月下
雨上がりのベランダに出て、昔を懐かしむ。こんな夜には友だちのところへ出かけて、彼女のバルコニーでお茶会をしたものだ。
嘘をつかなくていい世界へ出かけたい。月は人を裁かないから、私たちのテーブルでは泣くのも沈むのも自由だった。気丈にしていなくてはいけない、威勢のいい言葉しか許されない、本当の気もちを言えない、本当の表情を見せられない世界では、どんなに褒められたって、人間は結局、孤独なんである。
泣きたいことは泣くのが一番の慰めになることを、太陽の世界の人たちは認めない。月下、取り残されたベランダで、叶えられないことを願う。あのバルコニーで、ラベンダーの香りの紅茶にミルクを入れて、私の最後の小麦粉で焼いたクッキーを彼女と食べたい。あの子が好きだったハチミツ入りのカモミールティーは、満月の色。
月下