僕には血を求める僕がいる。
突如異世界に飛ばされてしまった主人公。
彼らには壮絶な"運命"と
乗り越えねばならない"過去"があった_________________
第1章「血の盟約を、そして封印を」
0話 - 始まり -
赤い月が昇る夜。
「本当にいいのか?」
顔をすっぽりとフードで隠した男がつぶやく。周りには誰もいない_ように見える。
<うん、いいんだ>
だが何処からか声がする。暗く響くその声は女性のものらしい。どこか悲しげなその声に男は答える、
「なら、いいけどな。でも、もう戻れないぞ、ココには」
<そんなことは承知の上だ>
「わかった」
男は右腕を目の前にさし出す。ところどころに傷跡のある筋肉質の腕だ。
<咎の怒りと共に>
すると突然男の目の前が光だす。
「くっ・・・」
一瞬の出来事だ。光が止むと赤い月は金色の美しい月に変わっていた。その月明かりに照らされた男は、いやもうそこに男はいなかった。
男がいたところには巨大な樹がそびえ立っていた。若葉を茂らせたその樹の根元にはぽつんと小さなお墓があった。花も何も備えられていないそのお墓にはこう書かれていた。
<僕を見つけ、僕を殺し、僕を愛して>
訳のわからないその言葉は何かを訴えかけるかのように消えることはなかった。
1話 - 異界 -
気がつくとそこは巨大な木々が生い茂る森の中だった。周りにはコケの付着した石、見慣れない草が生えていた。零我はまだちょっと気だるいからだを起こす。
「いてて・・・」
頭が、いや体が重い。なにがあったのか思い出せない。たしかものすごいことが起こったような気がする。だけど思い出せない。
バチッ
と、何処からか音がする。
「火?」
この音はたき火とかやると聞く「バチッ」に似ている。だが周りには人気はない。いや、ないというより感じられない。ふと気付くと零我の足はブルブル震えていた。
「しっかりしろ、おれ」
震える両足を強引に殴る。すると目の前の茂みからガサガサと音がする。
「・・・!?」
自然に零我は身構える。昔いろいろやってて良かったな・・・、と今さらながら思う。とりあえず熊とかだったら逃げよう、と決意。だが茂みから出てきたのは熊はなかった。
「零我?」
「氷空?」
茂みから現れたのは友人の桜木氷空だった。氷空も髪に葉っぱや木の枝をくっつけ、泥だらけだった。不意に零我は力が抜けるのを感じた。ともかく一人でいるよりは二人のほうが何かと心強い。
「お前、何があったか覚えてるか?」
氷空が髪や服に着いていた泥を落としながら聞く。
「いいや、全然。お前の方は?」
「こっちも全然、ただ何かスゲーことがあったのはうっすらと覚えてる、ような気がするんだ」
「それ、おれもそんな気がしてるんだけど」
思い出せない。さっきから頭の中をよぎっている"不安"も、何か思い出せない。
ん?何か忘れてないか?
「・・・火。そうだ、火だ!!」
零我は勢いよく立ちあがる。それがいけなかった。零我と氷空はコケの付いた岩に座っていた。説明するまでもない、零我は足を滑らせ岩の下まで滑っていった。
ドーン
イキのいい音が辺りに響く。
「おい、大丈夫か?」
大丈夫じゃねーって。つヵ、返事できねぇよ。
「あぁ、なんとかな」
地面に強打したお尻をさすりながら立ち上がる。
「ハハハ、大丈夫そうだな」
ちょうど氷空は俺を見下ろす体制。あぁ、殴りたい衝動に駆られる。いつもはそんな風に思わないんだが、このおかしな状況が造り出すのだろうか、友人の氷空でさえ殴るべき対象に見えてくる。いかんな・・・。
「で、火ってなんだ?」
「そうだ、火だよ火。さっき火のバチッって音が聞こえたんだよ」
氷空と会ったことで完全に忘れていた。零我はもっと冷静でいようと思う。
「そんな音したか?」
「したって、絶対!!」
零我は珍しく声を荒げる。
「いいや、してない!!」
「絶対にした!!」
「してない!!」
「した!!」
氷空と零我は徐々に顔を近づけながら口論する。傍目から見ればキスしそうな勢いだ。その傍目から見たやつがいた。
「おまえら、男同士でキスすんのか?」
聞き覚えのない声がする。んなわけねーだろ、だれが男なんかとキスするか。いや、将来ニューハーフと付き合うことになったらキスするのかもな。いやおれは絶対にニューハーフとは付き合わねえけどさ。
「んなわけねーだろ!!!」
零我と氷空。息をぴったり合わせる。そこには珍しい格好の男が立っていた。両腕と顔の半分を包帯で巻き、服はチャイナ系のものらしい、裏地の黒いマントを羽織ったその男は、よくファンタジー小説などで出てきそうな風貌をしていた。
「そ、そうなのか」
男は二人に圧倒され、少し小さな声で返事をする。
「てか、お前らこんなところで何してんだ?」
男が思い出したように聞く。ようやく零我と氷空もそれに気づく。"この男はだれだ?"ということに。
「えっと・・・」
「おい、氷空どうしたんだよ」
急にモジモジし始めた氷空を零我は小声でつつく。
「いやなんて言ったらいいんだよ」
「ここはどこなんですか?って聞けばいいじゃねーかよ」
さすがおれだ。さっき冷静でいようと決めただけはある、こんなときでも的確な判断。誰かおれに勲章頂戴、一番ヘボいやつでいいから。零我は自分で自分に勲章を与えた。
「それより、ここはどこなんですか?」
氷空は零我の言うとおりに男に質問する。すると男は突然笑い出した。
「アハハハ。そっか、お前ら"迷い人"だな」
「迷い人?なんですか、それ?」
だが男は笑い続けたままだ。二人はどうしようか迷ったが笑い終わるまで待つことにした。
なげぇよ、笑いすぎだっつの!!どんだけ笑えば気が済むんだ、こいつは。心の中で怒る零我。
何がおかしいんだろ。俺らの格好?おれらの格好がおかしいのか!?確かに泥だらけだからな。意味不明な解釈をする氷空。
だがそんな二人をよそに男は笑い続けた。いい加減うるさくなってきた。
「あぁ。わりぃ、つい笑いすぎちまった」
5分はしただろうか。ようやく落ち着いた男は涙目をこすりながら零我と氷空に向き直った。
「えっとなんだっけ。ここはどこ?だっけか」
「はい」
「まぁ、信じられないかもしれないがここはお前らがいた"世界"とは"別世界"だ。俺らはこの世界の事を"ファニアス"って呼んでる」
この時零我は初めてファンタジー小説なんかで別世界に飛ばされた主人公たちの気持ちを理解することができた。ずばりそれは"全てが真っ白になる"ということだ。
「・・・、マジ?」
「うん、マジ」
「夢じゃなくて?」
「夢じゃなくて」
「本当に?」
「本当に」
「別世界?」
「別世界」
一通りの確認を終えた零我・氷空はお互いを見つめあう。そしてほぼ同時にお互いの頬を、いやもはや顔面を殴りつけた。
「い・・・てぇ、ってことは夢じゃない」
「いてっ、舌噛んじまったよ」
そんな二人を男はだまって見ていた。ちなみにさっきのは零我・氷空の順である。読者にやさしい解説。
「そろそろいいか?」
しびれを切らした男が声をかける。零我も氷空もこれが夢じゃなく現実の出来事だということはすでに理解していた。
「えぇ、まあ」
「それより、あんたは一体だれなんだ?迷い人っていったい何なんだよ」
「おれはヴォートム、ヴォートム・リノミティー。迷い人っていうのはお前らみたいな別世界から人間の事を言うんだよ」
落ち着いた声でヴォートムは零我の質問に答える。実に的確、零我はすぐに納得した。
「で、お前らどーするんだ?」
ヴォートムが唐突に二人に聞く。
「どーするって・・・」
氷空は困って零我に助けを求める。だが零我はそっぽを向く。
すまん氷空、あとでたこ焼きおごってやるから許してくれ。お好み焼きでもいいぞ。あ、元の世界に帰れたらな。
「ま、どーせ行くあてなんてないよな。一緒にくるか?飯くらいなら用意できるぞ」
氷空と零我は心優しいヴォートムと一緒に行くことにした。
たこ焼きはお預けだな氷空。うん、これで無駄な出費が減ったぞ。あ、でも元の世界に帰れなかったら関係ないか。
ヴォートムは以外にもかなり遠くでキャンプをしていた。零我達がつくとそこには墨になった木々が散乱していた。
「今から飯にするところだ、この森は夜は色々と危険だからな」
そういうとヴォートムはいきなり手から火を出した。
「うぉ!?」
氷空が驚き飛び跳ねる。だが対象に零我はびくともしない。
フッ。この程度で驚く俺じゃないぜ、ここが別世界ならこんなことはあって当然。氷空、まだまだだな。
心の中でひそかに勝ち誇る零我であった。いや、なんで勝ち誇っているかなんて零我自身も分からないんだけどね。
「ちょっとここで待っててくれ」
「え」
「飯の調達にいってくる。おまえらバリサナの肉は食えるか?」
いや、いきないバリサナとか言われましても。さっぱりわからん。とりあえず「はい」と零我は答えておいた。どんなもんかは知らないがともかく肉なら大丈夫だろう。安易の考えの零我は知らなかった、バリサナの肉の"本当"を。
「ん、どうした?食べないのか?」
たき火でこんがりキツネ色に焼いた骨付きのバリサナ肉を豪快に食べるヴォートム。だが対象に零我と氷空は一口も肉を食べていなかった。
「まだ生だったか?バリサナの肉は生だとまずいからな」
そういってヴォートムは二人の肉を再び焼く。だがそんなことはもうどうでもよかった。生だろうが黒こげだろうが、もうそんなことは二人にとっては些細なことでしかなかった。
「なんなんですか、これ」
「え、なにって骨付きバリサナ肉だけど」
「いやそうじゃなくて」
「え、じゃあなに」
「いや、だからそれは」
なんでわかんないんだよ!!普通分かるだろ。いや、ここは別世界だ、こっちじゃこれが普通なのか?
自分なりに納得した零我はその"疑問"、いや"間違い"を指摘した。
「なんで肉が緑なの?」
そう、二人が肉を食べなかったのは、肉の"見た目"が原因だった。普通にくは赤い、脂がのっていればピンク色か。だが緑色の肉が目の前にある、生の段階では普通に赤かった。それこそ脂もほどよくのった最高級の肉に見えたくらいだ。だが焼いて見ればあら不思議、たちまち緑色に変色してしまったのだ。しかも焼けば焼くほどその緑色は濃くなり、さらに独特の匂いまで発する始末。さすがに異世界にいて、自分たちが空腹限界状態に居たとしても、コレを食べる気には到底ならなかった。
「もしかして色が気に入らないのか?」
ヴォートムが「もしかして」と語る顔で聞く。
その通りだよドアホ。普通に気付けよバカ。
「でもな、これがバリサナ肉の特徴だしな」
ならおれは食べねえよ。もうその辺の木の実とか雑草とかで我慢するよ。
何があっても肉を食べないと誓う零我であった。色ぐらいで拒否するなよ、バリサナ肉が可哀そうだろ?
「でもさ、そう言わずに食べてみろよ。これ町じゃかなりの高値で取引されてる高級な肉なんだぞ?」
その言葉に零我と氷空は言葉を失う。
「これが高級・・・」
信じられない。氷空は驚きを隠せなかった。
一方の零我は肉を手にとり何やら黙祷を唱え始めた。
「氷空」
「ん、どした零我」
「おれがこれを食って死んだらお前も一緒に死んでくれ」
「ぶっ、なにいってんだよ縁起でもねぇ。大体肉食って死ぬってどんだけだよ」
だが零我の決意は固い。零我は恐る恐る肉を口へと運び、そして一口。
ガブッ
かぶりついた。とたんに肉汁があふれ出す、そして肉の表面を伝い火の中へと消える。
「どうだ?」
もぐもぐと肉を味わう零我。それを見守る氷空。それを見守らず、ただひたすらに肉を食べるヴォートム。おかしな三人だった。
さてかれこれ2分は肉をもぐもぐしている零我である。だが彼はいま必死に口の中で死闘を繰り広げていた。
やべ、肉が歯に挟まった。どーしよ、舌で取れるかな?
もごもご。
おっ、取れたとれた。うわ、このスジ固いな。これは後で吐き出そう。
もぐもぐ。
いてっ。やば、舌噛んじまったよ。食い辛ぇな。
てな感じで零我は次々と襲ってくる悲劇(?)と戦いながら緑に焼けたバリサナ肉を食べていたのである。正直味なんてわからない。だって血の味で口の中がいっぱいだから。
「どうだ?うまいか?」
すでに冷めきった肉を片手に氷空が聞く。だが零我は先程の死闘によって残りHPはほとんどなかった。必然的に答える気にならない。
「ふつー」
そう言って零我は肉をヴォートムにさし出す。しつこいようだが先程の死闘で、もはや食欲すら湧かなかった。そんなに死闘だったか?
「ん、いらないのか?」
こくり。
「じゃ遠慮なく・・・」
零我から肉をもらったヴォートムは再び肉にかぶりつく。太るぞ、お前。
「そろそろ寝るかな」
疲れもそろそろ限界だ。零我はヴォートムが用意した布にくるまる。この布はリュラといい、見た目はすごく薄いが、実はかなり温かい。ヴォートム曰く「これが一枚あれば夜の寒さなどどってことない」らしいが、実際にその通りだった。
零我は温かなぬくもりに包まれながら深い夢の中へと落ちて行った。
「寝るの早っ!」
骨付きバリサナの肉を食べるのを諦め、木の実を頬張る氷空は零我の寝付きの早さの感想を述べる。
つヵこいつ、こんなに寝るの早かったっけか?
普段は見せない友人の素顔。これも別世界がもたらした変化なのだろうか。いや、自分で言っててわけわかんないけどね。
「それにしてもお前たちは順応するのが早いなぁ」
氷空からも肉を貰いご機嫌のヴォートム。ちょっと、口の周り肉汁だらけですよ。汚いですよ。
「まぁ、環境が変わるってのは慣れてますからね、お互いに」
過去の苦い記憶。この世界に来る前も二人は環境の劇的な変化を何度も経験している。すなわち順応能力が上がっている。
うん順応能力はLV80くらいあるだろうな。いや平均しらんけど、平均LV30くらい?
「ふ?ん、そっか」
そう言ってヴォートムはまた肉に食らいつく。
まったくよく食べるよなこの人。どんだけ腹が減ってたんだって話だよ。にしてもおれたちも相当お人よしだよなぁ、こんなわけのわからん世界で、こんなわけのわからん人と一緒に飯を食うなんて。あっちだってそう思ってんじゃないかな?「この二人は変だな」って。
そこである異変に気付く。そう、この世界に来てから。零我と会い、話してから感じていた異変、疑問。
二人?あれ、何か忘れているような・・・。
「二人、二人、二人、二人、二人・・・」
だめだ、分からない。スゲー重要なことのような気がするんだが思い出せない。
「そう言えばお前らここに来る前は何してたんだ?」
一通り肉を食べ終えたヴォートムが聞く。
いまそれどころじゃないんだよ。あ?、もう何か思い出せそうだったのに忘れた!!
ムスッとしたが一応氷空は答えた。
「えっと、普通に学校通って、普通に部活して、普通に暮らしてましたけど」
そう、今は"普通"に暮らしていた。
「いやいや、そうじゃなくて。ここに来る直前、なにをしていたのかってコト」
そゆことか。日本語って難しいなオイ。ん、日本語?そーいえば、なんでこの人日本語喋ってんだ?
「そーいえば、おれらとヴォートムってなんで会話が通じてんだ?」
素朴な疑問である。普通異世界って言ったら言葉が完璧に違うものだ。同じ言葉をしゃべる世界ならともかく。
「あー、それは簡単。おれが翻訳魔法を使ってるから」
あぁ、なるほどね、魔法ですか。うん、納得。
「翻訳魔法は自動的に発動するからな。どんな言葉で話すやつとでも話せるんだよ。さすがに動物とは無理だけどな」
なるほど、便利な魔法もあったものだ。
ん、魔法?アレ、魔法って確か・・・。
氷空の頭はまさにフル活動だ。思い出せる様々な記憶を引っ張り出しては忘れ、引っ張り出しては忘れ。その繰り返しだ。
そしてそんな作業を繰り返すこと約10分、ようやくある記憶を引っ張り出すことに成功した。
「あ・・・」
何で忘れていたんだろ。たぶん零我もこのことを思い出そうとしてんたんだと思う。
「悠兎・・・」
そう、それはもう一人の友人の名前。
「思い出したあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
氷空の絶叫が森を響かせた。
僕には血を求める僕がいる。
中2病満載ですが、許して下さい。
そして徐々に面白くなっていくと思いこみをしています。