うわごとすべてが詩に還るまで
いつからか 何かの病熱に浮かされている
何かの足音が 私に近づくその音が
ひっきりなしに聞こえてくる
それは希望の兆しか はたまた絶望の兆しか
否、そのどちらもであるのだろう
まるで鎖縁の友人か 血縁を結べる兄弟のように
そのふたつは 一方がもう一方を従えることはなく
ふたつとも同じ顔をして 肩を並べて迫ってくるのだ
ああ、この疎ましくも憎みきれない病熱よ
お前の息の根を止める覚悟が この私にあったなら!
果たして私は本当に
正気を取り戻せるのだろうか?
果たしてそれは絶対に
私の本望といえるのだろうか?
悔やんでも悔やみきれない
変えられない結末がその先には待っている
その延長線上に今の私がいるというのなら
一刻も早くこの列車から 飛び降りなければならない
身を抛たねばならぬのに
私の手は 足は 声は 覚悟は
どうしようもなく顫えている
誰ひとりいない丘に咲ける
一輪の花の妖しげな香りに
いつまでも いつまでも惑わされている
後ろを振り返れば
青い顔をした私の亡骸が
そこかしこに横たわっている
私はあれと同じになるかもしれない
あの風景の一部になるかもしれない
そしておそらく今ここにいる私が
最後の一人になるかもしれない
うらぶれたる私の心臓に
咲ける一輪の馨しい花
それが私のすべてであるなら
この毒を最後まで味わい尽くして死ぬことも
さほど悪くはないかもしれない
ゆうべはいやに綺麗な夢を見た
私はそれを細部まで憶えている
あの丘の頂には
黄昏時にだけ姿をあらわす花がある
私は今、その丘の頂にいる
臆することなく 躊躇うことなく
最後の花を摘み 最後の蜜を吸い 最後の夢を見た
毒であるはずの毒を口に含んだその時
私は全く苦しくなかった 寧ろ陶然とした
黄昏時に見た ひとときの夢
最後の夢
私は目を閉じるその時まで
花の蜜の味を 鮮明に思い出していた
うわごとすべてが詩に還るまで