汐
あなたの気配が染み渡ったこの部屋で
まだあなたの残り香が漂うこの部屋で
浅い、浅い呼吸をただ繰り返しているのです
長い、長い夢を見ていたような心地もします
深い、深い眠りの中で...誰にも邪魔されない場所で...
あなたは 最期はどんな表情を浮かべていたのでしょう
あの瑞々しい杏色が 水平線に緩やかに融けていくのに合わせて
あなたも緩やかに そして人知れず そこを目指していたのでしょうか
(朝を憎むあなたの目が愛おしくて
わたしはわざと寂しく笑ってみせた
感傷的な眼差しで見つめ返すあなたも
なにかの悪戯のように わざと寂しく笑ってみせた)
沖に出ると 陽はすっかり海面に融け切っていた
わたしはあの時のあなたと同じ目で なにかの果てにひとりで抗っていた
汐