは聞こえないふりで、そこに女子高生なんか存在しない感じで会話をしながら歩いた。
散々鹿十された女子高生達は納得がいかない感じで諦めた。
「ほらね、なんともないだろ?」
「気付かれたじゃんか」
それでもコイツは全くそんな事気にしないでサブカルチャーショップが数多く出店している行きつけの雑居ビルに堂々と入った。
暫くはマニアックな漫画や同人誌なんかを扱う店を見て回っていた。三軒目の店に入ろうとしたところで背後に気配を感じた。
振り返ると男が居た。黒いスーツを着ていて、背は高かった。スキンヘッドで顔もツルツルだった。
俺たちは店の前を素通りして様子を伺うと、スキンヘッドの男は店に入っていった。考えすぎだったかと不意に振り返ると、さっきの店の入り口からあの男が此方を見ていた。
「見てるぞ」
「見てるな」
「どうする?」
「どうするったって、何も悪いことしてねぇし」
「とりあえずこのビルを出よう」
俺たちはエレベーターを使わずに階段で下へ向かった。一段飛ばしで駆けおりた。ビルを出て直ぐ横の狭い路地を曲がると、壁を背に息を潜めた。
影のようにあのスキンヘッドはヌルッと現れた。俺たちは息を飲んだ。スキンヘッドは手をスーツの中に滑り入れた。
ヤバいと思い、走り出そうとした時、スキンヘッドは口を開いた。
「すみません。ファンなんです、サイン頂けますか?」
手にはサイン色紙を持っていた。
コイツは気軽にサインに応じ、握手までしている。スキンヘッドは頭を下げ去って行った。俺は思った。
人気者は大変だなぁ。
終
人気者