背徳遊戯 序章
彼はよく私の頭を撫でては口元だけ緩やかに弧を描いた。
口元だけ笑っているから一見するととても不気味で嘘くさい。
けれど私は、この笑顔が彼の本当の笑顔だと知っていた。
いつも人懐こい笑顔を浮かべている彼が、私にだけ見せる不器用で嘘くさい笑顔。
その笑顔はとても哀れだったけれど、私だけのものだった。
彼の名は滝沢弥央、女のような響きの名前がぴったりな中性的な雰囲気を持った男だった。
私は二人きりの時はミオと甘えた声で彼を呼び、大勢の前では叔父さんと固く冷たい声で彼を呼んだ。
私の名は滝沢明、幼少から名前を呼ばれる際には君付けされるようなこの名前が嫌いだった。
それでもミオがアキラと甘ったるい声で呼んでくれるから、この名前が少し好きになった。
ミオは皆の前でもアキラと甘ったるい声で呼ぶから、私もミオ、と言いそうになってしまうことがよくあった。
ミオは二人きりでもそうじゃなくても、態度を変えないから私はその度にハラハラしてしまう。
私たちは叔父と姪で、そういう関係になっちゃいけないのにどうしてミオは隠そうとしないのだろう。
私が懸命にみんなの前でミオを遠ざけるとミオは本当に悲しそうな目をするから私は心が痛む。
それでも、私たちの関係は祝福されるものではないから、隠さなくてはならないのだ。
「ミオ」
「なぁに、アキラ」
間延びした声で振り向く愛しい人。
私はまだ17歳で、世間一般にはまだまだ若くて愛を語るなんて早いと非難するけど、私はミオの瞳を見る度に本当に愛しくて涙がでそうになってしまうのだ。
仕事のせいで浅黒い肌に、肩につく程度の長さの手入れもしていないのに触り心地のいい髪、切れ長の瞳。
無精ひげがいつもキスする時に痛くてちょっと嫌だけど、私はミオのことをとても綺麗な人だと思った。
「ミオ、好きだよ」
「僕もだよ、アキラ」
ミオが私の頭を撫でて、口元に緩やかに弧を描き笑み湛える。
悲しい程綺麗な笑みに、私も釣られて微笑んだ。
背徳遊戯 序章