密室

密室に集められた謎

「ここは…どこだ…」
目を覚ました俺はあたりを見渡した。ここはどこなのか?なぜここにいるのか?
頭を働かせたいがズキズキ痛む。手を当ててみると握りこぶし大のたんこぶがあった。なぜたんこぶがあるのか分からないが、おそらく殴られてここに運び込まれたのだろう。警察に連絡しようとスマホをジャケットの内ポケットから取り出して電源を入れたが、圏外になっていた。
「ちくしょう!」
俺は心を落ち着かせようと煙草を探し、火をつけようとしたところ背後から声をかけられた。
「煙草はやめてくれ。ここには窓がないんだ」
俺は驚いて振り向いた。するとこちらをじっと見つめながら壁にもたれて座っている男がいた。
「誰だ!ここはどこだ!」
俺はつい語気を荒げて尋ねた。
「落ち着け」
男は諭すように俺に答えた。
「落ち着いてられるか!ここはどこなんだよ!なんで俺が…」
矢継ぎ早に質問しようとしている俺を遮るように男は手を挙げて
「落ち着け。俺もついさっき目を覚ましたんだ。ここがどこかはわからん。とりあえず部屋を探ってみたがそのドアは開かない。窓もない。いわゆる密室に閉じ込められている状況だ」
俺は落ち着こうと再度煙草に火をつけようとライターを口元に持ってきた。
「おい煙草はやめろと言っただろ。煙草は嫌いなんだよ」
男はこちらを見据えながら声を荒げて言った。俺は換気扇の下に行き
「すまない。吸わないと頭が回らないんだ」
と言って煙草に火をつけて男に尋ねた。
「ここがどこかは分からないんだな。じゃああんたは誰なんだ?」
男は深いため息をついた後そばにあったジャケットをもって立ち上がり、何かを探しながらこちらに歩み寄ってきた。そして俺の目の前まで来ると名刺を差し出した。


「足立弁護士事務所?弁護士か?」
「えぇ。弁護士の足立康光です。あなたは?」
「俺は滝本大和。フリーのライターだ」
俺は名乗った後に名刺を取り出し足立に渡した。
「ライター?」
「そうだ。いわゆるゴシップ屋だ。芸能人なんかを追っかけてスクープを撮る」
俺はそう答えながら手帳を取り出した。この手帳は俺の仕事道具の一つだ。ありとあらゆるターゲットの情報が載っている。手帳をペラペラめくりながら俺はあることに気付いてあたりを見回した。
「おい。カメラを見なかったか?」
足立は指をさしながら答えた。
「そこにありましたよ」
足立が指さしたほうを見るとカメラがあったがそれ以上に驚くものがあった。最初部屋を見渡した時には気づかなかったが、男が毛布を掛けられている状態で倒れていた。
「おい!他にも人がいるぞ。」
俺は足立に言ったあと倒れている男に駆け寄った。
足立はその場から動かず
「あぁ…」
とだけ答えた。
倒れている男に近づくと息はあるようだった。俺は男の肩をたたきながら声をかけた。すると男は目を開けて俺を見た後ひどくおびえた様子で壁まで這って行き言った。
「やめてくれ!やめてくれ!」
俺は意味が分からずただ男を見ていた。すると背後から足立が
「落ち着け。俺たちは何もしない。落ち着け」
と言いながら男に近づいて行った。男は疑うような目つきで足立を見ていたが、足立に敵意がないことを感じ取ると口を開いた。
「あなたは誰ですか?ここはどこ?」
足立は落ち着いて静かな口調で答えた
「私は足立。弁護士です。こっちは滝本さんでフリーのライターをしている。ここに関しては私たちも分からない。ところで君の名前は?」
男は足立の諭すような口調にほっとしたようだった。そのあと俺も足立も驚くような勢いで喋りだした。

「俺は山本尚樹29歳。普通にフリーターやってます。さっきはすみませんでした。いきなり襲われたんですよ!で気づいたらここにいてビビっちゃいましたよ。これ誘拐ですよね足立さん。弁護士だったら何とかしてくださいよ。誘拐ですよ誘拐。なんでこんなとこに拉致られたんですかね?2人も襲われたんですか?でも2人ともけがしてませんね。俺だけ殴られたのかよちくしょう!」
山本は口元の傷を舐めながらしゃべり続けた。
「だいたいなんで誘拐されなくちゃいけないんですか?俺なんもしてないんですよ?意味わかんねぇ。そのドア開かないんですか?いや開くなら出てるか」
山本は自分にツッコミを入れながらドアに近づくとドアノブを回したが当然開かなかった。
「はぁー開かないか。どうすりゃいいんだよ!そうだ警察!」
山本は携帯を取り出そうとボディバッグを探り出した。
「圏外だよ」
俺がそう言うと山本は驚いたような顔を向けた後、スマホを取り出し画面を見つめた。
「ほんとだ…」
山本は先ほどまでの勢いがなくなり、ため息をついた後ドアにもたれてスマホの画面を見つめ続けていた。俺と足立はその様子を見たあと目が合ったが何も言いだすことができずただ沈黙が流れた。俺はこの状況をどうしようかと悩んだが、何も思いつかなかったので圏外と表示されている自分のスマホをただただ見つめることしかできなかった。


 俺はこの沈黙の中なぜ自分がここに連れてこられたか考えていた。ここで目が覚める前の最後の記憶を思い出そうと手帳に目を向けると、自分の筆跡ではない文字を見つけた。それは3文字のアルファベットで
『PPH』
とだけ書かれていた。
何の意味があるのか。誰が書いたのか。
考えてみても答えは出なかった。そこで当初の目的通りここに来る直前に何があったのか思い出すため直近の予定を確認した。手帳によると新人演歌歌手の宮林幸助の不倫現場を撮影するために彼の自宅マンションに張っていたらしい。日時は4月20日の19時となっている。今の日時は21日の午前11時。たんこぶの腫れ具合からいっても張り込みをしているところを殴られたのだろう。殴られた前後の記憶は思い出せなかったが、山本も殴られて連れてこられたようだったので話を聞いてみようと近づいた。山本は依然としてドアにもたれたままスマホを眺め深いため息をついていた。
「ひどいやられようだな。誰にやられたんだ?」
俺は山本の体中にある青あざを見ながら尋ねた。
「わかりません。顔見る暇もなかったんですよ。いきなり襲われて」
「襲われる直前は何してた?」
「バイトしてましたよ。工事現場の誘導員やってて、それが終わって駅に向かう途中に襲われたんですよ」
「何時ごろ?場所は?」
「昨日の21時過ぎです。場所は上野です」
山本はスマホを見ながら答えた。­­足立はドアから見て右の角にあるテレビやデッキを調べていた。こちらをチラチラ見ることがあったのでおそらく会話は聞いているだろう。俺が会話の記録をとっていると山本が尋ねてきた。
「名前は滝本さんでしたっけ?」
「あぁ」
「滝本さんはどうやって連れてこられたんですか?」
「俺も殴られたんだ」

続く…

密室

密室

初めて小説書いてみます。時間があるときに書き足していくスタイルです!

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-11

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