祈り、約束、僕らの記憶

なあ、忘れたことの中にしか

本当に手に入れたいものがないと気付いた時

僕はもう 生きられないと思うんだ

だから書いてるんだ 自分の為だけに詩を書いている

みずから心を引き裂いて

その裂け目から溢れ出るすべてを

僕は憎みながらも 心の底から愛している

つまらないものなんて一つもなかったことを

自分の中身を 疼きを抉り取っている時にだけ

今まで生きてきたことと

今生きていることを全身で感じることができる

ボロボロになった記憶が

あの時と同じ熱をもって 眼前に迫ってくる

自分の今の体温との差に

打ちのめされることだって何度もあった

それでも僕はさ、やめられないんだよ

どうしても、やめられないんだよ

書くことをやめたら、きっと忘れてしまうから

そしたら、君のすべてを失ってしまう

君を忘れた僕は、何も書けなくなった僕は

何処にも行くことができない

何も目に映すことができない

もう自分のことさえも

忘れてしまうかもしれない

死に方、そして殺し方は二つあるということを

教えてくれたのは君だったよな

君はそれを最後の最後まで実行してくれた

僕の目の前で永遠のかたちになってくれた

僕はその夜、

想い出に生かされることの

尊さと儚さを知った

君はもう隣にはいないけれど

僕の隣にいた君の記憶は今も息づいている

僕の隣で息づいている

僕はそれに生かされている

きっといつまでも、それに生かされている

忘れないことが僕達の祈りであり、答えだった

これから僕は一人で年老いていく

君が欠けた世界を一人で生きていく

それでも僕は信じつづけている

君との祈りを、

約束を、

君のその声を信じつづけている

僕は一人になってようやくわかった

手に入れたいものは気付いていないだけで

最初から手にしていたということ

僕が記憶で 詩で僕を生かすことは

死ぬまで君に生かされつづけるということ

君は今も

僕の心の中で 優しく笑いかけてくれていること

そのすべてが君の魂であり

僕の魂でもあるということ

君はわたしのすべてなんだよ

僕は今になってわかったよ、君のその言葉の意味を

僕は君と

君に繋がる記憶のすべてを胸に生きていく

君の記憶と共に死ぬ

それが僕が、僕と君の為にできる

唯一の祈りになると

僕は死ぬまで信じてるから

祈り、約束、僕らの記憶

祈り、約束、僕らの記憶

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-14

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