ビターミン剤

 アイスティーに浮いているアリ程度に学校がキライだからサボった。今日で連続して三日経った。親は僕が学校に登校していると思っている。担任の教師には頭とハラワタの一部が痛むのでお休みしますと言っている。しかし明日はさすがに登校しないと教師が親に電話を掛けてくるだろう。僕はベッドの上でため息を吐いた。
 すると呼び鈴が鳴った。
 僕は面倒くさいと思ったので無視をする事にした。逆に言えば配達物がリビングにでも置かれているならば親は怪しむ事に間違いない。それで僕は携帯のゲームを起動した。ゲームを始めようとタッチをすると、また呼び鈴がなった。だが僕は無視を続けた。しかし三度目の呼び鈴が鳴った時、僕は立上り、いったい誰が呼び鈴を押しているのか見たくなった。それで玄関の方に進んでから扉に付いているのぞき穴から外を見た。そこには予想外の人物が居た。同じクラスメイトの女子生徒であった。プリントや宿題でも届けに来たのか? そう考えたが実際、僕はこのクラスメイトの女子生徒と会話をした事は一度もなかった。それにまだ午後の15時だ。学校はまだ終わっていない。というよりも何故僕の家を知っているんだ? それで僕はこの女子生徒に対して不可解に思った。
 四度目の呼び鈴がなった。
 僕は一瞬、ビクリと身体を振るわせた。女子生徒は無表情でこちらを見ていた。まるで僕が扉の前に立っている事を理解している様だった。五度目の呼び鈴を鳴らそうとした時、僕は扉を開けた。軽く、僕の半身が見える程度にだ。
「何のようだよ」
 僕は不機嫌な口調で言った。
 女子生徒は物静かな口調で答えた。
「一昨日から休んでいるから、体調が悪いのかしら」
「ああ、そうだ」
「突然、訪問してびっくりした?」
「びっくり……はしていない。どうして僕の家を知っている? それと、もう一度聞くが、何しに来たんだ?」
「お見舞いよ」
「お見舞い? 僕たち、別にそんなに親しい間柄じゃないだろ? しかもこの時間帯に? 一人で? 薄気味悪いぞ、お前」
 僕の言葉に女子生徒はクスクスと笑う。
「いいじゃない。たまには。貴方だってたまにイタズラをしたくなる気持ちがフツフツと湧き上がってくる時があるでしょ?」
「ない」
「嘘よ」
 僕の否定に女子生徒は譲らない。
「僕は気分が悪いんだ。ああ……。つまり、見舞いの気持ちは嬉しいが今日は帰ってくれないか」
「冷たいですね」
 女子生徒はそう言ってから話を続けた。
「貴方にお見舞いの品を持ってきたんです。これを受け取って下さい」そう言い女子生徒は鞄から紙袋を取り出して僕に渡そうとする。
「何だよ? これ?」
「ビターミン剤です。風邪を早く治すには栄養が必要ですからね」
「ビターミン剤? ビタミン剤だろ?」
 僕は女子生徒の言った言葉を訂正した。
「いえ、ビターミン剤です」
 女子生徒は決まりきった事のようにハッキリと僕に切り返した。
「意味が分からない」
「そうですか? いま、ちまたで有名な商品なんですよ。ビターミン剤。ほら、ビターチョコレートとかビターシュガーとかビターパイとか、あるでしょう? 苦い方が栄養があるとかなんとか、聞きませんか?」
「僕は苦いのはキライだ」
「私も苦いのは得意ではないんですが、このビターミン剤は気にならない苦さなんですよ」「なんだよ。気にならない苦さって」
「食べてみたら分かりますよ」
「イヤだよ」
「はあ……」女子生徒は下を向いてため息を吐いた。
「せっかく、貴方の家に来たんですから取り合えず受け取って貰えませんか? ケーキや餅、スナック菓子、甘い飲み物とでも一緒に飲めばいいじゃない。体調が良くなるって言っているのよ私は」
 女子生徒はイライラした様子で喋った後、無理やり僕の腕に押し込んだ。その勢いに押されて僕は紙袋を受け取った。それから女子生徒は扉を強く締めた。扉が閉じる数センチの間から無表情に戻る顔の表情が見える。僕は少し怖くなって扉が閉まってから鍵を掛けた。それから、のぞき穴から外を見たがもう、誰も居なかった。
 僕は自室に戻ってからこの薄気味悪い紙袋をどうするか考えた。重さはコンビニ弁当一個分と軽い。中を確認しようかと思ったが、何となく、見ない方が正解だと思った。それで僕は窓を開けて隣の家に紙袋を投げた。隣の家には大きな黒い犬を飼っている。とてもうるさく、良くヒトを噛み、餌をガツガツと食べていた。僕はこの謎の栄養剤が犬の腹にでも入ればいいだろうと思った。だが大きな黒い犬は姿を見せなかった。飼い主が散歩でもしているのだろうか? 僕はあくびをしてベッドの上に寝っ転がった。それから数分後、急に眠気に襲われて何時の間にか寝ていた。

 翌日、僕は起きて学校に向かった。通学路の途中にある公園に人だかりができていた。警察と消防が公園の入り口を塞いでいる。僕は野次馬をチラリと観て興味はあったが遅刻しそうだったので早歩きでそこを去った。学校に到着するとクラス中が騒いでいた。僕は仲が良い友だちに何があったのか聞いてみると、友だちは「学校の近くの公園で黒い化け物が死んでいたって! 未確認生物じゃないかって! 噂になっているんだ!」と言った。
 僕は「ふうん」と答えた。それから後ろの席を見ると昨日、僕の家に来ていた女子生徒が他の女子生徒と楽しそうに談笑をしていた。僕は彼女に近づき、肩を叩いた。女子生徒は振り向いて「なに?」と言った。
「僕の家に来たじゃん。昨日さ? あれ捨てちゃったけど、結局、何だったんだ?」
 僕の問いに対して女子生徒はクビを傾げて「ワタシ、貴方の家に行ってない。知らないもん。それに昨日はワタシ、塾でずっと勉強していた。だよね」と談笑していた女子生徒に相づちを打った。それで相づちを打たれた女子生徒はコクリと頷いた。

ビターミン剤

ビターミン剤

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted