とある、夜の泉に、小さなガマガエルが鳴き声を上げていました。この、泉は澄んでいて、星空の美しさを反射しながら湛えています。静かな、それはもう、静かな夜でした。私は夜を見守ってきましたので、このガマガエルの苦しみはよく知っているのです。彼女は、みな美しい容貌の持つ、カエルの国に生まれ落ちました。だれもが、容姿に自信を持ち、美しさを競い合っていました。ですから、その時から、蔑まれ、月や星を見上げ、ひたむきに生きてきたのです。彼女の、豊かな精神の弾力と、深い愛情は、しかしだれも見抜けないのでした。だれもが、呪われた子、として遠くからひそひそ、と小言をいうのです。王子様は、そんな子などいなかった、と宣言し、国を追われました。そうして、流浪の末にここにたどり着いたのです。ああ!神には見えますとも、あなたの輝くばかりの、美しさを。わたくしは、彼女の涙から、生まれた神さまなのです。しかし、お許しくださいね。私は、あなたのかなしみ。哀しみとは、透明なのです。ゆえに、私は彼女になにをする術もありません。彼女が、息絶えた時に、私もまた泡のように弾けるのです。ですから、あなたは孤独でしょう。今こうして、泉に身を投げ出そうとしてる!けれど、私はここにいますよ。あなたを見守っていますよ。そして、なにより愛しておりますよ。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-19

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted