散々な散文

散々な散文

 聴こえなかった、都会では。
 児童のはしゃぐ声が。
 虫の音が、恋の歌が。
 昼夜問わず、アスファルトの上を車のタイヤの擦る音が。
アクセルを踏むことで唸りがなるエンジン音が。
 歩いて五分の線路を在来線と新幹線の、レールを軋ませ走る音が。
 
 観えやしなかった、どうしたって。
 真っ暗でだだっ広い夜空に瞬く星々に満月。
 三百六十度パノラマ、大中小の青き山々。
 家々の塀を様々な蔦が絡み上る様。
 空き家を移動するハクビシンの光る眼。
 ネズミが屋根裏バタバタ、トタン屋根、カラスがドタドタ。
裏の畑にはアオダイショウ。

 都落ちで耳と眼が野生に還った、気がする。

散々な散文

散々な散文

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-05

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